第0話 死後の世界
人生ってのは、こんなにあっさりと終わるものなんだな、と思った。
大学帰りに、ふと寄り道して家の近くの公園を歩いていた時のことだ。
「この社会のシステム、いったい誰のために作られてるんだろうな……」
そんな考え事をしながら歩くのが癖だった。
大学で哲学を専攻しているわけでもない。
ただ、世の中のルールや秩序がどうしてこうなっているのか、いつも気になっていた。
今日もいつも通り考え事をしながら曲がり角を曲がろうとした瞬間、耳を劈くようなクラクションが響いた。
驚いて顔を上げると、目の前に巨大なトラックのフロントガラスが迫っていた。
反射的に足が止まったが、そんなものは意味を成さない。
次の瞬間、鈍い衝撃が体を襲い、視界が激しく揺れた。
空気を切るような音が耳元で鳴り響き、意識が遠ざかっていく。
暗闇の中で、俺はただ思った。
「ああ……死んだんだな」
それが、俺の最後の記憶だ。
「ふむ……貴様が遊六斬司だな」
威厳のある低い声が響いた。
「誰だ?」
周りを見渡そうにも、何も見えない。
ただ、声だけがどこからか響いてくる。
「貴様の思想は、この世界では異物だ。
秩序を乱しかねん。
そこで、我々は決断した」
「……決断?」
「貴様をこの世界から追放する」
一瞬、意味がわからなかった。
この世界から追放?
俺の思想が異物だから?
俺はただ、普通の大学生として、自分なりに世界を考えていただけだ。
「……つまり、俺は別の世界に行くわけか?」
「そうだ。
貴様は別の世界で、今とは別の存在として生まれ変わる。
いわゆる異世界転生というやつだ」
異世界転生系の作品はある程度知っていたが、まさか自分がなるとは思いもしなかった。
ということは、お約束のチートな能力とかが貰えるのだろうか?と考えていると、思考を読んだように声が響く。
「安心しろ。
好きな能力を1つ与えてやる。
それがせめてもの慈悲だ」
「能力……か」
ふと冷静になり、俺の頭は疑問をはじき出す。
どんな世界に行くのかも分からないのに、能力を選ぶ?
「……それはリスキーじゃないか?」
「ほう?」
「どんな世界に行くか分からないのに適当に能力を選べば、全く役に立たないかもしれない。
あるいは、必要以上に注目を浴びて危険かもしれない。
こんな何も分からない状況で能力を選ぶのはリスキーだ」
「……なるほど。
流石の順応力だな。
もうこの状況を理解し、そんな答えにたどり着くとはな」
「ならばこうしよう。
一生に一度だけ自分のスキルを好きに創れる能力を与える。
これで文句はなかろう。
ではな、異端者」
それが奴の最後の言葉だった。