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「あなたが、北神悠次さんですね。里中さんから話は聞いています」

 いつでも白衣を着て、怪しげな眼鏡をかけて、猫背で歩く――そんないかにもなマッドサイエンティストを想像していた俺は、文昭の紳士然とした容貌に驚いた。

 ぱりっとしたスーツを着て、髭も綺麗に剃り、背筋はぴんと伸びている。やや色白で、痩せ型な印象はあるが、マッドサイエンティストには見えなかった。

「今日はご足労いただきありがとうございました。あなたは僕の研究の手伝いを受けてくださるか、悩んでいるようですね」

「まあ……そりゃあな」

 生命を弄り回すことを悦びとしているような頭のおかしい男が出てきたら、怒鳴りつけるつもりだった。場合によっては暴力も辞さないと考えていた。しかし普通のビジネスの取引のような腰の低さで穏やかに話し始められたことで、完全に出鼻を挫かれた思いだった。

「あなたの気持ちは、よく分かります。僕の研究は、赦されるものではありません。特に北神さんのような、命を扱う聖職に就いていらした方からすれば、忌み嫌うべきものでしょう」

「そう思っていながら、研究を続けているんだな」

「そういうことです。でもひとつ分かっていただきたいのは、僕は生命を軽んじているというわけではないということです。むしろその逆です。僕は命を重く考えている。だって僕の命は、今に掻き消えてもおかしくないくらいか細いものだから。僕は生まれつき、病弱なんです。明日を生きられるかも分からない身だ。だからこそ、クローン研究が必要なんですよ」

「……長生きしてえ、ってことか」

 そんな自分勝手な理由で――などと責める気には、到底なれなかった。俺は、生きたくても生きられない、どんな手を使ってでも、他人を犠牲にしてでも生き延びたい、明日が見たいと願う患者たちに何人も出会い――そして看取ってきた。生きたいと願う気持ちは、誰にも咎めることなどできない。

「最初はそうでした。でも、今は違います。子どもが産まれたから……子どものために、僕はクローン研究を完成させたいんです。でも、そうしたら、僕は長くは生きられない。だから、その後の子どもの面倒を見てくれる人が必要なんです。だから、どうかあなたにお願いしたい。組から出るのとは別に、僕からも報酬は差し上げます」

「人に――それもどこの馬の骨とも知らねえ闇医者に頼まなくたって、お前が長生きすりゃあいいだろが」

「クローン研究はおそらく、誰にでもひとつのやり方が当て嵌まるわけではありません。ひとつクローンをつくれたからといって、同じやり方でもう一体つくれるわけではない。ひとつひとつのクローンにきっと、膨大な時間がかかります。ただのクローンならまだしも、僕が目指すクローンをつくるのには。それなら、僕のクローンなんて後回しでいい。子どものことが優先です」

 俺は腕を組み、ため息をついた。

「分かりそうで分からねえな。別に、お前が長生きすりゃあ、子どもの面倒だっていくらでも見ることができるし、子どものクローンだってあとから作れるだろうが? そもそも、どうして子どものクローンなんざ必要なんだ」

「それは……。まだ確証がないことだから、僕の口からはとても言えません」

「じゃあ、お前が目指すクローンってのはなんだ?」

「オリジナルの穴を埋める存在です」

「もっと分かりやすく言えねえのか」

「すみません。まだ、模索中なんです」

「子どものクローンが必要な理由は、どうしても言えないか?」

「……そうですね。申し訳ありませんが」

「犯罪の片棒担げって言ってるのに、言えねえことがあるってのか」

「はい。そのとおりです。どうしても難しければ、断ってください。でも僕は、あなたならば、引き受けてくれる気がしています」

 仁三郎と同じように、医者に執着する俺の本音を見抜かれたのかと思ったが、文昭の視線は相手を貫くそれとは違った。心の奥底を優しく覗き込んでいるような、そんなすべてを包むような眼差しだった。

「あなたはきっと、寂しい人だと思うから。僕のかつての妻と、同じ目をしています」

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