表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メテイの夢  作者: 月寄れい
第一部
5/5

第四話 オッドアイの魔法使い

「大丈夫か」


 スッと手を差し伸べられたので、絵里香は手を借りて立ち上がる。


「助けてくださり、本当にありがとうございました」


 心からの感謝を込めて、青年に頭を下げる。彼が来なかったら今頃どうなっていただろうか。考えたくもない。


「あなたが来なかったら助かっていませんでした。本当に、どう感謝を伝えたら良いか。是非、お礼をさせてください!」

「別に」


 青年はぶっきらぼうにそう言うが、絵里香は感謝の気持ちで一杯だった。


「勝手に割り込んだだけだ。顔、上げてくれ」


 そう言われて顔を上げる。改めて見ると、青年の身長が普段見かける男性よりも高いことが分かった。髪色といい、瞳の色といい、明らかに日本人のものではない。

 また自然に視線が瞳にいっていたのか、青年の眉に僅かにシワが寄った。


「顔になにかあるか」

「すみません。あの、瞳が気になってしまって。ジロジロとごめんなさい」


 絵里香の言葉を聞いて、青年はハッとした顔で、右眼を手で隠す。今まで仏頂面だったのに、しまった、という感情が思いっきり顔に出ていた。


「見るなッ!」


 青年は、物凄い剣幕でこちらを睨みつける。そのあまりの威圧感に、絵里香はヒュッと息を飲む。

 絵里香の恐怖で染まった顔を見て、青年は自分が相手を威圧していたことに気が付いた。


「ッ!すまない。だが、こんな醜いものを見せるわけには……」


 そう言って青年は顔を背ける。


(醜い?まさか、自分の瞳のことを醜いと言っているの?)


「醜いって、そんなことないじゃないですか!こんなに綺麗なのに」


 つい言葉に熱がこもってしまう。だが、あんなに綺麗な瞳のことを醜いというのは許せなかった。今までで見た瞳の中で一番美しいというのに、どこが醜いと感じるのか、絵里香には疑問でしかなかった。

 絵里香の言葉に、青年が隠されていない深紅の瞳を見開く。

 青年の口が開かれたと思ったら閉じられ、また開かれた。


「今、この瞳を綺麗と言ったか?」

「はい……、そうですけど……?」


 ここまで驚いた表情で問われると、自信が無くなってくる。おずおずと頷くと、青年がゆっくりと右眼を隠していた手を下ろした。


「このオッドアイが怖くないのか……?」

「はい……」


 あまりにも執拗に確認してくるので、失礼だが、心のどこかでしつこいな、と思ってしまう。失言した訳ではなさそうなので、それほど意味がある言葉だったのだろうか。


「もしかして、この世界だとオッドアイは珍しくないのか?」

「いるにはいますけど、珍しいですね」

「そうか」


 「それはそうだよな」と呟きながら青年は一人で納得する。どうやら、青年の中の問題は解決したようだったが、絵里香には引っかかる所があった。


(ん?今、『この世界』って言った?)


「あ、あの」

「どうした?」


 青年の言葉数が先ほどよりも明らかに増えた。表情は元の仏頂面に戻ったが、口調も心なしか優しくなった気がする。


「今、『この世界』って言いました?」

「ああ」

「それってどういう……?」

「あっ」


 青年は、自分の失言に気が付いたらしく、咄嗟に口を塞ぐ。闇の中でキラキラと輝く眼が泳いでいる。表情や立ち振る舞いから、大人びた印象を持っていたが、意外と子供っぽいところがあるのかもしれないと絵里香は思う。


「あー、その。先ほど、魔法を見ただろ?」

「ちょっと待ってください」


 いきなり魔法という言葉をぶっこまれて、絵里香は待ったをかける。


(そういえば、この人達魔法を使っていたような)


「俺は魔法が存在する世界から来た。この世界には魔法が無いらしいから、恐らくあいつもだろう」

「はあ」


 確かに絵里香は魔法らしきものは見たものの、改めて言われるとにわかに信じることが出来なかった。先ほどの摩訶不思議な現象も、現代技術を駆使したと言われたらそっちをすんなり信じるだろう。


「信じられないか?」

「信じられないですね」

「そうだろうな」


 何言っているかわからない、といった表情の絵里香を見て「こちらの世界とは色々違うからな」と青年は手を振る。


「まあ、忘れてくれ、と言いたいところなんだが、俺は貴方に用がある」

「私に?」


 心当たりがない絵里香は青年の言葉にキョトンとする。


「何故、貴方がさっきのあいつに狙われたかわかるか?」

「いえ、見当もつきません」

 

 絵里香の返答を聞いて、青年が、「自覚すらないのか」と呟く。


「あの?」


 話が見えてこない絵里香は頭を傾げる。


「どういうことですか」

「それが関係している」

「それって何ですか?本当になにも知らないのですが」

「全部話す。だから、また話す機会をくれないか?」

「えっ?」


 想像もしていなかった展開に、絵里香は再び唖然とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ