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メテイの夢  作者: 月寄れい
第一部
14/19

第十三話 契約

 熱い視線を感じたので、絵里香が隣を見ると、カナリーがずっと待っていたと言いたげに口を開いた。


「触ってもいいですかっ?」

「どうぞ」


 絵里香がスマホを渡すと、おやつを見た犬のように、カナリーはスマホに飛びついた。

 カナリーはそろりと人差し指を画面に当てると、ホーム画面が動く。


「おぉ、おぉ、おぉ!これ、魔法具のレベルを優に超えていますよ!」

「魔法具?」

 

 一人で混乱しているカナリーの代わりにセレストが解説する。


「魔力が動力源の道具のこと。私達の世界では、こちらほど技術が進歩していないからね。魔法が使えない人でも、同じようなことができるように中に魔道回路や魔法陣を組み込んで便利な道具を作っているんだ」

「なるほど……。魔法を使えない人もいるんですね。だとしても、魔法具があれば便利そう」

「因みに、もう一種類あって、魔道具っていうんだけど、こっちは魔法使える人用に複雑化された物なの」

「凄い!セレストの世界では、魔法が生活の中心にあるんだ。見てみたい」


 絵里香が目を輝かせているのを見て、セレストが言う。


「もうさ、いっそのこと全部話しちゃおうよ。別に隠すことじゃないし」

「僕もいいと思うよ」


 スマホをスワイプして遊んでいるカナリーの手元を覗いていたルアンが顔を上げる。


「どうせいつか言うことになると思うし。そしたら、早い方が良いよね。ねえ?オーカー」

 

 ルアンがチラリとオーカーの方を向く。


「俺は元々話す気だったが。そういう約束だからな」

「話してくれるの?みんなの世界のこと」


 絵里香の声が思わず高まる。


「これから話すことは他言無用で。それを条件に僕達が住む世界について紹介しよう。約束、できるかい?」

「もちろん!」

 

 絵里香の了承を得るとオーカーが呼びかける。


「カナリー」


 それだけで用件を理解したのか、カナリーはスマホを置く。


「持ってきていますけど、やるんですか?」

 

 カナリーの言葉にオーカーがこくんと頷く。


「じゃあ、持ってきますね。待っていてください」

「助かる」


 カナリーは立ち上がると、部屋から出ていった。


「カナリーは何をしに行ったの?」

「契約の準備だ」

「契約?」

「大事を起こさないためにも必要なものだ」


 契約。学生の絵里香にはあまり聞きなじみのない言葉だが、この話ぶりで、世間一般的な契約書にサインするようなものではないことが何となくわかった。


「け、契約って、何をするの?」

「こちらが話した情報を他人に言わない。この約束を堅苦しく結ぶだけだ」

「代償とかは……?」

「あるにはあるが、そんな心配はいらないだろう。契約内容を守って入れば関係のない話だ」

「そ、そうだけど」


 契約。代償。この言葉は、絵里香が常に読んでいた「魔法使いの旅」にも登場した。物語の中で、村娘がその危険性を知らず、悪い魔法使いに騙されて契約を結んでしまうシーンがあった。最終的には、代償で命を捧げることになってしまったが、寸前で主人公が村娘を助け、事なきを得た。

 このシーンは、幼かった当時の絵里香には少し衝撃的で、生涯、人と契約を結ぶのは辞めようと誓ったのだった。

 そんなことがあり、絵里香は「契約」に怖いイメージを持っているのであった。

 

(なんで、なんで契約なんて結ばされるの?)


 気を抜くと、恐れが表情に出てしまいそうで、絵里香は、自身の手をぎゅっと握る。

 相手がただの一般人だったらまだ良かった。しかし、相手は別の世界から来た魔法使いなのである。もしかしたら、本の魔法使いと一緒で絵里香を騙しているのかもしれない。

 ここで絵里香は、改めて、自分の警戒心の低さを思い知ることになった。

 絵里香が横目でオーカーを見ると、これから契約を結ぶというのに、いつもと変わらない無表情だった。

 視線をずらすと、セレストと目が合う。つい目をそらしてしまったが、セレストは何かを察したようで、ルアンに何かを耳打ちする。

 皆、契約を結ぶことに関して何も感じないのだろうか。


(あぁ、そっか。オーカー達は、私のこと、信頼していないんだ)


 何故、当たり前のことに気づけなかったのか。

 絵里香は彼らに出会ってまだ一日しか経っていないのだ。そんな得体の知れない人である絵里香に、自分たちのことをペラペラとしゃべれるわけがないのだ。絵里香が特殊なだけであって、他の人はそうではない。いや、そもそも人間ではないから、そういった感情が欠如しているのかもしれない。

 結局、絵里香は所詮、他人であり、蚊帳の外なのだ。逆に、何故友人になったと思い込んでいたのか、絵里香自身疑問に思えてくる。

 絵里香はそう考えると、何かが腑に落ちたように感じた。

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