第1話 真っ暗
ふと目を覚ます。
目を開けて外を見ようとするが、視界は真っ暗。
何も見えない。
(どこかに閉じ込められているのか?)
そう思い、状況を確認するために腕を伸ばす。
すると、硬く冷たい壁のようなものにぶつかった。
その壁を伝いながら出口を探そうとするが、手の届く範囲は全て壁に覆われている。
まるで、箱の中に押し込められたようだ。
手を伸ばせば四方に壁がある。
ならばやることはひとつだ。
「ぴきゃ!」(この壁をぶっ壊す!)
叫ぶと同時に、全力で壁を押した。
ピキッという音が響き、手応えが伝わる。
さらに力を込めると、壁に亀裂が走り、ポロポロと剥がれ落ちる。
ついに穴が空いた。
穴から外を覗くと、赤い光が目に飛び込んできた。
外は一面、赤だった。
……おかしい。
何をどう考えてもおかしい。
普通、異世界転生の王道展開なら、貴族の屋敷や温かい家庭に産まれるはずだ。
それがなぜこんな狭い場所に閉じ込められ、赤い光に囲まれている?
そして何より、さっき叫んだ時の声は何だ?
普通の赤ん坊なら「おぎゃあ」とでも言うはずなのに、「ぴきゃ!」と聞こえた。
嫌な予感が胸をよぎる。
さっき開けた穴の周りをさらに押してみた。
ピシピシッと亀裂が広がり、壁が音を立てて崩れる。
穴がどんどん大きくなり、ついに十分な隙間ができた。
俺は外へと出る。
赤い光に目を慣らしながら周囲を見回すと、地面は濃い茶色で、少し離れた場所にマグマが流れているのが見えた。
ここは、どうやら火山地帯だ。
だが、そんな環境以上に、目を引くものがあった。
目の前に、ひと際目立つ巨大な存在。
近くに立っているだけで、その赤い鱗から反射する光が眩しい。
それは真っ赤な体躯に、広げれば空を覆い尽くしそうなコウモリのような翼。
圧倒的な存在感を持つその生物が、美しい金色の目でじっとこちらを見つめている。
俺はこの存在を知っている。
『ドラゴン』
異世界でも最強格とされる伝説の生物だ。
嫌な予感は、ここで確信に変わる。
もしかして、俺が閉じ込められていた「狭い空間」というのは……
(まさか俺は、このドラゴンの卵の中にいたのか?)
ドラゴンの金色の目は、どこか優しさを湛えているようにも見えた。
だが、その巨大な体躯と異様な威圧感が、俺の全身に緊張を走らせる。
俺は、ドラゴンに転生してしまったのか?