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今日はもう作業はしないと言っていたが、寝ているつもりはなかったらしい。
鎧戸を開けると、麦わら帽子を被って庭に出て、畑から今日の分の野菜を収穫した。
井戸水で洗って笊に入れ、室内へ戻ってくると、朝食を作って食べる。
少し畑の様子を見て、雑草を取ったりする。アズュリアの畑は、周囲には雑草が生えるが畑の中には生えないので放っておいてもあまり問題は無い。
最近、庭の雑草の中にもゴシュフク草が混ざるようになった。皆が採取するようになって、却って種が広範囲にばらまかれているのかもしれない。
適当に選り分けて笊へ放り入れる。山盛りになる。
それも井戸水で洗って室内へ持ってはいる。
ゴシュフク草の花は、小さいが、オレンジの鮮やかな色をしている。
時々気が向くと、飾っている。
薬瓶に入れて。
小さな薬瓶に一輪生けて、テーブルの上へ。
折角ゴシュフク草があるので、傷薬を作っておこうと思う。
ありがたみは昨夜実感した。
今朝確認したが、もう痛みはなく、傷口も塞がっていた。
薬師の魔力量による出来の差をなんとか出来ないものだろうかと思う。
「奥様、いらっしゃいますか?」
外からガルドウの声が聞こえて顔を上げた。
「いるわよ。ちょっと待って」
切りのいいところで作業を中断して、テラスに出る。
「今日はお休みですか?」
「ええ。何かあったの?」
「いえ、私は花の様子を見に来ただけですので。ただ、鎧戸も窓も一部しか開いていないので、どうかなさったのかと」
「ああ……」
いつも全開か、ぴったり閉じているかのどちらかなので常とは違う様子に驚いたのか。
「朝起きてちょっと調子が悪かったんだけど、休みにするかどうかさっきまで迷ってたの。何もできない程でもないし。中途半端な気持ちが出ちゃってたのね」
「ああ、では、ゆっくり休んでください。奥様は働き過ぎですよ」
気遣わしげにガルドウは言った。
「え、そんなことないわよ。みんなの方がもっと働いてるわ」
「いえ、奥様、そもそも貴族のご婦人がそんなに働くのはどうかしています。我々は充分対価を頂いて働いていて、それが本分ですが」
そもそもこの奥方に対価は払われているのだろうかと常々ガルドウは思っていたのだった。
薬師としての収入はあるようだったが、それは畑を耕したり、水輸送の為の開発をしたりとは別の筈だ。公爵夫人としての予算は渇水事業の方に振り向けてくれと奥方自ら申し出たらしい。それは先日、新しいシャツをハイリが渡された事で知った。
鋏で切ってしまったからと支給されたシャツに恐縮するハイリに、渡してきた執事がそう説明した。
皆それを聞いて驚いていた。
王都ではあまり評判が良くない人物と聞いていたので少し遠巻きにしていた部分はあるのだ。ただでさえ魔力研究所の異能者は平民ばかりであったし。
貴族は本来恐ろしく、白いものを黒と言われても受け入れなくてはならない。それが身に染みているのも平民だった。
どれだけ土にまみれて作業する姿を見ても、溝はある。
奥方もそれが判っているのか必要以上に近づいてくることもなかった。
ガルドウとしても、彼らの態度に対して思う所があるわけではない。平民と貴族の関係などそういうものだ。
だが、この奥方は搾取される事に慣れきっているように見えて、それがガルドウを何とも言えない気分にさせる。
「ゆっくりご養生なさってください」
「ええ。そうするわ」
そう言って、少し顔色が悪く見える奥方は室内へ戻って行った。
ガルドウはいつもの通り、畑の周囲の花の様子を確認し、去って行った。
彼がアズュリラと名付けた紫の薔薇はテラスの傍で咲き誇り、真向いの一番遠い場所につい最近植えられた東方の花も紫で大輪で八重咲きだった。
自分のイメージは紫なのだろうか、とアズュリアは首をかしげる。王都では地味と言われるばかりだったが。
朝摘んだゴシュフク草で作れる限りの傷薬と化粧水を作り、椅子に座ってテーブルに肘をついた。
マナー教師が鞭を持って追いかけてきそうだ。
「ううん……」
両手を組んで上へ上げて伸びをする。
熱のせいかやはりどこか怠い。
うっすら頭痛もするし、腹痛も……
そこで、はた、と思い至って指を折って日数を数え、鞄の中を確認する。
鎮痛剤は切らさないようにしていたのでまだ予備はあった。
これもゴシュフク草を入れて作ってみようかと考える。
ひと月ごとに訪れる出血には毎度ひどい痛みで悩まされる。自作の鎮痛剤でも完全に抑えられず、休んでいられない時など脂汗を流しながら人前に出る羽目になる。もっと効きが良い薬が作れるならそれに越したことは無い。
空になった笊を持って、麦わら帽子を被り、もう一度庭へ出た。
先ほど雑草を抜いたのは野菜畑の方だったが、薬草畑の周囲にも雑草が茂っている。
薬草も雑草と大差ないので目立たないが。
水路から引いた溝の周囲にもゴシュフク草のオレンジの花が見えた。
とりあえず鎮痛剤に使う分だけでもとゴシュフク草を取り始めた。
水の近くに咲いているものは葉も花も多少大きく感じられ、おや、と思う。
水から遠い所で抜いたものと並べて比べてみる。
わずかな差ではあるが、確かに大きさが違っていた。
異能の鑑定は、神力、魔力によって成長が異なる、と言う。
溝をさらさらと流れる澄んだ水へ手をひたし、ひと掬い、掬い上げて浄化する。
そして鑑定を試み、目を見開いた。
今日も晴れています。梅雨はどこへいったのでせう。
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