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「君と復縁したら、君を王家に取り戻すことになる、と短絡的に考えた、のだろう。多分」
公爵は第二王子の頭の中が理解できないらしく、そう続けた。
「私はもう書類上閣下と婚姻しています。そもそも復縁って……どうするつもりなんでしょうね」
公爵は腕を組んで考え込んだ。
「何も復縁せずとも、そなたを攫ってどこかへ閉じ込め、研究開発だけさせておけば良いと考えたのではないか?」
いつの間にか丁寧に茶葉を蒸らして香り高い紅茶を三人分入れ終ったマグドゥールがぽんと割り込んだ。
「その血が欲しければ、子供だけ作らせればよかろうし」
出来た子供は、異能が発現すれば我が子とすれば良い。
「気持ち悪い……」
思わずアズュリアは呟いた。
それを聞いてマグドゥールは笑った。
「第二王子に未練はないか」
「あるわけございませんでしょう」
「あちらにはあるかもしれんぞ」
意味ありげにこちらを見てくる。アズュリアは顔をしかめた。
「ありえませんし、そうであったところでだからなんだと言うのです」
「そなたに執着しているという可能性も考えておいた方がいいという事だな」
そうであれば、王妃がたきつけて王子をこちらへ向かわせた、とも考えられる。
「ということは、王家の手の者が配されている可能性もあると」
「まあそうだな」
こくり、と紅茶を一口飲んで心を落ち着かせる。いい香りだ。
「私が来て良かったかもしれんな」
マグドゥールは呟いた。
果たして第二王子はやってきた。
なんとアズュリアの妹を連れて、正面から突撃してきた。
「私は王子だぞ。さっさと中へ入れろ」と喚いたらしい。
アズュリアは知らせを聞いてこっそり転移し、木陰からその様を眺めた。
執事長が対応に出ていたが何を言われても鉄仮面のように表情を変えていなかった。
「失礼ですが、あなた様が王子殿下であるという証拠がございません」
つらりと答えていた。
「なんだと!」
王子の顔が真っ赤に染まった。
「先触れもございませんでしたし、仮にも王子殿下でいらっしゃるならそのような無作法はなさいませんでしょう」
まして他家の門の前で見苦しく騒ぎ立てるなど。
そう言われて、王子は周囲を見回した。
普段であれば街から離れた公爵邸の門の前など殆ど人がいない。門番がいるくらいだ。
だが、この王子は街でだいぶ暴れたらしい。
無理やり調達したらしい馬車には迷惑そうな顔で御者が座っており、用が済んだならさっさと金をよこせといった風に王子を見ている。
馬車の後ろには荷馬車が続き、そこにも数人街の人間が乗っていた。
「なんですかあなた方は」
執事長が背後の人間に尋ねる。
中で一番体格のいい男が前へ出てくる。
「そちらの王子様とおっしゃる方が、街で散々飲み食いして金はこちらで払うとおっしゃいましてね」
執事長はちらりと王子を見る。
「当家が支払う義理はございませんが?」
「手持ちがなかったのだ。後で払うから代わりに払っておいてくれ」
王子は堂々と言ってのけた。
「先ほども申し上げましたが、あなたが王子殿下である証拠がございません。あなたのような方に施しをするいわれはございませんよ」
「公爵かアズュリアを出せ。そうすれば私の顔が判る」
焦れたように王子は言う。
「生憎と此度の渇水で忙しく、主人は他領に出ておりますし、奥様も屋敷にはいらっしゃいません。いずれにせよ得体のしれない方の前へお連れするわけにはまいりません」
「姉さまもいないの!妹が来たって言うのに出迎えもしないの!」
わけのわからない事を喚きだしたのは妹。
この調子で喚けば周囲が姉を責め立てたのはエスタリア家にのみ限った話である。
アルカミラの執事長は鉄面皮で受け流した。
「あなた様も、奥様の妹であるという証拠がございません。先触れをお出しください」
「手紙を出したって、そのまま送り返されてくるんだもの、先触れの出しようがないじゃない!」
「ではますます王子殿下に先触れを出して頂くべきでしたね」
執事長は答えた。
「奥様が妹君の手紙をそのまま送り返されるわけは、もうご実家とは関わり合いになりたくないからでございますよ」
「私は妹よ!その事実は変わらないじゃない!」
「ですから、王都を出る時に、エスタリア公爵家からは籍を抜いておいでになりました。もう奥様はエスタリア公爵家とは縁もゆかりもない方なのでございますよ」
執事長がにっこりと笑うと、妹は何故かショックを受けたような顔をした。
「おや、ご存じなかったので?見届け人は国王陛下だそうでございますよ?」
それには王子が驚いたような顔をした。
「そんな話は聞いていないぞ!」
王子が再び喚いた。
「お聞きになっておらずとも、それが事実でございます。わざわざあなた様にお知らせする必要もありませんでしょう。関係のない方でございますから」
執事長は慇懃に頭を下げ背中を向けた。
「ちょっと待ってくれ、執事長殿!こいつらの支払は!」
先ほどの男が声をかける。
「王宮へ請求するか、身に着けている物で支払っていただけばよろしいでしょう。どちらもそれなりの物をお持ちでございますよ」
執事長の答えに男たちは二人を見る。
二人はぎょっとしたように身を寄せ合った。
「近づくな、無礼者!」
王子が喚いたが、男達は二人を取り囲み、妹の頭でキラキラしていた髪飾りを引き抜いた。
「何するの!」
妹が叫んだ。
「多分これ一つで釣りが来るとは思うが」
男は呟いた。
「光り過ぎなんだよな」
別の誰かが言う。
「返しなさいよ!」
妹が手を伸ばすが、男たちはそれを持ってさっと身をひるがえし、妹の手を逆に掴んだ。
「何をする!」
王子が腰の剣を抜こうとするがその前にその手も男の一人に掴まれた。
「あんたがた、このままじゃ無銭飲食だのただ乗りだので警邏に突き出すしかないんだが」
二人はうっと黙り込んだ。
「それでいいなら返すけど、ただ、これ……」
男の一人が日にかざしてみたり目に近づけてみたりして首をかしげる。
「真ん中の石は本物だけど、周囲の細かいのは模造だね。多分」
「なんですって!適当な事言わないでよ!」
「いや、だって俺元宝石商で、宝石商の息子だよ?鑑定士の資格もあるし。いやまあ、信じなくてもいいけど。じゃあ警邏行こうか」
その髪飾りをちょいと妹の銀の髪へ刺しなおして二人を連れ、馬車へ無理やり乗り込ませる。
警備隊へ行くとなれば、結局公爵配下の施設へ入ることになるのだが。
「私は本当に王子なんだ!後悔するぞ!」
王子は諦め悪く喚き散らす。
「だから、そうかもしれないけど、今は証拠がないって言ってるんだよ。嫌なら金払ってくれれば済む話なんだけど。めんどくさいな。第一なんだって伴もつけずにこんな所へ二人で来たんだよ」
元宝石商と言った男がうんざりしたように言う。
「王都はそういう理不尽が通るのかもしれないけど、アルカミラはそうじゃないんだ。対価はちゃんと払ってくれ」
別の男も言う。
伴もつれずに来たのは、そもそもあの事件以降おざなりな傍仕えしかつけられていなかったからだ。途中で簡単に撒けた。
アズュリアの妹に関してはもっと簡単で、エスタリア家ではどんな我儘も通す事になっている。途中で王子と落ち合って、以降はついて来るなと言えばそれで済んだ。誰も逆らわない。
つまり二人とも、アルカミラへ遠出して来る事はよろしくないと判っているという事だ。
そして見通しが甘く、王都から五日の旅程で手持ちを使い尽くしてしまったらしい。それは二人の事だ。宿も食事も高級な所しか選ばなかったことだろう。
眩暈がおさまらない一日でした。波があるようです。
アロエが植わっていた覚えのある鉢は雑草がわっさりと生えておりました。
枯れたのか……?アロエが……?
実家に戻ってからこっち、庭の剪定と草取りにばかり一生懸命になってて(だってお隣に迷惑かかるし)、鉢にまでは意識が向いてなかったのですが(鉢はガレージにある)。いやはや。
沢山来て頂いてありがとうございます。
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