表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メテイの夢  作者: 月寄れい
第一部
2/4

第一話 帰り道

ピヨピヨ、ピヨピヨ


 鳥の鳴き声の機械音声で、絵里香は我に返り、本から顔を上げる。

 横断歩道の信号はいつの間にか青に変わり、反対側の歩道でスマホを見ていたはずのサラリーマンは、既に歩き出していた。

 絵里香は慌てて開いていたページに指を挟むと、小走りで横断歩道を駆け切る。

 ふー、と息を吐くと、吐き出した息が白いことに気がついた。


「やっと寒くなってきたかぁ」


 先月までは、世界から秋が消えたのかと思うぐらい暑かったのに、十一月に突入すると共に突然気温がガクッと下がった。


「そういえば日の入りが早くなったかも」


 ブレザーのポケットから栞を取り出すと、頭上に掲げてみる。

 すると、栞のステンドガラス風の蝶の模様が街灯の光に照らされて、綺麗に反射していた。鮮やかなピンクの蝶が、周りの真っ黒な背景に良く映える。

 暫くそれを眺めてから、指を挟んでいたページに栞を滑り込ませ、本を肩にかけていたスクールバックに仕舞う。

 指先が赤く染まった手をポケットに突っ込むと、絵里香は家路をトボトボと歩き出した。


「もう冬、ねぇ」


 花の高校生デビューを飾って半年。それは、絵里香にとって特に可もなく不可もないような半年だった。

 成績はそこそこ、仲が良いと言えば良い友達もでき、それこそ色恋沙汰はなかったが、青春らしい青春は送ってきた。

 しかし、言えばそれだけだったのである。

 高校生になれば何かが変わるかもしれない、と根拠も何もないただの理想を抱いて、いざその生活が始まったかと思うと、現実は何も中学の時とは変わらなかった。

 毎日学校へ通い、授業を受けて、帰る。

 運命的な出会いや出来事なんて起こるはずもなく、絵里香は同じようなことを毎日繰り返していた。

 それはまるで、特に記憶に残ることもない、まるでピンボケした動画のように曖昧な日々だった。

 別に、何か優秀になりたいとか、超人的な力が欲しいとか、そんな願望が絵里香にあるわけではなかった。

 ただ、“何もない”で人生を終わりたくなかった。何でも良いから何かにとっての特別な存在になりたいのだった。


(結局、存在意義が欲しいだけなんだよね。きっと)


 我ながら思春期らしい悩みだ、と絵里香は自虐しながら、角を右に曲がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ