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親にはできないこと

「おそらくですが、あなたのお父さんはノリさんを見捨てたわけでも、タツさんを身代わりにしたかったわけでもないと思うんです。ノリさんの良きパートナー、それから身近な手本として、ノリさんに更生して欲しかったのではないでしょうか? まあ、その残虐な遺伝子というのが本当に存在するなら……ですが」

「そのために、僕をつくった、と? でも、更生させるのは親の役目じゃないですか」

「それを言われると痛いですね」

 伊東さんが肩をすくめてみせる。

「あ、すみません、そんなつもりでは……」

「いえ、いいんです、事実ですから。もちろん親の役目ですが、親だからこそできないこと、難しいことも多いんですよ。私もね、よく思うんです。優もきょうだいがいれば違ったのかな、と。子どもは、一緒にいる人の影響を受けて育ちます。しかし親は、四六時中一緒にいてあげられるわけではない。家庭を支えなければならないし、そもそも、四六時中一緒にいるのが必ずしもプラスになるとは限りませんからね。つまり、親よりきょうだい、あるいはきょうだいに近しい存在のほうが、与えうる影響は大きいんじゃないかと、私は思うわけです。もしかしたら、お父さんも同じように考えたのではないでしょうか」

 僕が生まれたのは、ノリのきょうだい役として。それは確かに、穏やかで優しい答えのように思える。でも。

「……そんな解釈は、都合が良すぎます」

「……どちらにせよ、お父さんの考えていたことは、お父さんにしか分かりません。だったら、都合良く考えてもいいのでは?」

 そういうものだろうか。

 いずれにせよ、父が遺したものは少なすぎた。あんな短い遺書では、何も伝えきれていない。

 こんな世界に異端な存在として投げ出して、何も伝えないまま逝ってしまうなんて、あんまりだ。

 もし父が伊東さんの言うように、ノリのきょうだい役として僕を生み出したのだとしても、その役割は簡単に崩壊してしまったことになる。当然予期できたはずの、ノリの僕への恨みという形で。

 どうしてこんな危うい状態で放置したんだ、と、父に掴みかかることができたらどんなに楽だったろう。

「……ともかく」

 思索の海に潜り始めていた僕の意識を、伊東さんの仕切り直すような声が呼び戻した。

「どちらにせよ、争いになるような心理状態なら、ノリさんが心配ですね。早まったことをしなければ良いのですが……。タツさんは、ノリさんがどこへ行ったか、本当に分かるのですか?」

 僕は頷いた。あの遺書を読んだとしたら、行く場所は、ひとつしかない。

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