第四話 援護
「そこだ」
パァン
二重に重なる発砲音。空中で弾の軌道が明後日の方向へと変わる。シュンキが放った銃弾は小爆発を起こして散った。
「へーえ。中々やるな」
言い終わる前にもう一発——先程と同じ叢の陰から弾が飛んできた。今度はすっと身を以て躱した。
「流石は村一番の二丁銃士。俺の弾が爆破弾だと分かって、自分達の隠れてる岩に当たらないように弾丸で弾丸を撃ち返した。そうだろ?ユウト」
数秒の沈黙ののち、視線の先からユウトがゆっくりと現れた。二丁拳銃を構えたまま険しい表情を浮かべている。その銃口はシュンキの心臓とこめかみに向けられていた。
「今すぐ撃ってきてもいいぞ。まあ、当たる保証はないけどな」
「俺がそんなに無鉄砲やと思ってんのか?」
「上手いこと言うなあ。パーティの頭脳はやっぱり一味違う」
「うるせえ!!仲間を傷つけといてまだそんなこと言えんのか!!」
「何度も言ってるだろ。お前らはもう仲間じゃねえって」
「お前にとってはどうでも良くても、俺達にとってお前は仲間なんだよ!!」
声を震わせて叫んでもシュンキの表情が変わることはなかった。互いに均衡を保っていたが、先に動き出したのはユウトだった。
「龍巻幻影!!」
呪文を叫んだ途端に竜巻が起こった。再び視界が遮られる。パーティの中で唯一魔法系攻撃が使える彼は、風を操り相手を撹乱させようという魂胆だ。
「同じ手が二回も使えると思うなよ!!」
嵐の中から叫ぶ声が聞こえた。と思えば、砂埃を切り裂いてシュンキが飛びかかってきた。
対するユウトもその動きが読めていたかのように発砲する。
「旋風双弾!」
空気を掻っ切って銃弾が飛ぶ。と同時にシュンキが銃口を向けた。
「虚無炎弾」
纏っている炎は吹き荒れる風の中でも消えない。標的めがけて一直線に飛んでいく。単純な物理攻撃量で言えば二丁拳銃のユウトの方が圧倒的に有利である。さらに風属性持ちはスピードがトップクラスに速い。しかしシュンキは不利を感じさせない立ち回りを見せている。
「お前のスピードはその程度か?銃一丁足りない奴に負けてどうする?」
「くっ……旋空鏡弾!!」
今度は特殊弾で攻撃を仕掛ける。空中で何度も屈折しながら飛ぶため軌道が読みづらい。
「呼乱疾風!風牙穿破!!」
さらに属性魔法で畳みかける。追い風の影響を受けて銃弾のスピードが一層速くなる。音速を超えた弾が次第にシュンキの身体を掠めるようになってきた。
「……って、流石に舐めてたら当たっちまうな」
「舐めとらんくても当てたるわ!!迅雷爆嵐!!」
周囲で暴風が吹き荒れ、体勢を維持することはおろか立つことさえままならない。しかし2人はそんな環境の中でも普通に戦っている。むしろ風の流れを利用して自身の移動、攻撃速度を上げているようにも思われる。
「火影穿突!」
と、霞んだ空気の中から火炎弾がとんでもない勢いで飛来した。不意打ちの攻撃に避けきれず左脚に被弾した。
「っ……!!」
衝撃で風魔法が弱まる。シュンキはその隙を見逃すことなく銃を乱射した。風に煽られ一気に炎が勢いを増す。火力の上がった弾は一発の被弾が重くなる。ユウトはなんとか躱しつつ風弾を放つものの、徐々に形勢不利に傾き始めた。
そしてついに一発の銃弾が顔めがけて飛んできた。
(まずい、避けられん……!)
加速する炎がすぐ目の前に迫っていた。覚悟を決める間もなく咄嗟に目を瞑った。
弾が10cm以内まで近づいたその時、
「潮霊衝!!」
ザバアァンッ、と上空から大量の水が流れてきた。弾丸が地面に叩きつけられ炎が消える。と同時にシュンキとユウトにも滝のような水流が降りかかる。
「っぷはっ……!」
「すまんユウト!めっちゃ水かかったけど許してくれ!泡流飛撃!!!」
叫ぶ声が聞こえたかと思えば間髪入れずに泡状の弾が飛来する。泡が弾けると同時に小爆発が起こった。またあいつか、と人影の方面へ銃口を向けた。と、
「翠旋光!!」
煙の中から剣士が飛び込んできた。鮮やかな緑色の光を纏った斬撃が身体のすぐ側を駆け抜けていく。シュンキは一旦身を引いた。
「波影疾走!」
「蔦風裂閃!」
それを逃すまいと二人は連続攻撃を仕掛ける。エイスケの水属性技の流れに乗ってコウヤが草属性の剣で斬りかかる。シュンキも対抗して属性攻撃を繰り出すが、水属性に対して不利であるため火力が僅かに下がっていた。
「傷火燥葬!!」
「水鏡連舞!!」
銃弾が纏った炎を乱反射する水流が消して回る。コウヤは属性有利を持ったエイスケを守るように動いている。とそこへ、
「凍晶霜影!!」
「空禍散弾!」
回復によって立ち直った蒼山とユウトが加勢した。各地で生じた小竜巻が霙の斬撃を巻き込んで相手のもとへ吹いていく。こうなると圧倒的人数有利だ。
「波魂衝!」
「蒼風双閃!」
「氷煌昇華!」
三人が同時に技を放つ。これには流石のシュンキも足止めを喰らった。仲間の援護を受けてコウヤが高く跳んだ。
「断幹聖斬!!」
上空から勢いよく剣を振り下ろした。強烈な一撃がシュンキに当たる。途端に上半身から血が噴き出した。ここにきて初めて大ダメージを与えられたようだ。
「ぐぁっっ……!!」
シュンキの動きが止まる。銃を下ろし空いた左手で傷口を抑える。彼は自分で回復が使えないため、大きな傷を負うと復帰に時間が掛かるのだ。もちろん他のメンバーはそれを知っている。そこで各々がシュンキを囲むように間合いを取り様子を伺った。
「ぐっ……くっそ、流石にこの人数相手は厳しいか……」
「シュンキ!!俺たちはお前を殺したくないんや!もうこんな事辞めにしよう!!」
正面で剣を構えたコウヤが叫ぶ。
「誰かに負ける悔しさは死ぬほど分かるけど……強さに嫉妬して殺したって何にも生まれへんぞ?!」
「うるさい!!お前に何が分かる!!!」
シュンキが吐き捨てるように叫んだ。どんどん呼吸が荒くなる。憎悪からか、嫉妬からか、負の感情が彼の瞳をさらに黒く燃やす。
「俺は死ぬ気で鍛錬を積んできたんだ。お前を殺すためなら何でもやった!!……どんな手段を使ってもな」
「ど、どういうことや!!」
「お前らには俺の真の姿を見せてやろう」
そう言ってシュンキは大きく息を吸い込んだ。そして、
「三白眼・焔影灼魂」




