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研究所

 キタガミさんが運転するグレーのカローラに乗って、僕たちは福岡の山道を走った。

 福岡でも特に都会のほうに住んでいると思っていたが、少し主要道路を外れるだけでこんなにも違った景色になるのかと驚いた。見渡す限りの山だ。ぽつりぽつりと民家とコンビニがあるくらいで、大きなビルやショッピングセンターなども見当たらない。

 父の研究所は、隠されるようにして建てられていた。

 何度も何度も角を曲がり、脇道に入り、視界の悪い曲がりくねった山道を抜けていく。あまり乗り物酔いをしない僕でも、ちょっと具合が悪くなった。キタガミさんの運転が決して丁寧と言えなかったのもある。当の本人はいつも通りの仏頂面で、全然平気そうだったけれど。

 三十分ほど走っただろうか。ようやく、目的の建物が見えた。小ぢんまりとしたマンションのような佇まいだ。とても研究所とは思えない。ただひとつ異質なのは、どこにも窓が見当たらないことだった。

「窓がないですね」

「そりゃあな。クローン研究なんか、バレたら終わりだぜ」

 それもそうか。だから、わざと研究所らしくない外観にしているのだ。

 僕たちは研究所の前に車を停めた。外に出て、改めて外観を眺める。薄緑色の壁に蔦が這っている。研究所の後ろは山になっているから、植物がここまで伸びてくるのだろう。自然のカモフラージュ。人目についてはいけない建物を建てる場所としては適しているかもしれない。

 僕たちはドアの前に立った。どこにでもありそうな素朴なマンション風の外観なのに、ドアはやけに頑丈で重そうな鉄製で、強烈な違和感を発していた。ドアの横に、カードリーダーのようなものがついている。カードキー形式になっているのだろう。

 インターホンらしきものはみ見当たらない。どうやって入るのかと思っていると、キタガミさんが当たり前のように財布からカードキーを取り出し、カードリーダーにかざした。ピッ、と電子音が鳴り、それからガチャリ、とロックが外れる音がする。

「カードキー、持ってるんですね」

「当たり前だろ、初めて来たわけじゃねえんだ。俺は長いことお前の親父の面倒を見てたんだぜ。カードキーくらい持ってら」

「そういうものですか」

「そういうもんだ。いいから早く中に入るぞ。時間が経つとまたロックされる」

 キタガミさんは躊躇いもなくドアを開けると、ずんずん奥へ進んでいった。僕も慌てて後を追い、中に入る。僕がドアを閉めると、ガチャリと音が鳴り、再びロックが掛かった。隣に入り口と同じカードリーダーがあるから、帰る際には再びカードキーが必要になるのだろう。

 中は外観とは打って変わり、まさしく『研究所』然としていた。緑色の塩ビ系床材が敷かれた廊下が続いている。左右には番号が割り振られた部屋が並んでいるが、何の部屋なのかは分からなかった。各部屋にも窓はついていないようだ。

 部屋のひとつから、人影が現れた。女性のようだ。驚いた様子で僕たちを見ている。

「キタガミさん? それと……」

「こっちは、タツだ」

「ああ、タツくんのほう……」

 女性が少しホッとした様子なのが少し気になったが、僕は訊くほどでもないと思い何も言わなかった。

 女性はおそらく四十代半ばくらい。ショートカットで眼鏡をかけている。利発そうだが、冷たい印象は不思議となく、優しそうな印象を受けた。化粧っ気はないが、目が子どもみたいにくりくりとしている。

「いきなり、どうしたんです。電話くらいくれてもよかったのに」

「タツが、いきなり行きたいって言い出したもんでな」

「いきなり? タツくんが?」

「ちょっと、事情があるんです」

 その先の言葉を続けようとしたが、うまくいかなかった。何から話したらいいのだろうか。

 当たり前ではあるが、父の助手だったという彼女は僕とノリの事情を知っているのだろう。そのあたりの説明が要らないのは、楽ではあるのだが。

「……ともかく、ここじゃなんだから、向こうに行きましょうか。休憩室があるの。ほとんど使っていないけれどね」

 女性に先導され、僕とキタガミさんは廊下を歩き、突き当たりの休憩室へと向かった。

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