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第4話 世界の理

人間達の方を向くと、1人だけどう見ても日本人の見た目のやつがいた。

ジャージを着て、母を見ながらニタニタと笑っている。

鑑定をすると、名をリュウジと言い、レベルもステータスも俺より少し下くらいで、到底母に勝てる存在には思えなかった。

だが、称号欄には『勇者』と『転生者』の文字があった。

そして、俺の認識を覆したのがスキル欄だ。

『ユニークスキル:即死攻撃(デッドリーアタック)

効果を見ると、【自身が敵と認識した生物に攻撃を当てると、その生物は死亡する】と書かれていた。

チートにも程がある。

母は鑑定を持っていないので注意しようとしたが、既に遅かった。

俺の目の前で、母は物言わぬ(むくろ)と化していた。

母の言葉が脳裏(のうり)(よぎ)り、俺はすぐさま『スキル:飛翔』で飛んで逃げた。

不思議なことに、人間達は俺には攻撃して来なかった。

その代わり、頭に機械音声が響く。

《『スキル:追跡』の対象になりました》

《『スキル:追跡』の効果により、どこに居てもマティーに居場所が表示されます》

そのアナウンスは、絶望でしかなかった。

『マティー』とは恐らく勇者の仲間だろう。

あえて俺を逃がして、狩りを楽しむ気なのだろう。

これで俺の死は確定してしまった。

なんとかならないかと思考を巡らせた。

その過程で、まず状況を整理した。

この世界には『勇者』と呼ばれる転生者が既にいたのだ。

だから俺はドラゴンに転生した。

きっと『同じ世界に勇者は2人もいらない』ということだろう。

異世界転生してチートスキルで勇者になった奴に産みの親が殺された。

産みの親であり自分にとって最強の存在が、あっけなく殺された。

それが意味することは1つしかない。

ドラゴンである自分は所詮『倒される敵』でしかないということだ。

これは当然の常識だったのだ。

異世界転移すればチートスキルが貰えるのが当然だし、異世界転移した者が勇者になるのも当然。

勇者がモンスターを殺すのも当然。

それもドラゴンというモンスターは、魔王城に行く前の肩慣らしに丁度いい相手だ。

それが日本でもファンタジー世界でも共通する『常識』である。


……なぜ、()()()()()しているんだ?

そもそも、なぜ異世界でも人間が繁栄できている?

最初に居た地球では、科学技術が発達したから繁栄した種族だった。

それなのに、いわゆるファンタジー世界では中世程度の科学力しかない。

ファンタジー世界がどういう風に発展してきたのかは不明だが、普通の人間はモンスターには勝てないはずだ。

ファンタジー世界らしく魔法が使えても、レベルアップしなければすぐに強いモンスターに襲われて負けるだろう。

そんなか弱い人類がどこの世界でも繁栄している。

きっとその理由は『神がそういう風に創ったから』だ。

神によって創られたどこの世界でも共通の常識。

この常識を『世界の理』とでも呼ぼう。

地球であっても、人間は人間以外の生物を自由に殺していた。

植物や魚類は食用とされ、人間と遺伝子が80%同じである牛ですら、どの世界でも家畜扱い。

つまり、『人間は人間以外なら自由に殺戮(さつりく)できる』という共通の常識が存在する。

例外として、人間なのに人間ではないと認識された者も、その『世界の理』で殺される。

ドラゴンであった俺は、このふざけた『世界の理』に則って殺された。

こんな理不尽な『世界の理』なんてもの、ぶっ壊してやる!!

そう心に決めた俺のチートスキルは『ユニークスキル:無断転生(むだんてんせい)

できることは単純。

自分が死んだ後、神に無断で記憶やステータス、スキルなどの全ての能力を引き継いだまま別の異世界へ転生することができる。

この『神に無断で』の部分は、既に異世界転生してる上に、ドラゴンの力をそのまま引き継いだ人間が転生するのは、その世界の神が許さない可能性が高いからだ。

さらに、俺にはもうひとつチートスキルがある。

最初に居た世界で俺を追い出した奴が与えてきたスキル、その名も『ユニークスキル:転生者(てんせいしゃ)

このスキルは、一生に一度だけ好きなスキルを創れるスキルだ。

スキルは産まれた瞬間に決めてもいいし、大人になってから決めてもいい。

俺はこの『ユニークスキル:転生者』によって『ユニークスキル:無断転生』を獲得した。

さて、この『ユニークスキル:転生者』と『ユニークスキル:無断転生』を組み合わせるとどうなるか、それは次の人生のお楽しみだ。

そう考えれば、今の状況は悲観することでもなくなった。


そうと決まった俺は火山に戻った。

戻って来た火山に()()()のは、牙をもがれ、鱗を剥がされた母の亡骸だった。

あの優しかった瞳は、もう何も映していない。

かつて俺を守るために笑っていたその顔が、無残に切り裂かれている。

胸の奥が熱くなり、呼吸が乱れる。

だが、今ここで冷静さを失えば、奴らの思う壺だ。

母を解体していた勇者達が俺に気付いて嘲笑(あざわら)う。

「おいおい、バカな低脳生物が戻って来たぜ」

「巣に戻って来るなら、スキル使うまでもなかったわね」

「わざわざ殺されに来るとは、ドラゴンの考えることは理解できんな」

この言葉で、怒りが頂点を超えて逆に冷静になれた。

これからすることへの躊躇(ちゅうちょ)が無くなった。

俺は山頂の中央部分に降り立つ。

そして俺は、全力で山頂の地面を殴った。

ドラゴンの全力パンチだ。

山頂の一撃で地面は崩れ、マグマ溜まりに直結する程の大穴ができた。

魔術師らしき人間が自分にのみ防御魔法をかけていたが、落下するのは防げないようで、シャボン玉のような防御壁ごとマグマに沈んで行った。

勇者リュウジは最後に「この……クソ低能生物がああああ‼」と罵声(ばせい)を飛ばしながら、地の底へ落下し、マグマに飲まれた。

俺自身は『スキル:飛翔』で生き残ることができたが、もうこの世界でやりたいこともないし、生きる希望も失った。

勇者達と共にマグマに沈んで行く母の亡骸に向かって

「今までありがとう……でもごめんね、母さんの最後の願い、叶えてあげられないや」

そう言って『スキル:飛翔』を解除し、マグマに飲まれ、激しい痛みの末意識を失った。

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