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狂気

「なあ、なあ、どこまで知ってるんだ?」

 ノリはなおも楽しそうに話し続ける。僕の表情を覗き込んできたので、慌てて顔を伏せた。きっとひどい顔をしている。誰かに――ノリに、見せられるものではない。

「実験の目的は? どうしてお前が生み出されたのかは知ってるか?」

「……知ってる」

 僕はかろうじてそう答えるのがやっとだった。

「知ってるか、やっぱりな。でもあえて聞かせてやるよ。どうやら俺には、生まれつき凶暴な遺伝子が備わっていたらしいんだ。まあ、そんなのは父さんの仮説だから、真偽は定かじゃないけどな――でも俺は、父さんの仮説は正しかったんだと思ってる」

 ノリに襟首を掴まれた。目を背けたいのに、それも許されない。自分とまったく同じ顔が目の前にある。僕の、オリジナル。オリジナルが、僕がまったく知らない表情をしている。

「だって俺は、真実を知ったとき、すぐに母さんを殺そうと思ったんだ。普通はさ、どれだけ人を憎んだって、殺すという選択肢はすぐには浮かばないものなんだろ? でも、俺の頭の中には当たり前に殺すという選択肢があった。食べ物を目の前にして、食べる、という選択肢が浮かぶのと同じように、ごく自然に」

 未だに心臓がバクバク鳴っていた。収まる気配がない。禁忌に触れてしまった。そんな気がしてならない。

 僕は人間だ。クローンじゃない。いや待て、クローンも人間だろう。だって僕はノリに対して、僕と瓜ふたつの人間で、親しき最高の相棒だって思ってきたじゃないか。だったら、もし逆転したって、同じのはずだろ。僕は人間だ。でもクローンだ。違う。まだ認めたわけではない。僕は……。

 否定しなければ、と僕は思った。ノリの言葉をすべて否定しなければ。僕が僕でなくなってしまう。

「それは……違うよ、ノリ。そんなわけないよ。ノリは、母さんからそのことを聞いたんだろ……」

「ああ、そうだよ。喧嘩になって、母さんも我慢ならなくなったんだろうな。俺を傷つけたくて仕方なくなった。最低な人間だよ、俺の母親にはふさわしいかもな。だから何もかもべらべら喋った」

「それで……ノリは腹が立って、つい、思ってしまっただけなんだ。異常なんかじゃないよ。ものすごく腹が立つ場面に遭遇したら、殺そうと思うかもしれない……そしてちょうど殺せる状況にあれば、本当に殺してしまうかもしれない。そういう不幸な事件だって、世の中にはいっぱいあるじゃないか……」

「不幸な、ねえ」

 ノリが小馬鹿にしたように笑った。

「そんな不幸な事件では、相手を滅多刺しにしてたか?」

「必要があれば……だってノリは、身元を分からなくしたかったんだろう?」

「そのわりには犯行が雑すぎだろ。結局、お前にはすぐバレたみたいだし。所持品とかちゃんと検めなかったもんな」

「ノリは急いでいたから……」

「もういいって」と、ノリは苛立ちを隠せない様子で言う。

「俺を庇うようなことばっかり言うなよ。ぶっちゃけるよ、俺は母さんを刺してるとき楽しかった。初めて生きてるって感じたよ。ノリとしてじゃなく、城戸辰徳としてな」

 ノリに襟首を引っ張られているせいで、首の後ろに服が食い込んで痛い。

「認めたくないんだよな。俺がやったことをさ。それを認めるってことは、本物の城戸辰徳は俺だって認めることになるもんなあ」

 何も言えない。首を絞められているみたいに、呼吸が苦しくなってくる。

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