第三話 火花と悪夢
「荊棘監獄!!」
構築された蔓の籠を灼熱の銃弾が貫通する。コウヤが散らばった薬莢を踏み潰しながら間合いを詰める。シュンキは宙に跳んで斬撃をかわし、振り向きざまに撃ち込む。
「虚無炎弾」
本来なら属性不利が付くはずのコウヤの剣は、的確に弾の勢いを弱め跳ね返す。再び木壁を張ったところでコウヤが叫んだ。
「ハァ、ハァ…シュンキ!いい加減目ぇ覚ませよ!!俺らが戦っても意味ないやろ!」
「うるさい。俺はお前を倒すんだ」
そう言いながらもシュンキは銃を撃つ手を止めない。コウヤは必死で避けながら間合いを取った。
「お前は俺の最大の敵だ。目障りなんだよ」
「何言うてんねん!!今まで一緒に戦ってきた仲やろ!なのに急に俺の前から消えやがって……この5年何してたんや!」
そう叫ぶ声には明らかな怒りが込もっている。シュンキは淡々とリロードしながら答えた。
「旅に出ていた」
「なんのために?」
「修行していた。お前を超えるために、お前を潰すために」
「なんでそんな俺を潰そうとすんねん!!」
突然銃弾を込める手が止まった。そして鋭い視線をコウヤに向ける。
「お前にはわからないだろうな。ずっと一緒にいた相棒に、実力で超えられた時の悔しさと怒りが!!」
「……っ!」
コウヤは構えていた剣を下ろした。見開かれた瞳に冷酷な表情が映る。
「昔は俺の方が強かった。属性有利も持ってたし力も優ってた。そのはずだったのに……」
一瞬だけ声が揺らぐ。そしてそれを隠すように言葉を吐く。
「俺はお前に超えられたのが許せなかった。村の青年戦士試験も先にクリアしたのはお前だった。先にガラパゴスの大岩を破壊したのも、先に術乗りの剣技を習得したのもお前だった。俺はいつもお前に負けてた。それが……それがどうしようもなく許せなかったんだ!!」
言い終わる前に再び銃を構えて発砲する。コウヤは剣を構え炎を纏った弾丸を弾き返す。それを見たシュンキの顔から感情が消えた。
「お前はもう相棒なんかじゃない……宿敵なんだよ」
炎のせいか、怒りのせいか、銃弾の速度が上がる。コウヤもなんとか喰らいつこうと必死に剣を振った。しかしついには連射された攻撃を避けきれず肩に被弾した。焼けるような痛みと熱さで剣を落としそうになる。
「ぐっ……!くっそ、」
しかしシュンキは構わず撃ち続けた。悶えるコウヤの腕を、脚を、脇腹を撃ち抜く。空のマガジンが床に落ちる頃、ズタズタになったコウヤの袖口からは血が零れていた。
「はっ、お前弱くなったんじゃねえか?こんな弾も避けられないなんて……がっかりしたよ」
その顔は一切笑っていなかった。
「まあ当然だよな。俺の方が厳しい鍛錬を耐え抜いてきたんだから。……お前は知らない、今までの俺の苦しみの全てを」
左手に炎を宿し銃身を撫でる。途端に炎は銃に移り、銃口が燃え盛っている。ゆらめく炎がシュンキの無表情を照らす。
「これで終わりだ。火影穿突」
迷いもなく引金を引いた。パァン、という発砲音から烈火の轟音が響く。空気を切り裂く龍のように、銃弾が相棒の心臓方向へ吸い込まれていく。コウヤが最後の力を振り絞って剣を振り上げた。
とその時、
「鉄砲水弾!!!」
ゴゴゴゴオォォォ……
横から破竹の勢いで流れてきた水流弾が炎の弾丸を包み弾き返した。シュウゥゥ……という音とともに火が弱められ、ついには完全に消えてしまった。
「誰だっ!!」
シュンキが水源の方向に視線を移した瞬間、
「氷針雹!!」
今度は反対方向から細い氷の針がヒュヒュヒュンと無数に飛んできた。咄嗟に反応したがその速度に対応しきれず、銃を握っていた手に何十本も刺さった。
「ぐっ……くそ、痺れる……」
刺さった氷の針がじわじわと根を張り神経を凍りつかせようとしてくる。しかしすぐに左手の炎で溶かしてしまった。
「やってくれたな、お前ら」
シュンキの両サイドに居たのはエイスケと蒼山だった。
「あっぶねえ、なんとか間に合ったわ」
「やっぱ俺は属性不利か。長期戦はしんどそうだな」
「エイスケ、あおやん……」
「コウヤ!助けに来たぞ!!潮霧幻弾!」
スリングショットから技を繰り出しエイスケが叫ぶ。それを聞いたシュンキは攻撃をいなして首を傾げた。
「そうか、お前もそっちにつくんだな。あの時俺を止めなかった——むしろ行けと言ったのはお前だったはずだけどな」
「それはそうやけど……やっぱり間違ってる!!こんな争いは誰も幸せにならねえよ!!」
「幸せかどうかはもう問題じゃない。そんなのはどうでも良いんだ」
「じゃあ何のために!!」
「ずっと言ってるだろ。俺はコウヤを倒して最強の戦士になる」
「仲間を犠牲にして最強になっても何の価値もないだろ!」
「価値があるかないかは俺が決める。勝手に価値観を押し付けるな」
「くっ……」
言葉が詰まってしまう。それ以上言い返せない、というよりむしろ彼なりの選択だった。たとえ堕ちてしまっても一人の仲間として、人間として接したい。そうして『あの時』のように言葉を飲み込んだ。
「……仲間を裏切ったお前にそんなことが言えるか」
とその横で蒼山が静かに呟いた。
「あ?」
「価値観?お前にそんな綺麗事を言う権利はない」
「…………」
「お前は俺達を裏切った。その責任は必ず取ってもらうぞ」
「責任ねぇ。そんなもん俺には……」
「氷雷双斬!!」
シュンキが言い終わる前に、蒼山は彼の目前で剣を振り翳していた。鋭い氷の二重斬撃が耳元を掠める。軽い身のこなしで躱すシュンキに対してさらに攻撃を重ねる。
「深雪凍斬!!!」
今度は足元を狙って斬った。刀身近くの冷気で下半身の動きがほんの一瞬鈍る。しかし纏った炎ですぐに溶かされてしまった。ひどく冷たい属性攻撃と相反して、蒼山の目には確かな熱が激っていた。
「焔舞華撃」
ものすごい勢いで銃が乱射される。一つひとつの銃弾が火花を散らしながら飛び、着弾点で小爆発を起こした。
「臨界氷壁!!」
「紅蓮流砕」
構築した巨大な氷壁も連射撃によっていとも容易く砕かれてしまう。一息もつけぬまま、それでも互いに攻撃をやめない。言葉は要らない、解り合えるのは力でのみだ。そう語るように。
「炎光旋舞!!」
散乱しながら飛んでくる、炎と熱を纏った光線。その速度に追いつけずついに双剣の片割れが弾き飛ばされてしまった。咄嗟に拾いに行こうと手を伸ばすが、光線銃の追撃によって阻まれる。
バシュッ
弾丸が確かに蒼山の左腕を撃ち抜いた。焼け焦げる痛みが走り悶える。衝撃で双剣も手の届かない距離まで飛んでしまった。
(まずい……このままだと……)
身一つになった蒼山に容赦なく銃口を向ける。
「お前の本気はそんなもんか?呆れたよ」
引金に指をかける。と次の瞬間、
ブオオオオオォォォ……
轟音とともに暴風が吹き荒れた。砂埃が舞い上がり途端に視界が悪くなる。袖で口元を抑えつつ目を凝らすが、僅か一寸先も見えない。
そして嵐が収まると、蒼山達の姿は消えていた。
「チッ、何処行った」
周りを見回していたがやがて動きを止めて耳を澄ませた。そして、トリガーを引いた。
「そこだ」




