第五話 お礼
「また話すって、また会うってことですか?」
「嫌か?」
「嫌もないにも、確かに助けてはいただきましたけど、初対面ですし」
(いくら何でも、初めて会った人とまた会うのは危ないと言うか、良くない、よね)
「知らない人についていくなとも言いますし……」
「さっき、『お礼がしたい』って言ってたよな」
「あっ」
確かに、思い返してみれば『お礼をさせてください』と言った。
「さっきの発言は撤回する。助けた礼として、また俺と会ってくれないか?」
自分で言ってしまった手前、断る訳にはいかない。絵里香は、変に義理堅い性格なのである。
(まぁ、命の恩人だし、会って危ないことはないだろう、多分)
「確かに言いました。それがお礼で良いなら会います。でも、会って何をするんですか?」
「話すと長くなる。今度会った時に話す」
「何するかぐらい教えてくれても……」
「大したことじゃない」
「多分な」と青年がボソッと付け足していたのを絵里香は聞き逃さなかった。一体、どういうことだろうか。それにしても、何故ここまで頑なに教えてくれないのだろう。絵里香の中の疑問がまた増える。
「あの、お礼って言った手前こんなこと言うのは厚かましいかもしれませんが、魔法云々の話もしてもらえますか……?やっぱり、あんなのを見ると気になってしまって」
あれが本当に魔法なら、気にならないと言えば嘘になる。魔法なんて、誰もが一度は夢見るだろう。本当に存在するとしたら、それは気になってしまうだろう。それに、ここで疑問を減らしておかないと、これ以上話を重ねられたらそろそろ脳がパニックになってしまいそうだ。
「無論するつもりだ。それ以外の質問も答えられる範囲なら答えよう。巻き込んだのはこちらだからな」
「じゃあ早速」
おずおずと絵里香が手を挙げる。
「お名前、教えてもらっても良いですか?」
絵里香の質問が予想外だったのか、青年がキョトンとする。
「言っていなかったか。俺は、オーカーだ。よろしく」
そう言ってオーカーが手を差し出す。
「あ、私は絵里香って言います。花井絵里香です。オーカーさん、改めてありがとうございました」
そう自己紹介して、握り返す。握ったオーカーの手は、大きく、ガッチリとしていた。ふと目を合わせると、柔和な表情で、どこか懐かしいような眼をしていた。
「良い名前だな」
「?ありがとうございます」
絵里香には表情の意味が分からなかったが、褒められたので素直に感謝する。
「早速なんだが、明日、会えないか?」
「え?」
「無理か?」
「いえ、明日は土曜日なので、一日中空いています。ただ、思ったよりも急だったので」
「じゃあ、明日の昼、ここで待っている。今日はまっすぐ家に帰れ。多分あいつは、今日はもう来ないと思うが、用心に越したことはない。なるべく光が多い道を選んだ方が良い」
そう言ってオーカーは、路地の先を指す。先ほどまでは、家に光がなかったのに、今では家々のカーテンの隙間から光が漏れている。ふと思えば、薄気味悪かった空気もなくなっている気がした。まさに、絵里香が知っているいつも通りの路地だった。
「あれ、光が元に戻ってる」
「さっきの奴が結界を張っていたんだ。だが、奴が消えたから結界も同時に消えた」
「じゃあ、違和感があったのも」
「結界のせいだろうな。もう問題はないから、帰れるはずだ」
「本当に、何から何までありがとうございました」
「気にするな。明日返してもらうしな。じゃあ」
オーカーは、そう言い残すと音もなく軽やかに電柱の上に跳躍し、家々の屋根を渡って見えなくなっていった。
絵里香はそれを眺めていると、近くの家から母親らしき人の「夜ご飯よ」という声が聞こえた。
「私も早く帰らないと」
絵里香はやや駆け足で家へと向かった。




