違和感
「……ジャーナリストまで使って、場所探ったんだ」
「いや、伊東さんとは目的が一致しただけだよ。この場所は、実さんに教えてもらった」
「実?」
ノリは訝しげに眉を顰めた。てっきり知っているものかと思っていたが、どうやら知らないらしい。
「まあ、いいや。ともかく、ここじゃなんだし、場所変えようか」
ノリは後ろを振り向いて、「おばあちゃん」と呼んだ。嗄れた老婆が、物陰に隠れてこちらを睨んでいる。
「行ってくる」
ノリはそれだけ言うと、バタンとドアを閉めた。それから、僕に一瞥もくれず、階段を降りていく。
「どこに行くの?」
「いい場所がある」
「いい場所って……」
「来れば分かる」
どうやら教えてくれるつもりはないようだ。仕方なく、僕はノリの後ろをついて歩く。
少し歩くと、タクシー乗り場があった。ノリは躊躇うことなく、運転手に声をかけている。僕は驚いたが、ひとまずノリに従うことにした。
「へえ、双子かい。そっくりだなあ。生き写しだ」
「S町のS駅前のコンビニまで」
「あいよ。……兄弟喧嘩かい? 双子って仲良しなイメージだけど、まあ、そういうこともあるさなあ」
僕もノリも無言なので、運転手は諦めたらしくそれから口を開くことはなかった。
やがて目的地につき、ノリは僕がお金を出すより早く代金を支払ってしまうと、さっさと降りた。慌てて後を追う。
僕とノリは口座を共有しており、自由にお金を引き出すことができる。僕もノリもあまりお金を使うタイプではなかったから、しばらく身を隠すくらいは問題なかっただろう。
コンビニから住宅街に入り、さらに五分ほど歩いた。やがて、見知らぬアパートの前で立ち止まる。
祖母のアパートと同じくらい年季の入った建物だ。ただ、一階と二階で住居が分かれているタイプの建物で、フロアまるまる住居となるため、祖母のアパートよりは広い。
階段を使って二階へ上がると、ノリは財布から鍵を取り出し、迷うことなく鍵穴に挿し、回した。僕は何が何だか、ついていけなかった。
「どういうこと? ノリ、部屋借りたの?」
「俺にそんなことできるかよ。法律的には存在しない身なんだから」
「俺、って……」
ノリの一人称は、僕と同じだったはずだ。ノリが見知らぬ人間になってしまったような、そんな錯覚に陥る。けれども、姿はやっぱり僕とまったく同じだ。
「別に。一人称くらいなんでもいいだろ。俺はこっちのほうがしっくりくるって気づいたもんでな」
本当にそうなのだろうか。なんだか、ぎこちない感じがする。明らかに言い慣れていない感じ。とてもしっくりきているとは思えないのだが。




