第十四話 勘違い
少し経って、カナリーが何かを持って、部屋に戻ってきた。
「持ってきました」
「ありがとう」
オーカーは、カナリーから何かを受け取ると、机の上に置く。
机に置かれたのは、黒い木製の箱だった。サイズは掌ほどで小さく、装飾が一切ない質素な見た目をしている。
「……これは?」
「契約に使う魔法具だ」
(こんなところで、セレストが言っていた魔法具を見ることになるとは)
違う場面だったら、もっとわくわくした気持ちになったかもしれないのに、今は、つくり笑顔すらまともに出来ない。
覚悟を決めなきゃ、ときつく目を閉じた絵里香の耳元で、優しい声が聞こえる。
「心配しなくて大丈夫。オーカーが端折った説明をしちゃうから、怖くなっちゃったよね」
「セレスト……」
目を開けると、セレストが優しい眼差しで絵里香を見つめていた。
弱々しく絵里香が呟くと、セレストがギュッと絵里香を抱きしめる。
「大丈夫だから。ね」
それから、キッとオーカーを見据えると、セレストがずけずけと言う。
「私、契約なんて要らないと思うんだけど」
「念の為だ」
「必要なくない?」
「何かがあってからじゃ遅いだろう」
「それは……そうだけど」
セレストがそう言っても、オーカーは自分の意見を曲げる気は無いらしい。セレストの問いに淡々と答える。
セレストは絵里香に向きなおると、両肩に手を置く。
「ごめんね、オーカー心配性だから。今回の目的は、絵里香は信頼できる人間ですよって第三者に示せる証拠を作るための物。契約魔法は可視化できるから、もし私達の世界の人に絵里香が疑われるようなことになっても、これがあれば私達の仲間だよって言えるの。絵里香を守るために必要なんだって」
セレストの言葉にオーカーが続く。
「君を危険な目のあわせるつもりは微塵もない」
その言葉を聞いて、絵里香は自分が誤解していたことに気づいた。
「ごめんなさい。私、皆のこと誤解してた!てっきり、私は外部の人間だから、信用ならないし、目的が済んだらもう用無しになっちゃうのかって思ってた。勝手に一人で怖がっちゃって……。ほんと情けない」
「大丈夫です。そんなに気を病まないでください。私達、絵里香さんのこと、そんな風に思ったりしません。確かに、私達怪しい集団ですし、初めて聞いたことばかりだったでしょう。怖がって当然です。どうか、自分を責めないで」
カナリーの言葉に、三人も頷く。それを見て、絵里香は安堵した。
その様子を見て、オーカーが絵里香に問いかける。
「できそうか?」
「うん!」
「それなら、説明する」
オーカーが箱を開けると、中に、掌サイズの六角形のガラスのような板が入っていた。
オーカーがそれを取りあげると、透明で分厚い板が光を反射して、板一面にびっしりと彫られた魔法陣が見える。
「これが魔法具……?思ったより小さいね」
絵里香の言葉に、セレストが得意げに笑う。
「すごいでしょ。これ、カナリーが既存品を改造したから、普通のよりコンパクトになっているの」
「すごっ」
思わず絵里香の心の声が漏れてしまう。
絵里香は、魔法具のことなどさっぱりわからないが、仮に機械を自分で改造したと考えると、カナリーはとんでもない才女である。
「〈起動〉」
オーカーが呟くと、ウォンという音がして、魔法具が光る。そして、魔法具の中心から、一筋の光が上へと伸びた。やがてその光は、プロジェクターのように、宙に長方形の画面を映し出す。
それと同時に、絵里香は、鳥肌が立つような、かすかな違和感を感じ取った。
「ねぇ、なんか変な感じがしたんだけど」
「変な感じって?」
ルアンに問われた絵里香が、もどかしそうに答える。
「なんて言ったらいいんだろう……。こう、なんか、振動を感じるっていうか?本当になんとなくなんだけど……。そういえば、昨日も今日もオーカーに会った時にそう感じた気がする。気のせいかな?」
ルアンが驚いた表情を浮かべる。
「なるほど、絵里香はわかるタイプの人間なんだね。それは勘違いでも何でもない。君が感じたのは、魔力の波だ」
「魔力の波?」
「そう。何かが魔力を使うと、基本、魔力の波が生まれるんだ。波は、たくさんの魔力を使うほど強くなる。僕たちは、それを感じて、敵の位置や強さを把握するんだ。魔法が使えない生き物は魔力の波は感じられないのだけどね、たまに例外がいるんだよ。絵里香もそのうちの一人だったってわけ」
「へぇ、例外か……。なんか嬉しい」
えへへと絵里香が笑っていると、オーカーに声をかけられた。




