第七話 覚醒
「…………せよ」
「……?」
微かに声が聞こえた。
「殺せよ」
コウヤが項垂れていた顔を上げてニヤリと笑った。それを見てシュンキは冷笑を浮かべる。
「はっ、なんだよ?死に際の悪あがきか?」
「殺してみろよォ……俺を」
はあ?
なんでこいつはこんなに自信ありげなんだ?俺に殺されるところだってのに。どう見てもこいつに勝ち目は無い。
よく分からない。
でもそんなのはどうでもいい。こいつさえ殺せば、俺の願いは——
……ん?
トリガーが鉛のように重い。引けない。撃てない。
これを引けば全てが終わる。はずなのに。
「なァ、かかって来いよ」
剣を握りしめたまま血反吐を吐いて笑う。瞳が狂気に満ちている。こんな空気に負けるわけにはいかない。
「シュンキ。俺を殺せ」
俺は——トリガーを引いた。
パァン
目の前には、何もなかった。
消えていた。
居なくなっていた。
と、
ザシュッ
左腕に痛みが走った。
気づくと斬撃の傷が出来ていた。
痛い。
とてつもなく強い斬撃だ。
いつ喰らった?
この一瞬で俺が見逃すはずがない。
それとも銃が暴発したのか?
一体どういう——
ザシュッ
また喰らった。
今度は右脚。
どうなってるんだ?
……落ち着け。
気配を読め。
どこから来るか予測しろ。
「…………そこだ」
パァン
キィンッ
銃弾がカラン、と地面に落ちる。シュンキは目を見開いた。彼の目の前には、剣を下段に構えたコウヤが立っていた。
「お前っ……どうやって……?」
顔を上げた彼は相変わらず笑っている。まるでこの状況を楽しんでいるかのように。戦闘狂、まさにその言葉通りの姿だった。
「なんやろなァ、何故か力が湧いてきてん」
「どういうことだ……あれほど俺の攻撃を喰らっておいて!!」
「俺にもよォわからんけど……これが“覚醒”ってやつか」
シュンキの目尻がさらに吊り上がり、瞳孔がより一層細くなる。そこには怒りとともに焦燥が表れている。それを悟られまいとさらに怒鳴った。
「お前が覚醒したとて状況は同じだ!!俺がお前を殺すんだ!!!」
炎を纏わせ弾が限界まで込められた銃を乱射する。火の勢いとスピードはそれまでの比ではなかった。轟音とともに標的めがけて飛んでいく。しかしコウヤはひょいひょいと身体をいとも容易く躱し切った。
「……っ?!」
「おおすげえ。弾の動きめっちゃ見えるわ。……これなら戦えるなァ」
チッ、と強く舌打ちをする。怒りの頂点がすぐそこまで近づいているのが自分でも分かった。しかしコウヤもおそらく長くは持たない。
「ゲホッ、ゴホゴホッ……ぐっ……」
コウヤが突然咳き込んだかと思うと、口から大量の血が噴き出した。すでに内臓にまで裂傷が広がっているため、もう彼のヒールでは到底治せない。そんな中、
「俺の弱点、教えたろか」
口元から血を吐きながら言った。シュンキは険しい表情のまま答えない。
「俺の弱点はメンタルを傷つけられて、思っきりボコされて、心も身体もズタボロにされることや」
「はっ、それじゃ今が最大のピンチじゃねえか」
「……でもなァ」
剣身を上げて中段の構えを取る。目線をゆっくりと標的の方へ上げ、切先越しに笑った。
「弱点は、最強になるための条件なんやで」
刹那、コウヤの姿が消えた。シュンキは一瞬呆気に取られたがすぐさま気を集中させた。しかし目を凝らせど耳を澄ませど、何の気配も感じない。
「葉影連」
耳元で囁き声がした。振り向く間もなく、視線が追いついた頃には遅かった。そのまま左腕に強烈な斬撃を受けた。
「ぐっ……!!」
反射的に銃を向けるがもうそこには居ない。今度は背後から脚元に接近されていた。
シュパァン
刃筋とともに大量の葉が舞う。先程までの攻撃速度の比にならない。次々と現れては消え、現れては気配もなく斬り、気づけばシュンキの身体には無数の切傷が刻まれていた。
「ど、どういうことだ……!!焔舞華撃!!!」
相手にペースを握られまいと反撃の爆破弾を撃つ。しかし爆発地点に人の姿はない。それでも必死で銃を乱射する。
カチッ、カチッ
と、装填していた銃弾がここで切れた。舌打ちをして空のマガジンを投げ捨てる。一旦間合いを取ろうと煙手榴弾を手にした。が、投げる前に一瞬で切り刻まれてしまった。
「くっそ…………お前ぇ、どうなってやがる!!!」
ボウッッッ
怒りが爆発的な炎となり周囲を焼き焦がした。彼に属性魔法は使えないはずだが、窮地に立たされた状況が不可能を破っていた。拳に紅蓮の炎が宿り燃え盛る。そして前方から近づいてきた微かな気配に対して殴りかかった。
「焔豪怒拳!!!」
「聖樹翠斬!!!」




