第八話 起きろよ
「焔豪怒拳!!!」
「聖樹翠斬!!!」
真正面から剣と拳がぶつかり合った。
ドゴオォォンッッ!!
轟音とともに生じた衝撃で互いに吹き飛ばされた。灰になった地面に叩きつけられる。全身の傷がズキ、ズキズキンと軋む。シュンキはなんとか体勢を立て直そうとするが、血塗れになった身体はまともに言うことを聞きやしない。右手に握っている銃が今にも落ちてしまいそうだった。
しかし、それでも剣士は立っていた。脚は折れ、額は血で赤黒く染まり、腕も千切れそうになっている。それでも剣士は立っていた。
「シュンキ、お前は間違ってる」
低い声が呟いた。激化している戦況に似合わないような、低く落ち着いた声が。
「お前は俺を殺すために強くなったって言ったよな」
「…………」
「俺を殺したくて強くなったんだよな」
「…………そうだ」
「俺を殺したいんだよな」
「そうだっつってんだろ!!!」
「本当にそうか?」
「……っ?!」
「力を手に入れた理由は本当にそれか?」
「そ、そうだ!!」
「最強になる目的は何だ?」
「それは……!くっ……」
「お前は俺を殺したいのか?」
「だからっ…………!!!ああああぁ……!!」
シュンキが徐々に狼狽え始めた。心の中で何かが暴れている。そんな感覚に蝕まれていく。足に力が入らず膝から崩れる。銃を握ったまま両手で頭を抱えて悶え叫ぶ。そして彼の精神が崩壊しかけた瞬間、
「起きろよ、シュンキ」
真っ直ぐな瞳で言い放った。グンッ、と心臓を鷲掴みにされる。目を見開き呼吸が止まる。しかし不思議と苦しくはなかった。コウヤは決して瞳を逸らさない。相棒だけでなく、その背後にいる何かをも見据えるように。そのまま静かに言葉を繋いだ。
「俺だって『最強になりたい』と思い続けてる。俺だって毎日必死で鍛錬を続けてる。ひたすら剣振って、新しい技練習して、みんなと必死でクエストクリアして。王国で一番強え奴になりたくて、目の前の事一個ずつやってきたんや。
それにシュンキの事が嫌いになった時もめっちゃあった……それこそ、殺したいくらいにな」
思い返すようにゆっくりと目を閉じる。
「お前は俺に超えられたって言うてたけど、俺は一回もシュンキを超えたとは思ってへん。どんな状況でも対応できるし、戦闘のセンスあるのに誰よりも努力家やし、パーティ全体の事を誰よりも考えてるし。シュンキは間違いなく凄い剣士や」
「ぐっ……うる、さ…………」
「俺はなぁ」
そこで一度言葉を切る。2人きりになった世界に静寂が訪れる。辺りは真っ白、純粋な白だ。穏やかにひとつ深呼吸をして、すっと瞳を開いた。
「ずっとお前の隣に居たいんだよ」
「…………!!」
「お前の隣に居られたら俺はそれだけで幸せなんや。俺の相棒はお前しかおらん。たとえ闇堕ちしても、お前は俺の……かけがえのない相棒やねん」
「…………」
「やからさ。俺たちのパーティに戻ってきてくれへんか?JeiGiItにはお前の存在が必要やねん。また俺たちと一緒に冒険行ったりしようぜ。
シュンキ…………お前なら戻って来れる」
「…………もういい」
しばらく黙っていた相棒が、ついに口を開いた。コウヤはじっと表情を伺う。そして、
「これで終わりにしよう」
シュンキが静かに呟いた。ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。そして両腕を広げ、持っていた銃を離した。
「おい……何すんねん……?」
コウヤは拍子抜けしたように、スローモーションで地面に落ちる銃を見つめる。そして、
カシャン
という音とともに顔を上げた。
「じゃあな、コウヤ。——破浄超新星」
鼓膜を破るような高音とともにシュンキの身体が光り出した。刹那、コウヤが剣を投げ捨てて駆け出す。
「シュンキ!!!!!」
すべての時間が止まりそうになる。足の骨は折れているのに痛くない。
一歩ずつ、一歩ずつ。前に進む。
手を伸ばしてもまだ空を切る。
もう少しや。
もう一歩。
届かへん。
あと何歩で届くんかな。
そもそもここでシュンキまで届いたとして、その後はどうなるんや?
シュンキは助かるんか?
俺は助かるんか?
他のみんなは?
もし助かったら……シュンキは戻ってくるやろうか?
わからん。
そんなんわかるわけない。
ただ今は、走れ。
とにかく走れ。
ずっと届かなかった、あいつの元へ——
「コウヤ、」
ふと顔を上げた時、シュンキと目があった。
哀しそうだった。
苦しそうだった。
だけど、
笑っていた。




