第十一話 仲間
リビングテーブルに分厚い本を置き、向かい合うソファに座っている男女が一人ずつ。頭を突き合わせて、何やら話し込んでいる。そして、その話を片方のソファの背もたれ越しに聞いている女性が一人。
部屋の中にいたのは、計三人の若い男女だった。
絵里香の声に気づいたからだろうか。絵里香が部屋の中に入ると、一斉にこちらを見た。
三人の品定めするような視線が、絵里香に突き刺さる。
息が止まってしまうような緊張感の中、オーカーが口を開いた。
「例の人間だ」
オーカーの言葉を聞くと、三人が絵里香の前にやってくる。
絵里香の前に、横一列で彼らは並んだ。警戒がとかれ、先程とは打って変わり、顔には歓迎するような笑顔が浮かんでいた。
後は任せた、と言わんばかりの表情でオーカーは絵里香を見る。
会ったばかりの別の世界の人を相手にどうすれば良いかわからず、絵里香は困惑する。
(部屋にいるってことは、きっとオーカーが言っていた仲間ってことだよね……?ということは自己紹介をするのが正解?)
絵里香は深く息を吸って、意を決すると、一歩前に出た。
「花井絵里香です。絵里香って呼んでください。よろしくお願いします」
絵里香がお辞儀をすると、頭上から「へぇ」と呟き声がした。
顔を上げると、正面にいた男性が口元に右手を当ててニコニコと笑っている。面白い、と言いたげな表情だ。
「君が件の子か。僕はルアン。よろしく」
男性が絵里香の方へ歩み寄り、笑顔で手を差し出した。
絵里香は握手をしながら、彼を見る。
髪は青緑のような色でセンター分け。身長はオーカーよりも少し高めといったところか。深い緑色のジャケットを羽織っており、全体的にきっちりとした印象がした。しかし、爽やかに笑う姿は、体格も相まって運動部の男子を連想させる。運動系なのだろうか。
そして瞳。ルアンと名乗った彼もオーカーと同じく、美しいオッドアイだった。右目は同じく深紫だが、左目は黄土色と異なっていたが。
「初めまして。私はセレスト。よろしくね」
続いて、先程まで背もたれで話を聞いていた方の女性がにこりと微笑む。
髪形は、水色の髪を背中あたりまで届くおさげにしている。身長は、学校でも背が高い方の絵里香よりもだいぶ高い。170センチ以上ありそうだ。
そして、彼女も左右の瞳の色が違った。右目は深紫、左目は藍色。その目に細い銀縁の丸メガネを掛けており、いかにも文系の風貌だ。
絵里香が一番気になったのは、その顔立ち。彼女はルアンと瓜二つの顔をしていた。
「もしかして、お二人は双子ですか?」
「そうなの。良く分かったね、あんまり似ていないと思うんだけど」
そうセレストは笑うが、髪や瞳の色、体格が同じだったら、絵里香には見分けが付く自信がない。
「カナリーです。よろしくお願いします」
最後に、ルアンと同様にソファに座っていた女性が、丁寧な物腰で名乗った。
不思議なデザインのカチューシャで止められた黄色のウェーブのボブを揺らしながら、礼儀正しくお辞儀をする。前髪は、右側は目の下、左側は眉の下でぱっつんに切り揃えられており、右眼が隠れていた。見える左眼は、山吹色だ。普段は見かけないようなローブを着ており、この中では一番別の世界の人という感じの服装をしていた。
身長は絵里香よりも少し高めで、童顔の彼女は、他の人たちとは違い、絵里香と近い年齢に見える。しかし、彼女の上品で落ち着いた様子は、大人びていて、そのミスマッチさが不思議な雰囲気を醸し出していた。
全員の自己紹介が終わり、絵里香は改めて四人を見回す。
それにしても、別の世界の住民は皆オッドアイなのだろうか。フードを被っていた人とカナリーの瞳は見えていないからわからないが、それ以外は全員オッドアイである。
疑問に思った絵里香は、つい口に出してしまった。
「お二人もオッドアイなんですね」
一瞬にして、全員の表情が固まる。それと同時に、先程の穏やかな雰囲気は何処やら、空気が凍り付く。全員がお互いの顔を見合わせ、様子を伺う。
空気を読むのが苦手な絵里香でもわかる。明らかにこれは触れてはいけないことだった、と。
発言を取り消そうと絵里香が口を開く前に、カナリーが控えめに手を挙げた。
「私から説明して良いですか?」
絵里香ではなく他の人達に問うような口ぶりだった。
実際にそうだったのだろう。オーカーが小さく頷くと、カナリーが喋り始めた。
カナリーが右眼にかかっている前髪を上げると、その瞳が露わになる。その瞳は、他の三人と同じ、深紫だった。
(全員、右眼が深紫だ)
カナリーは、その特徴的な目を細めて柔和な表情を作る。
「絵里香さんはお気づきかもしれませんが、私たちは人間ではありません。故に、人間とは外見が異なります。私たちの種族は、皆オッドアイなのです」
「……そうなんですね」
それだけ、それだけの説明なのに、先程の間は何だったのだろうか。
何かを絵里香に隠している。それだけがわかったが、絵里香には見当がつかなかった。




