第十二話 人外
重くなってしまった空気を破るかのように、ルアンがパンッと手を叩く。
「いやー、急にオーカーが女の子連れてるって言うんだから、ドキドキしちゃったよ」
気を遣ってくれたのか、ルアンが明るく言う。
ルアンの言葉で、気まずかった雰囲気が心なしか和やかになったような気がした。
「僕、初めてなんだよね。人間と話すの」
普通に人間だと思っていた絵里香は、今更ながらに驚く。
(そういえば、さっきも言ってたっけ。オッドアイが印象的で忘れていたけど、この人達って人間じゃないの?)
「え、人間じゃないんですか?」
「人間じゃないよ?」
セレストがキョトンとした顔で言う。気づかなかったの?とでも言いたげだ。
「違うよ。僕達は、人間とは別の種族なんだ。とは言っても、外見とかはほぼ同じだよ。大きく違うのは何かな」
「んー」とルアンが考える。
「寿命、とかですかね」
カナリーが説明する。
「私達の種族は大分寿命が長いんですよ。それこそ、2000年以上の時を過ごしている方だっていらっしゃいますし」
「2000年⁉︎」
想像していた長さよりも一桁ほど多く、絵里香は更に驚く。2000年生きると言われても、途方もない長さで、想像もつかない。
「ちなみに、絵里香さんはいくつ何だい?」
「ダメだよ、ルアン。初対面で年齢なんか聞いちゃ」
特に気にせずに聞くルアンの服の裾をセレストが引っ張る。
「気にしなくて大丈夫ですよ。私は十六歳です」
「十六歳?まだ赤子じゃないか」
オーカーが驚きの表情でまじまじと絵里香を見つめる。
それを見て、ルアンは苦笑いをした。
「オーカー、人間でいう十六は、僕達と同じぐらいさ」
「え、年、近いんですか?皆さんのほうがもっと年上だと思っていました」
実際、絵里香やその同級生に比べると、見た目や仕草が大人びている。
「それじゃあ、敬語は要らないね。さ、こっちに座って。私、聞きたいことたくさんあるの」
セレストに言われるがままソファに座ると、目の前の机にコトリとカップが置かれた。
見上げてみると、カナリーがトレーを抱えて微笑んでいた。
「私達も気になります。ぜひ、混ぜてください」
気がつくと、正面にオーカー、ルアン、右隣にセレスト、左隣にカナリーが座っていた。
「えっと、何から話せばいいですかね……?」
正直、こちらの話をしてほしいと言われても、何も思いつかない。絵里香は思ったことをそのまま口に出すと、セレストに横からつつかれた。絵里香が横を向くと、セレストにうるうるとした目で見つめられる。
(敬語を使うなということかな)
「……話すことなんてない気がするけど」
恐る恐るタメ口にしてみると、途端にセレストの顔が輝く。正解だったらしい。初対面でいきなりタメ口は、絵里香的には難易度が高めだったが、外していけるように意識する。
何を話そうか、絵里香が悩んでいると、カナリーが助け舟を出してくれた。
「個人的な質問ですけど、技術面は何処まで進歩しているのですか?人間、と言うよりここの世界の話になりますが」
「機械か。見せたほうが速いかも。やっぱり代表的なのはこれかな」
絵里香はカバンからスマホを取り出すと、皆に見せた。
「はい、スマートフォン」
「これが機械なのかい?平らだし、何の模様もない」
「うん、これは、多機能型携帯電話で、いろんなことができる機械なんだ」
そう言って、フェイスIDでロックを解除し、ホーム画面を見せる。
「この四角いマークごとに機能がまとまってて、写真や調べごと、娯楽までこれ一つで出来ちゃう優れものなんだよね」
「携帯電話、ってことはこれで電話できるの?それプラスで色々出来るの?」
「そう。電話ってそっちの世界にもある?」
「ある、が」
オーカーが答えながら、隣を向く。
「こっちの方が凄いね」
オーカーとルアンが顔を見合わせると、頷き合う。どうやら驚いてもらえたらしい。
「カナリー、こんなので大丈、夫⁉︎」
質問した当人なのに、カナリーの反応が返ってこないので、絵里香が左隣を見た途端、ギョッとした。
無口だったので、興味がなかったのかと思ったら、カナリーがパクパクと口を動かしながら、小刻みに震えている。
「……に、……す」
「どうしたの?」
「本当に、すごいです‼︎」
満面の笑みで目を輝かせたカナリーは、先程の落ち着いた雰囲気は何処やらに消えていた。
興奮した勢いのまま、絵里香の手をつかむと、上下にぶんぶん振った。
「絵里香さん、ほんっとうにありがとうございます!このようなとても素晴らしいものを見せていただいて!あぁ、この美しいフォルム、輝くボディ!なんて素晴らしいのでしょう!見てくださいこれ!繋ぎ目が全く見えない!それに、画面の切り替え、多種機能の実現!魔法無しでどうやってやっているんですか?そもそも仕組みが外見からわからない!この小さい板の中に情報が詰まりすぎです!」
「そ、そうだね……?」
あまりにもテンションが高いカナリーに絵里香は完全に置いて行かれる。
絵里香が横目で助けを求めると、ルアンが苦笑しながら解説してくれた。
「カナリーは技術関連なものが好きでさ。今まで見たことがないようなものや高度な技術が使われているものを見るとこうなるってわけ」
「こうなるって言われても……。そういうものが好きなところといい、このテンションと言い、さっきの姿からは想像ができないね」
「まあ、僕達皆、そんなものさ」
物ありげにルアンが言った。




