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尾行

 キタガミさんは一体何者なんですか?

 本当の答えが返ってくるかは別として、そう訊けるのが一番楽だったろう。しかし、キタガミさんの何をも寄せ付けないようなオーラが、僕にそうさせることを拒んでいた。キタガミさんは確かに面倒見がいい。けれども、他人に自分の領域を踏ませないような、そんな威圧感がある。他人に――とはいっても、キタガミさんが僕たちや実さん以外と一緒にいるところなんて見たことがないから、正確には他人にというより、僕たちに、なのかもしれないけれど。それならなおさら、訊きにくい。

 考えた結果、僕はキタガミさんを尾けることにしていた。

 キタガミさんは僕を家まで送り届けたあと、車に乗って行ってしまった。僕は車がないのでタクシーを拾い、「前の車を追ってください」なんて刑事ドラマのようなことを言った。しかし追いかけっこは長くは続かず、キタガミさんは少し先の有料駐車場に車を停めると、スタスタと歩き去ってしまった。慌てて料金を払ってタクシーを降り、キタガミさんの後を追う。

 キタガミさんがコンビニに入った。中に入るとバレそうだったので、外で待つ。少しして、煙草の箱を持ったキタガミさんが出てきた。店の前の喫煙スペースで煙草をくゆらせるキタガミさんを眺める。その他には、特に何も買ってはいないようだ。

 ずいぶん長い間、煙草を吸っていたように思えた。すっかり短くなった煙草をもみ消すと、空にただ視線を投げた。何か考え事をしているようだ。いつでも即断即決のイメージがある人だから、少し意外かもしれない。何でもかんでも知っている人だと思っていたけれど、今回のことにキタガミさんも少なからず動揺があるのだろうか。

 やがて、キタガミさんはまた道を歩き始めた。どこかに寄るでもなく、ひたすら歩く。ビジネス街に入ったかと思うと、裏道へと歩いていった。後を追うと、そこはいかにも治安が悪そうな、日当たりが悪く落書きに塗れ、ゴミ捨て場でもないところに当然のようにゴミ袋が置かれているような場所だった。キタガミさんはこんなところに、何の用があるのだろう。

 やがて、とあるビルの前で立ち止まった。そのビルだけはやけに綺麗で、周りも掃除されているようだった。しかしなんの建物なのかは分からない。どこかの会社のビルだろうか。それにしても、こんなところに建てることはないような気がするが。

 その建物から出てきた人の姿を見て、僕は驚いた。スーツを着た、眼光の鋭い五十代くらいの男だ。頬に刃物か何かでつけられたような切り傷がある。

 堅気の人間ではない、とすぐに分かった。本職の人間ではないか。このままではキタガミさんが危ない。

 そう思ったのだが、意外なことにキタガミさんは、その人物に頭を下げて挨拶をした。

「ご苦労様です」

「よお、キタガミ。お前、事務所に何か用か?」

「いえ……ちょっと忘れ物を。……あの、親父さんはいますか?」

「親父? 親父なら今はいねえよ。若いのがやらかしたらしくてな、ちょっと様子を見に行ってる」

「親父さんが出なくちゃならないようなことなんですか?」

「大したことはねえよ。……つうかお前は、組のことに色々と首を突っ込むんじゃねえ。親父と盃も交わしてねえ半端モンがよ。極道の世界に来た気になってんじゃねえぞ」

「……それは、すみません」

「半端モンに事務所を荒らされちゃあ困る。出直せ。親父か、せめて誰か幹部がいるときにしろ。生憎、今日はみんな出払ってる」

「……分かりました」

 会話の意味を考えているうちに、本職らしき男がこちらに近づいてくるのが見えて、僕は慌てて表通りへと戻った。覗いているのが見えなかっただろうか、と気にしていると、ぽんと誰かに肩を叩かれた。

 心臓が飛び跳ねた。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには、いつも通りの仏頂面のキタガミさんがいた。

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