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メテイの夢  作者: 月寄れい
第一部
10/19

第九話 計画

「着いた」


 オーカーはそう声をかけると、ゆっくりとほうきを地面に近づける。


「降ろすぞ」

「はい」


 絵里香はオーカーに降ろしてもらう。

 オーカーもほうきから降りると、その上に手をかざす。

 すると、ほうきの上に魔法陣が現れ、吸い込まれるようにほうきが消えていった。

 絵里香が辺りを見回すと、思わずわぁ、と感嘆の声をもらす。


「こんな場所があるんだ……。綺麗」


 絵里香達は、街から少し離れたとある山の中に来ていたようだった。

 絵里香の住んでいる街はいわば、都会と呼ばれる場所であり、土地のほとんどが整備されており、ビルなどの建築物が多く建ち並んでいる。

 しかし、今絵里香たちがいるのは、緑に囲まれた自然いっぱいの森の中だった。

 近くに建物がないからか、木漏れ日が差し込んでおり、ポカポカとしていて暖かい。都会にはない自然の匂いが鼻をくすぐる。


「この森を少し進んだ先に目的地があるが、その前に聞いてほしい話がある」

「何ですか?」


 キョロキョロ辺りを見回していると、改まってオーカーに話しかけられたので、絵里香は彼に向き直った。


「今日、ここに連れてきた理由は、俺達の作戦に協力してほしいからだ。今から、俺達の事情を全て説明する。それを聞いて、俺達に協力するか決めてほしい。断ってくれても構わないが、その場合は記憶を消させてもらう」


 先ほどに増して真剣な表情で話す青年に、絵里香はゴクッと息を呑む。


「わかりました」

「まず、今、俺達の世界では〝黒化〟という呪いに侵食されつつある。黒化は触れると生き物の命を奪う。動物も植物もだ。しかし、現段階で、対処法が無いに等しい。世界が呪いに飲まれるのも時間の問題だろう。そこで、何とか生き延びようと考えたとある種族が、住処を手に入れるため、この世界の侵略を計画した」

「……」

「そして、初めに選ばれたのがこの地というわけで、俺達はそれを止めに来た。わかったか?」

「わかったか、わかっていないかと言われたらわかりましたけど、理解はしていないです」


 絵里香の困惑顔を見て、オーカーはだろうな、という顔をする。


「色々端折ったからな」

「本当ですよ。聞きたいことがたくさんありますが、とりあえず一つだけ教えてください。今の話だと、この国は侵略されるということですか?」


 嘘であってほしい。そう願いながら絵里香は問う。


「向こうがどの程度本気なのかはわからない。確実に言えることと言えば、遠くない未来に、手始めにこの街に攻撃を仕掛けることぐらいだ」

「そんな……。そんなことがあったら、この街は……」


 オーカーが冗談で言っているだけかもしれない。大袈裟に言いすぎなのかもしれない。

 しかし、本当にこの街が侵略されたら。昨日見た魔法がこの街を襲ったら。


 (勝ち目は、無い)


 絵里香の目をオーカーが真っ直ぐ見つめる。


「絶望するのはまだ早い。俺達は攻撃を仕掛けられる前に、計画をぶち壊す」

「できる、んですか?」

「そんなこと、やらなければわからない。俺達はベストを尽くす。だから協力してほしい」


 話の規模が大きすぎて、どこか他人事のように絵里香は思っていたが、急に指名されて戸惑う。


「私が、ですか?私、本当に何もできないですよ?多分、力になれない気が」

「そんなことないッ!」


 いきなり食い入るように言われ、絵里香は驚く。その顔を見たオーカーが「すまない」とこぼす。


「頼むから、そんなことを言わないでくれ。俺は、君が良いから声をかけたんだ。力になれないなんてない」

「でも、きっともっと考えたほうが」

「……その答えは、ノーということか?」


 オーカーの目が微かに揺らぐ。

 絵里香は、はいともいいえとも言えず、言葉が詰まる。


「具体的に、私は何をする予定なんですか?」

「我々はこの世界のことに疎い。だから、土地勘やこの世界の常識があり、かつ俺に理解を示してくれた君に協力してもらいたい。こちらの世界の住民として意見をもらいたいだけだ」


 彼が言う内容だったら、絵里香には難しくはない。そんなことで悩んでいるなら、助けてあげたいと思う。自分だって他人事じゃない。

 それでも絵里香はイエスと言えなかった。

 もしかしたら、昨日のような怖い目に合うかもしれない。もしかしたら、もっと危険なことになるかもしれない。

 そう考えると、怖くなってしまうのだ。

 まだ十五歳の絵里香にはあまりにも重い選択だった。

 究極ともいえる二択を前に、絵里香は決断を下せずにいた。

 オーカーは、黙って絵里香が答えを出すのを待つ。

 そよ風が地面に落ちた深紅の葉を舞い上がらせ、二人の髪をなびかせる。絵里香は乱れた黒髪を耳にかけると、じっと目の前の、絵里香の返事を待つオーカーを見つめた。

 彼の美しい瞳は、何処か悲しそうで、また寂しそうに見える。それにきゅっと絵里香の胸が締め付けられるのだった。

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