第十話 目的地
お互い無言のまま時が流れる。
時間にしたらどのぐらいだろうか。十秒かもしれないし、十分かもしれない。
絵里香は拳をギュッと握りしめ、オーカーを見つめる。
オーカーは、どこか諦めた顔で絵里香を見ていた。
そしてやっと、絵里香は答えを出した。
「私にやらせてください」
「は?」
断ると思っていたのだろうか、オーカーは驚いた表情をしていた。
「本当に、いいのか?」
「本音を言うと、怖いです。正直、魔法なんて得体が知れないし、危険な目に遭うかもって思ったら、凄く怖いです。でも、見ず知らずの、ぶっちゃけ関係ない他の世界の人がそんな危険な目に遭ってまで街を、私たちを守ろうとしているんですよ?」
一旦区切って、絵里香はにこやかに笑って見せる。
「それなのに、見て見ぬふりはできないじゃないですか」
オーカーが微かに目を見張る。
「……ありがとう。改めて、オーカーだ。これからよろしく」
オーカーが手を差し出す。
「たいして役に立たないかもしれないですけど、よろしくお願いします!」
絵里香はその手をしっかり握り返した。
「早速仲間を紹介したい。ついてきてくれるか」
「あ、ちょっと待ってください!」
絵里香は慌てて呼び止めると、バッグの中を探って、一つのラッピング袋を取り出す。
「これ、昨日のハンカチのお詫びです」
差し出された袋をオーカーが受け取った。
「開けていいか?」
絵里香が頷くと、オーカーは綺麗に飾られたリボンを解く。
包みを開くと、中から純白のハンカチが出てきた。隅に小さく赤い花の刺繍が入っている。
「ハンカチ、すごく綺麗だったのに、汚してしまってごめんなさい。よければ貰ってください」
「昨日の今日なのに、いつ用意したんだ?」
「待ち合わせの前に買いに行きました。近所にお気に入りのお店があるんです」
オーカーに会う前に、新作のハンカチの紹介の投稿を見て、絵里香が買いに行ったのだ。
「いいのか?」
「はい、謝罪と感謝の気持ちなので受け取ってほしいです」
「……ありがとう」
オーカーは、丁寧にハンカチを袋に戻すと、ポケットにしまった。
「それじゃあ、行くぞ」
*****
木々をかき分け、しばらく歩いたところに、突如それは現れた。
ぽっかりと開いた土地に、何処にでもあるような一軒家がポツンと建っていた。
建物は二階建て。大きさは普通。窓の数を見るに、いくつか部屋がありそうだった。しかし、それらは、全て閉まっており、中も薄暗く、部屋が見えない。
一つ、他の一軒家と違う特徴を上げるとすれば、それはどう見ても、建物が廃墟にしか見えないことである。
家には全く装飾がなく、代わりにツタが這っている。壁は、色あせていて、所々ヒビが走っていた。
良く言えば、風情のある、悪く言えば、心霊スポットと言われてもなんら違和感のない建物だった。
人気の無い森と相まって、建物は不気味な雰囲気を醸し出していた。
「来てほしい場所ってここですか……?」
「ああ」
「何ですか、ここ?」
「俺達が住処にしている家だ」
「この家、廃墟じゃ……」
「廃墟だと思うぞ。誰もいなかったから住まわせてもらっている」
「不法侵入⁉」
「気にしたら終わりだ」
(ここまで人は来なさそうだし、バレなきゃセーフか……?)
深入りをするのはやめておいた。
絵里香には、それよりも気になることがあった。
この家に住んでいると聞いて、絵里香は顔を少しひきつらせる。
きっとこれからこの中に入るのだろう。
(怖くない、怖くない。人住んでるんだし)
色々な意味で動けなくなる絵里香を余所にオーカーはスタスタと歩いていく。
「ちょ、ちょっと!」
駆けてオーカーの元に行くと、オーカーが玄関の扉を引いて開ける。
「入るぞ」
「は、はい!お邪魔します」
オーカーに案内されて、扉を潜ると、そこには意外に、ごく普通の玄関が広がっていた。
外観同様、装飾はなく、家具も最低限のものしか置いていなかった。
しかし、床や壁には汚れが一つもなく、隅々まで磨かれていることが分かる。建物の外観からは想像できないほど、清潔に管理されていた。誰か、几帳面な人がいるのだろうか。
不気味で薄暗い内装を想像した絵里香は呆気にとられてしまった。
思わぬ形で予想を裏切られた絵里香は、安心してオーカーに続く。
「ここだ」
オーカーは止まることなく廊下を進むと、そのまま突き当りのドアを開けた。
「ちょっと、待ってください、まだ心の準備が……!」
扉の先には、リビングとダイニングが広がっている。
そして、部屋の中心に三人、見知らぬ人達がいた。
次回新キャラ登場です




