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すべて

「どうして、母さんを……」

「どうして、ねえ。……本当に知りたいのか?」

 ノリの眼光は相変わらず鋭い。こんなに鋭い目で見られたことなど、今まであっただろうか。いや、一度もなかった。心なしか、憎しみさえ感じられる。

「俺がこれから話すことは、お前の中のすべてを覆してしまうかもしれない。いや、きっと覆してしまうだろう。お前はお前でなくなる。それでも聞く覚悟があるっていうのか?」

 僕が、僕でなくなる――?

 一体どういうことだろう。ノリは何が言いたいのか。

「お前はいいよな。聞くかどうか選ぶことができるなんて。俺は選べなかった。いきなり、すべてをぶっ壊されたんだ」

「ノリ……?」

「……決めた。俺だけそんなの、不公平だ。お前には、聞いてもらう。そしてすべて、俺に返してもらう」

 その言葉の意味を考える暇も与えられず、ノリは話し始めた。

「二ヶ月ほど前のことだ。家で留守番してると、いきなり、知らない女が訪ねてきた。いや、完全に知らなかったわけじゃない。どこかで見たような気がした。でも、思い出せなかった。すると女は、自分を俺の母親だと名乗った。

 驚いたよ。幼い頃に俺たちを捨ててどこかへ行った女か、のこのこ戻ってきたんだからな」



「――母さん……?」

「そうよ。信じられないかもしれないけど、私はあなたのお母さん。大きくなったわね……辰徳」

 慈しむような表情と、声色。俺に最初に芽生えたのは、気持ち悪い、という感覚だった。知らない誰かが母親を名乗り、俺に近づいてきているような気がしたのだ。というより、俺に母親の記憶はほとんどなかったし、記憶の中の若かった母親と比べればだいぶ歳を取っていたから、その感覚はあながち間違いとも言えまい。

「今更……何の用?」

「やあね、母親が息子に会いに来るのに、理由が必要なの?」

「だって……今まで一度も、会いに来なかったし、便りさえなかったじゃないか」

「そのことはね、本当に申し訳なく思っているのよ。母さんも理由があって……ところで、もう一人は?」

「もう一人?」

「言わなくても分かるでしょ、ほら、あなたの……」

 タツのことか、とすぐに思い当たった。そうだ、母は俺たちのことを知っているのだ。

「タツなら、仕事に出かけたから夕方までは帰らないよ」

「そう、良かった。彼が出て行ったのを見てから来たんだけど、すぐ帰ってくるならどうしようかと思っていたから」

「……どうしてタツが出て行くのを待ってたの? 会うなら……僕じゃなくて、タツなんじゃないの。だってオリジナルは、タツのほうだし」

 俺がそう言うと、母は驚いた顔をした。

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