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微睡み

 その日の夜、僕は結局ほとんど眠ることができなかった。ベッドの上で何度も何度も寝返りを打ち、ようやく訪れてくれた眠りも、夢と現実の間のような中途半端な微睡み。眠りが浅いから夢を見る。あの無残な死体の夢だ。死体の前でノリが立ち尽くしている。

 早朝、僕はたまらずベッドから出た。額に脂汗が浮いている。寝間着も汗でびっしょりだ。シャワーを浴びたほうがいいかもしれない。

 鈍い頭痛がする。顔を洗いたい。部屋を出て廊下を歩く。ふと、ノリの部屋が目についた。僕の部屋は向かいがトイレ、隣がノリの部屋という位置にある。

 一縷の期待を込めてノリの部屋のドアをノックしたが、返事はなかった。恐る恐るドアを開ける。片付いたノリの部屋。カップラーメンやお菓子が置かれた棚、僕とお揃いのベッド、僕が小学生のときに父から僕とノリの二人に買い与えられた勉強机がある。勉強机の上には、携帯ゲーム機と読みかけらしい漫画が置かれていた。有名なデスゲーム漫画だ。ノリはそういう血なまぐさい作品が好きだが、僕は苦手だ。ノリは僕と同じ遺伝子からつくられたクローンのはずなのに、趣味嗜好の違いが出るのは不思議だ。まだ僕らが幼い頃に触れた作品の違いなのかもしれない。学校に通える僕とは違い、家にいることが多いノリは、インターネットに触れるのが僕より早く、また長かった。インターネットには物騒な情報が溢れているから、ノリがたまたまそういった作品に触れてしまったとしてもおかしくない。父は特に、フィルタリングなどはかけていなかったし。

 ベッドは綺麗にメイキングされていて、わざわざ布団をめくらずともそこにノリがいないことは明らかだった。やはり、まだ帰ってきていないらしい。

 僕は落胆して、洗面所へ向かった。ばしゃばしゃと冷たい水で顔を洗う。ほんの少しだけ、頭がすっきりしたような気がする。

 リビングに向かうのはまだ少し躊躇してしまう。僕はキッチンのチェアに腰掛け、スマホの電源を入れた。一通、メッセージが届いていた。ノリかと思ったが、そうではなくキタガミさんからだった。

『起きたら連絡を入れろ お前の家に行く』

 内容はそれだけだ。昨日は大変だったな、などという労いの言葉は一切ない。キタガミさんらしい文章だ。彼のこういうところを普段は、もっと親のいない僕たちに寄り添ってくれてもいいのに、と思うこともあるのだが、今はありがたく思えた。大変だったな、とか、大丈夫か、とか言われたところで、それに対する返信を考えるのも面倒だ。

 『起きました いつでも来てください』とだけ返信する。一分も経たないうちに既読がついた。それから数分待ったが、返事は返ってこなかった。たぶん、彼はすぐにここに来るだろう。

 本当に、一人じゃなくてよかった。こうして連絡を取り合える人がいなければ、僕はどうなっていたか分からない。

 冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをコップに注ぎ、一息に飲み干す。ひどく喉が渇いていた。

 時計の針は、もうすぐ六時を指そうとしている。

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