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祖母

 僕を押し退けるようにしてドアを開けて出てきたのは、鬼のような形相をした老婆だった。背筋はしゃんとしていたが、身だしなみには一切気を遣っていないらしい。白髪だらけで皺も多いため、ずいぶんと年老いて見える。祖母だから、まだ六○、七○代位だと思うのだが、九○と言われても信じてしまいそうだ。

「あんた……!? 辰徳、じゃなかよね、辰徳なら合鍵ば持っとるもんね?」

 この人は何を言っているのだろう? 合鍵とはなんだろうか?

 僕が考えていると、老婆はいきなり顔を醜くぐにゃりと歪め、それからドアを閉めようとした。僕は慌てて体をドアと老婆の隙間に滑り込ませる。一度ドアを閉められると、もう二度と顔を合わせることもできなくなるという直感があった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「あんたと話すことなんて何もないよ! もう来ないでくれ!」

「ノリが……もう一人の僕が、ここに来ているんですね? 今はいないけど、合鍵も渡しているんですね? ノリに会わせてください! 話をしないといけないんです!」

 誰かに聞かれたら困るのだが、そんなことを考慮している余裕はなかった。この人は、ノリと会っている。そして、間違いなく匿っている。それなのになぜか、僕のことは拒絶している。この人はどこまで知っているのか。ノリがしたことについても知っているのだろうか。僕が知らない真実も。ならばなおさら、このドアを閉めさせるわけにはいかない。

「来ないでよ! 気持ち悪い!」

 その言葉に、僕は少なからずショックを受けた。同じ顔だから気持ち悪さを覚えるのか? でも、双子だって同じ顔じゃないか。それに僕は、オリジナルだ……。

 待て、オリジナルだからなんだというのだ。その思考は、ノリに失礼じゃないか。腹が立ったとはいえ、考えてはいけないことだった。

「じゃあ、ノリに、僕が来たことを伝えてください! 連絡を待っていると!」

「やめて! 来ないで!」

「約束してくれたら大人しく帰ります!」

「分かったわよ! 約束するから、帰ってちょうだい!!」

 大人しく帰ると言ってしまった以上、名残惜しいがこれ以上粘るわけにはいかない。僕は老婆から離れた。瞬間、凄まじい勢いでドアが閉められる。

「借金取りか役所の輩が来たと思って、追い返してやろうとか考えた私が馬鹿だったよ。まさかあいつが来るなんて……」

 独り言なのか、わざと聞かせているのか、そんな声が聞こえたが、僕にこれ以上できることは何もなかった。

 あの人が、祖母か。

 正直に言って、苦手だと思った。こんな初対面になってしまったのだからある程度は仕方がないにしても、気持ち悪いはないだろう。匿っているノリと、同じ顔をしているはずなのに。

 もしかしたらノリも、あんなふうに毛嫌いされているのだろうか? 大嫌いだった娘の息子だから。それでもノリは行くところがなくて、どんなに酷い扱いを受けようとも、ここにいるしかないのかもしれない。

 ノリがここに帰ってくるのならば、きっと会えるはずだ。祖母には悪いが、少し離れたところで見張らせてもらおう。僕にとって最も大切なのはノリなのだから。

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