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 すぐに帰る気にもなれず、僕は母が育った町をもう少しだけ見て帰ることにした。

 タクシーの運転手が言っていた「最西端」とは、日本本土最西端の地である神崎鼻公園のことだったらしい。あまり離れてもいなかったのでなんとなくそこに立ち寄り、砂利の上に座って海を眺めた。

 青い海はどこまでも続いている。都会ではなかなか見ることのできない光景だ。絶景だと思うが、夜であるためか人の姿はなかった。海を独り占めしているような感覚に陥る。

 母もここで、こうやって、海を眺めていたのだろうか。

 母との思い出はほとんどなく、思い入れもなく、むしろ苦手だと思っていたのに、こうして今僕は、母と自分の姿を重ねている。皮肉なものだ。もうこの世にいなくなってから、母について考えることになるなんて。

 それにしても、長い一日だった。

 キーケースを見てから、研究所へ行き、叔母に会い、話を聞き、キタガミさんを尾行し、彼の正体を知り、今はこうして祖母に会うために長崎にまで来た。

 昨日も今日も、信じられないことの連続だった。でもそれらはすべて、僕に関することなのだ。僕は知らなかった自分自身のことを、少しずつ知る旅へと出ている。

 真相なんて知らないほうがいいのではないか――。

 調べれば調べるほど、僕はそんなふうに思うようになっていった。けれども、今更引き返すことなどできないことは知っている。死人が出ている。ノリも今、どこで何をしているのか分からない。祖母に頼っただけの話ならいいけれど、何か弱みに付け込まれていたらと思うと、不安で胸が苦しくなる。

 駄目だ。海のあまりにも広く、先の見えない感じは、僕を不安にする。身体が海の底に沈むことを求めているかのようだ。

 早く帰ろう。

 僕は立ち上がると、スマホで行きとは違うタクシー会社に電話をかけた。

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