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生まれ落ちた理由

「おい、大丈夫かよ、タツ。深呼吸して、リラックスしろ。まだ話は終わってないんだからさあ」

 今僕の身に起きていることは、果たして現実なのだろうか?

 自分のコピーと共に暮らすというフィクションみたいな人生を生きてきたのに、今更そんなことを本気で思う。

「俺はさ、父さんの見立てでは極悪人になる人間だったんだ。だから父さんはビビった。賢いっていうのも大変だよな。余計なことまで考えなくちゃならないんだから。自分の息子が問題を起こしたら、研究どころじゃない。父さんにとっちゃあ、自分の息子より研究が大切だった。だからお前をつくった。俺の身代わりとして生きてもらうために」

 僕は、城戸辰徳ではなかった。その上、一人の人間として生を与えられたわけではなかった。僕はあくまでも、ノリの身代わり。影武者だった。

 すべては、父の研究を守るため。本物の城戸辰徳が、不祥事を起こさないため。

 そんなことが。そんなことが、僕が追い求めてきた真実だというのか。僕が、この世界に生まれ落ちた理由だというのか。

 父も、母も、キタガミさんも、実さんも、そしてノリも、そのすべてが憎くてたまらなくなった。でも僕にはどうしても、力でどうにかしようという気持ちは起こらないのだった。想像するだけで気分が悪くなるほどだ。暴力は、苦手だ。

 そんな僕の感覚が、何より僕の正体を強く訴えてくる。暴力が苦手だ。グロテスクなものは嫌いだ。人を滅多刺し? 想像するだけで恐ろしい。

 だけどノリは、それをやってのけた。そして、そのことを語るのに、なんの抵抗も感じていないように見える。

 どちらかが凶暴性を備えたオリジナルで、どちらかがその凶暴性だけを取り除いたコピー。

 どっちがどっちかなんて、考えるでもないじゃないか。

 心のどこかで、違和感は感じていた。けれども、そんなどんでん返し、想定はしていなかった。ありえないというか、あってはならないことだと考えていたのだ。心の中に鍵が掛かったように、その可能性だけが心の奥底に押し込まれて出てこれないようになっていた。

 それも、僕が作り変えられた存在だったからなのかもしれない。間違っても己の正体に気づかないように、遺伝子をつくり変えたのかも。

 そんなことが可能なのだろうか? 分からない。でも父は天才だから、もしかしたら可能なのかもしれない。

 天才なのに、どうしてこんな状況を招いた。天才だから、人の痛みは分からなかったのか。

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