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 アズュリアは短くなった髪を解き、息を止めると水の中へ頭の天辺まで潜り込んだ。


 本来は毒である菫青。


 だが地の力の受容体であり、地の力を安定させる。


 安定した地の力とは何か。


 魔力なのか神力なのか。


 アズュリアは砂鉄を想像する。


 砂に磁石を寄せると、一斉に集まり、磁石を動かすと一斉に後をついてくる。


 ばらばらになっているものを吸い寄せ、同一方向へ向ける。


 アズュリアは「浄化」に「方向付け」を加えてそれをなし、水の中の「地の力」は「神力」に変じた。


 今、水の中にたっぷり含まれたそれは、アズュリアの全身を髪の一本一本まで浸し、肩の治りかけの傷に集まり、体内へまで染み込んでいる。




 息が続かなくなって、水からざばりと顔を上げた。


 最初は冷たかった水も、今や心地が良い。


 ずっと浸かっていたい気もしたが、青い光はだいぶ少なくなっていた。


 己が吸収してしまったらしい。それも驚きだ。


 大きく息をついて、水から上がる。


 身体は冷え切っているかと思いきや、肌の奥から熱がじわりと湧き上がってくる。


 浴室の床に置きっぱなしにしていた鞄の中から身体を拭う布を取り出しながら、そう言えば今日は洗濯をしていないと思い出した。


 盥にまだ神力の残る浴槽の水を移し、脱ぎ捨てた衣類や、昨日の服等放り込んで洗剤を混ぜ、何度か足で踏み洗いする。


 血で汚れたシャツとローブは別洗いにした。


 穴が開いてしまっているので、繕うか、廃棄するかしなければならない。


 仕上げは浴室に設置されている水道の蛇口からのろ過された水で濯いだが、この水にも地の力は豊富に含まれているのだろう。アズュリアが試しに先ほどと同じ浄化を施して神力で見ると、真っ青に光っていた。


 ただ、若干の魔力も含まれている。


 これは恐らく、水をろ過し浄化する公爵家のシステムが魔力によっているからだろう。


 システム開発者は、北山からの水に含まれている地の力に気が付いていたのかもしれない。


 いつものように下着類は浴室内にロープを張って干し、他の物は外に干そうと小ぶりの桶にその他の洗濯物を入れて浴室を出た。


 ---アズュリア、外に出るなら服を着なさい。


 黙っていたアルテラに突然話しかけられ、風呂上りの癖で布を羽織っただけだった事に気が付いた。


 このままでいるのが好きなせいもある。ガーゼ地だけの服を作りたいとさえ思う。


 仕方なく桶を置いて鞄から着替えを出した。


 緩い恰好をしたくて大きめに作ったワンピースを着る事にした。


 ---あと、鏡を見て。


 言われて、ドレッサーの方を見る。


 見慣れた濡れ髪の女が映っている。


 見慣れない髪色をして。




 アズュリアの漆黒の髪は、濡れた艶に紫紺を浮かべていた。


 最初は濡れているせいで光の反射がそういう色に見せているのかと思った。


 だが目の前に一房持ってきてまじまじと見つめて、それが己の髪の色だと確認してしまった。


 原因は神力をたっぷり吸収してしまった事か……?


 いつもの通り「乾燥」で水分を飛ばすと、大分紫紺は薄らいで元の漆黒に近くなった。


 それでも、窓辺によって太陽の光を当てると、透かした色は紫紺が浮かぶ。


 「まとめときゃ判んないわよね。どうせ帽子かぶるし」


 後ろで小さく団子にして、それに気づいた。


 米神から顎まで続く傷跡も、うっすら紫紺に染まっていた。


 左肩を確認すると、治りたての傷も塞がってはいたが同じ色の小さな花を咲かせている。


 「このくらいなら化粧で押さえられるだろうけど」


 元々隠す気もなく、粉をはたいて薄くしていた程度だった。同じようにしてみると、ちょっと紫がかっているか?程度の差しかなかった。


 ハンガーラックから麦わら帽子を取って被ると洗濯物を干しに外へ出た。


 ---今は判りにくいけど、瞳の色も同じよ。


 アルテラにとどめのように言われて、溜息をついた。




 その日はそれ以上外に出ず、横になって過ごした。


 時々うつらうつらしながら、とりとめのない夢を見た。


 一番幼いころの記憶、恐らく二歳足らずの頃、鏡を覗きこんだ自分は透き通るような銀色の髪をしていた。


 だが、根元には黒が混じり始め、それを見つけた母は盛大に顔をしかめた。


 「呪われた髪色だ」と言い始めたのはもっと後だったが、もうその頃からアズュリアを遠ざけはじめた。


 父は戸惑うような顔をして妻を見ていたように思う。


 だが、どれだけたしなめても娘を遠ざけ続ける妻に根負けしたのか、そのうち、乳母や使用人たちに、なるべく妻の前に娘を出さないよう言いつけた。面倒を避けたかったのだろう。乳母は二人きりの時にアズュリアへ言った「お母様の前へ出ると、お嬢様が苦しむことになります。お父様のお言いつけ通りに致しましょう」。


 それでも二歳足らずだ、母の態度の変わりようが信じられず、それまで通りに振る舞っては母に遠ざけられ、傍へ寄ろうとして突き飛ばされ、怪我をするに至って、乳母にもう一度言われた「これ以上お母様の傍へ行くとおっしゃるなら、もう私にはお嬢様の安全を守る事は出来ません」。


 乳母まで去っていく気配を感じ取って、アズュリアはやっと現状を受け入れた。


 親身になって面倒を見てくれるのは乳母しかいなかった。彼女に去られては、広い屋敷で一人きりになってしまう。


 アズュリアの生存本能がそれ以上母を求める事を止めた。


 それが三歳になる前。ぼちぼち妹が生まれる頃だった。


 その頃にはアズュリアの髪はだいぶ黒に染まっていたが一部銀も残っていて、その境目が紫紺だった事を思い出した。


 瞳の色も、銀髪の時は紫だった。


 それが、同じく紫紺に変化し、髪が完全に黒くなると同時に黒瞳になった。

庭に出て、この前蜂に刺される羽目になったつつじの根元に蔓が、雑草が、まだ残っていて気になる……

せめて蔓は切りたいと思って、植木ばさみをそっと差し出してちょん切った途端、蜂が舞い上がり……


ダッシュで逃げてきました。

完全に敵認定されております。


今日も暑いですね。明日からまた雨が降るらしいですが。

皆さまご自愛くださいまし。


沢山見に来てくださってありがとうございます。

いいね、評価、ブックマークありがとうございます。

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