第十八話 スコーン
「魔法、か」
「どうしたの、絵里香。改まっちゃって」
「何だか非日常すぎていまだに信じられないなって思っただけ」
「こっちからしたら、意外と馴染んでいる感じしたけど」
まだ疑ってるの、とセレストは困ったように笑う。
「ここまで説明してもらったし、流石にもう嘘だと思っているわけではないんだけどさ。一回寝て、起きたらすべて夢でしたってなってそうで」
「それってどんな気持ちなの?」
良く分からない、という顔でセレストに聞かれ、絵里香は答えに困る。
「うーん。なんていえばいいんだろう。でも、強いて言うなら、〝怖い〟かな」
「怖い?なんで?」
「今日の出来事が全部夢だったってことは、皆と今まで話してきたのが全て無かったってことになっちゃうでしょ?セレスト達に会えたことも、メテイの話だって全部初めから存在しなかったってなったら、心がぽっかり空いたような気持ちになるかも。私は、それが怖いかな」
「そっか……」
セレストは、絵里香が言ったことがいまいち理解できなかったのか、釈然としない顔をする。
絵里香も、それ以上に説明しようがないので、会話が止まり、気まずい雰囲気になってしまう。
(さっきから、何回か会話が噛み合わないことがあったけど、感性が違うのかな?)
微妙な形で会話が終わってしまった二人に、カナリーが気を遣って声をかけた。
「あ、えっと、おやつ、食べます?」
絵里香がチラッと腕時計を見ると、気づけば三時を既に回っていた。
「いいの?」
「あ、お腹空いていなかったら良いんですけど……」
そういえば、と絵里香は思い出す。
「私、今日昼ごはん食べ損ねたんだった。貰えるなら食べたいな」
「私の手料理なんかで良ければ、喜んで」
「えっ、カナリー、料理できるの?凄い!」
絵里香の言葉に、カナリーが照れくさそうにうなずく。
「向こうではあまり料理はしなかったのですが、ここに来て自炊を始めてみたら、楽しくなってしまって」
「ほんと美味しいんだよね」
「手際もいいし」
「彩りまで気を遣っている」
三人が口々にカナリーの料理を絶賛する。その言葉に、カナリーは頬を赤らめた。
「凝り性が出てしまって」
照れ隠しか「持ってきますね」と言うと、そそくさと部屋を出て行った。
「俺も行く」
その後を、オーカーがついていく。
30分程して帰ってきた、カナリーとオーカーの手にあったのは、黄金色に焼けたスコーンと茶器だった。
「わぁ、凄い!」
「お手軽でお腹にたまる、スコーンにしました」
コトッと大皿に盛ったスコーンを置くと、カナリーは笑顔で言った。
「もちろん、変なものは入っていないので、ご心配なく」
そんなジョークを言いながら、パチンとウインクをする。
「ありがとう!——そういえば、こっちの料理にはもう慣れた?やっぱり、味とか違うでしょ?」
「?」
オーカーが、紅茶を注ぐ手を止めてこっちを見てきた。
「あれ、私、なんかおかしなこと言った?」
「基本的な料理なら、メテイも地球も一緒だ」
「え?」
初耳と言わんばかりの絵里香の顔を見て、オーカーは溜息をつく。
「そういえば、メテイの存在も知らなかったな。やはりこっちではもう伝承されていないのか……」
「伝承?」
頭を傾げる絵里香にルアンが問いかける。
「そうだね、一度、君の別世界や人々について、どう解釈しているか教えてくれないかい?」
「うーん、やっぱりアニメとかよく聞くのは、異世界には、転生とか転移することで行けるっていう話だよね。死んで起きたら、別世界の子供に転生していた!とか、魔法陣で召喚されて、突如転移するみたいなイメージかな」
「なるほど」
注ぎ直した紅茶をオーカーから受け取りながら、ルアンが相槌をうつ。
絵里香は、一度止めて息を吸うと、また続ける。
「別世界は、地球じゃありえないような見た目をした生き物とか植物がいたり、野菜とか果物が全く別物の植物だったり、名前だったりするイメージ。あと、街並みとかは今いるこの国とかじゃなくて、石畳の道とか、煉瓦でできた建物とか、それこそ、この屋敷みたいな建物が主流。で、後は、貧富の差が激しくて、王族がいて、教会があって、貴族がいて……」
「オッケー、ストップ。一回そのあたりで大丈夫だから」
絵里香がスラスラと永遠に続けるので、ルアンが待ったをかける。
「やはり、いくつか誇張されている部分がありますね」
黙って話を聞いていたカナリーが、おもむろに口を開いた。
その言葉に、ルアンがうんうんと頷きながら、紅茶に角砂糖を三つ入れる。
「まず絵里香が想像していたファンタジーな世界観だけど」
「うん」
「半分正解で、半分不正解だね」
「?」
「多分、噂話みたいに、どんどん事実に尾ひれがついて広がっていっちゃったか、また別の世界の話かな?」
「じゃ、じゃあ、転生者や転移者が、特別な力で大活躍!っていうのは……?」
「少なくとも、メテイには転生者なんていないよ?転移者はいるにはいるけど、召喚みたいなのないし」
キョトンとした顔でセレストが答える。




