表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/87

色々

「あなた、車の免許とか、ないんでしょ」

「そりゃ……タツの免許証を借りれば、無免許運転にはならないかもしれないけど、たぶん事故るだろうね」

 たぶんというか、ほぼ間違いなく事故を起こすだろう。運転した経験はもちろんないし、車を運転する上での一般的な常識も欠如している自覚がある。当たり前だ、車を運転するどころか、同乗する機会さえなかったのだから。

「だったら、そう遠くにも行けないわよね。公共交通機関を使うと、タツの知り合いに見られるリスクも高まるでしょ?」

「まあ……」

「お母さんね、長崎の生まれで、今も長崎に住んでいるの。ここからものすごく離れているわけじゃないけど……あなたの、というかタツの知り合いはたぶんいないわよ」

 俺がなおも迷っていると、母は畳み掛けるようにまくし立てた。

「いい話でしょ、ずっと家の中なんてつまらないじゃない。息苦しいでしょ。長崎なら日帰りで戻ってこれるわ」

「別に、日帰りで出かけようと思えば、僕一人でも……」

「公共交通機関の利用方法も、よく知らないでしょ。よく知らないものは不安で、利用しにくいでしょ。あなた、小さい頃からそうだったもの。お母さんだから分かるのよ」

 他人と話しているという気分は変わらないままなのに、こうして母親面をぶっ込んで来られると気持ち悪いを通り越して恐怖すら覚える。でも、母の提案に心が揺らいでいるのもまた、確かだった。

「……とにかくさ、いくら貸してほしいのか教えてよ。話はそれからじゃない?」

「そうね」と、母は少し嬉しそうな表情になった。俺が取引に前向きだと思ったのだろう。あながち間違いでもないし、わざわざ否定するほどではない。条件を聞いてから考えるのは、悪いことじゃないはずだ。

「できればね、毎月十万円くらい、貸してほしいと思ってるの」

「……毎月かい」

「仕方ないでしょ、生きてるだけでお金がかかるんだもの。文昭の遺産、相当あったんでしょ。ずいぶん前に離婚したとはいえ、私は妻だったのに、一円も入らないなんて。そんなのってないわ」

 その言葉には、さすがの俺も少し腹が立った。父との思い出はほとんどないが、それでも俺の中の何かを侮辱されたような気がしたのだ。

「父さんが死んで、悲しくないの?」

「まさか。そんなわけないじゃないの。文昭は、こんなどうしようもない私のことを、初めてちゃんと見てくれた人だもの」

「じゃあ、どうして離婚したの?」

 母はしばらく黙り込んだ。何かを言おうか言うまいかと逡巡しているような間だった。最終的には、母は深いため息をついただけだった。

「色々あるのよ、大人には」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ