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使命

「……まずはじめに断っておくけど、あなたたちが期待しているほど、私は文昭さんに詳しくないわよ。……私が教えてほしいくらいなんだもの。私は、文昭さんに本気の恋をした。危うい実験の繰り返しで、恋愛の駆け引きをする暇なんてほとんどなかったけど、私は合間を縫って文昭さんに何度もアタックしたわ。文昭さんは絶対、私の気持ちに気づいていたと思う。色々と欠けている人だったけど、鈍くはなかったもの」

「そうなんですか? てっきり、恋愛関係にあったのかと……」

 性格は違うが、実さんは母の妹だけあって顔立ちは似ている。それに、父が母に対して抱いた印象だったという『寂しい人』という感覚は、実さんにも当てはまるように思える。むしろ、男の影が付きまとっていた母より、実さんのほうが寂しく見えるのではないだろうか。あくまでも、僕の印象にすぎないのだが。

「もしかして、父さんはまだ母さんに未練があったのでしょうか?」

「いえ、私が言うのもなんだけど、それはないと思うわ」

 これには、実さんは即答した。

「ノリくんが生まれてから、二人の仲は明らかにギクシャクしていたようだし……文昭さんも姉を嫌いになったわけではなさそうだったけど、もう一度一緒になりたいと思っているふうでもなかったわ。それは一緒にいて、伝わってきた」

「……それなのに、叔母さんの気持ちには応えなかったんですね。……あっ、気を悪くしたらすみません」

「いいのよ、事実だし。正直、私が姉と比べて異性としての魅力が劣っているとは思えない。たぶん文昭さんは、もう誰かと深い関係を築くつもりはなかったんでしょうね。研究に残り僅かな命を捧げ、タツくんを生み出す。それだけが文昭さんの活力で、使命だったんだと思う」

 ノリが生まれたときは、父はまだ二十代だったはずだ。それなのに、生まれつきの身体の弱さのせいで、様々なことを諦めなければならなかった。ひとつを選ぶには、ひとつを捨てなければならなかった。それを悟っていた。天才だからこそ、その残酷な真実から目を背けることができなかった。

 それはどんなに辛く、恐ろしいことだったろう。僕には、想像さえできない。『生まれつき』を何より憎んでいたのは、他ならぬ父だったのかもしれない。

 そんな限られた時間の中で、父は、僕をつくることを選んだ。それには、どんな意味があるのだろう。

「ともかく……そういうことだから、私ではたぶん、文昭さんの深いところには辿り着けていない。それでもいいなら、話せるだけのことは話す。それが、私の使命だから」

 実さんは僕たちの顔を順に見回した。それから、ゆっくりと語り始めた。

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