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紐解かれる時間

「僕には、とてもそれだけとは思えないんです。だって、もしそれが目的ならば、ノリからその異常な遺伝子を取り除けばいいだけでしょう?」

「父さんの実験と金の出処については、実さんからさっきある程度聞いた。その取り除く実験で、死人が出てるんだろうが」

 優さんのことだ。ちらりと隣の伊東さんを窺うと、伊東さんは難しい顔をして考え込んでいた。

「……白鷺組は、父さんが亡くなってからも律儀に振込を続けていた。どうしてだと思う?」

「そんなの……犯罪の片棒を担いでいたのがバレたら困るからだろ?」

「主犯である父さんはこの世からいなくなった……それなら、毎月安くもないお金を払ってまで、口止めする必要はないと思うんだ。そもそも口止めも何も、僕たちが知っていることは多くないし、バラしたら自分たちの身も危うくなるし……」

「……何が言いたい?」

 ノリが苛立った様子で言う。僕はまた、隣の伊東さんを窺った。僕の言わんとしていることに、気づいているようだ。

 僕は唾を飲み、そして、言った。

「……不要な遺伝子を取り除き、性格をつくりかえる実験は……きっと、成功している。やり方も確立されている。少なくない犠牲のもとに……」

 優さんや、その他にもたくさんの人の犠牲のもと、きっと技術は確立されていたはずだ。

「どうしてそんなことが言える?」

「考えてもみろ。父さんが亡くなったのは、僕たちが十二歳のとき。僕の記憶が正しければ、僕が生まれたのは、ノリが八歳のとき」

 八歳のときに、ノリと引き合わされた記憶がある。ということは、僕が生を受けたのはそのタイミングということになるはずだ。ちらりと実さんを見ると、実さんは頷いた。

「タツくんの記憶のとおり。タツくんが生まれたのは、ノリくんが八歳のときよ」

「……もしそのときにまだ技術が完成していなかったとしたら、わずか四年の間に、父さんは技術を完璧なものにしたことになる。前人未到の危険な技術にしては、あまりにも四年という時間は短すぎるように思えるんだ。……それで、伊東さん。ずっと訊こうと思っていたのですが」

 僕は、隣に座る伊東さんのほうを向いた。伊東さんは真剣な瞳で僕を見つめている。相変わらず、不思議な顔立ちだ。幼くも見えるし、老人のようにも見える。もう慣れていたが、改めて顔を見つめると、やはり不思議な感じがする。

「なんでしょう」

「……優さんが被験者になったのは、何年前でしょうか?」

 しばしの沈黙。

「……実は、ずいぶん昔のことなんです」

 伊東さんは瞑目した。それから、ゆっくり目を開け、息を吐く。

「もう、十五年も前の話です。十五年も時間をかけて、私が辿り着いた真実はそう多くない。北神のことを尾行し続けても、結局、決定的な証拠は掴むことができなかった。臆病で、危険を冒すこともできない。息子のためだというのに。十五年も何をしていたんだ、と私は私に対して思っていました。だから言えなかった。隠すような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。もしもっと早く、訊かれる前に話せていたなら、タツさんの助けになれたかもしれないのに」

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