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 ---辺境伯領は王都より近いの?


 ---直線距離は王都より近いと思うわ。ただ、王都の北になるから、道を行くならまず王都に出ることになる。


 間にいくつか他領はあるが、アルカミラから真っ直ぐ北東へ進めば辺境伯領だ。


 その北は魔の森が広がっている。魔の森を挟んで更に北には蛮勇の国エルガラがある。


 ザイツェンが接している他国は、南のロバティア国と北のエルガラの二国だが、ロバティアとは昔から婚姻などによって比較的友好的な関係を築いているのに対してエルガラとの関係は一筋縄ではいかない難しさがあった。


 エルガラは、他国の血を入れるのを良しとしてこなかった。


 度々魔の森からやってくる魔獣を狩って国を守ってきた矜持を持って生きている。


 その戦いぶりは勇猛果敢。実際に直接ぶつかった戦は百年も前にもかかわらず、獰猛さでザイツェンを恐れさせた歴史は未だ忘れ去られておらず、それゆえザイツェンの中には彼らを恐れながら蛮族と蔑む者もいる。逆にエルガラはザイツェンを軟弱と蔑む。


 二国が現在、何とか友好関係を保っていられるのはひとえに辺境伯であるオズダトリアがエルガラに一目置かれているからだった。


 魔の森の魔獣と戦う者同士として、オズダトリアだけは昔からエルガラと交流している。


 百年前の戦の時も、実際にぶつかり合ったのはオズダトリアとエルガラだった。


 ---アキミズホは島国だったから国境って海だったのよね。


 ---平和そうね。


 ---全く問題がないわけじゃないけどね。


 ふと思いついたように、アズュリアは鞄の中から一枚の紙を出してきた。


 ---何?


 ---昔、国内地理を習った時、地図作ったの。


 国家機密になるので、あまり詳細な地図は一般には出回っていないが、王子妃教育ではそれなりの地図を見せられた。


 勿論、授業の後は回収されたが、思い出せる限り思い出して描いたのだ。


 ---大ざっぱだけど、こんな感じ。


 広げたザイツェンの地図は、ひょろりと縦に長い形をしていた。


 東と西は海と接している。中央は王都。


 西の端は今いるアルカミラ。北の国境近くはオズダトリア。南のロバティア国はザイツェンの南の大農業地帯に接している。


 ---こうして見るとアルカミラって本当に狭いのね。


 西にぽこんと飛び出した土地がアルカミラだったが、北は北山でその向こうは海、西と南は断崖絶壁の海岸。どん詰まりのような土地だった。


 ---公爵家の領地とは思えないわ。


 しみじみとアルテラは言った。


 水が豊かで実りも豊かだったが、それは代々の公爵家が努力した結果だ。


 魔力研究と言う看板に隠れて目立たなくはあったが。


 ---あのね、ここ。


 アズュリアは北山の背面にあたる海辺を指さす。


 ---集落が幾つかあるって話だったわよね。


 ---うん。あのね、こっちから海沿いに進むと、オズダトリアってすごく近いのよね。


 一つ他領は挟むが、西の海沿いは殆ど開発されておらず、実はアルカミラに限らず所属が曖昧な土地が続いている。


 ---いっそ船で行けば、本当に近いと思うわ。潮の流れとか風向きとかを考えなければだけど。


 ---王都へ座標を作った後、どのルートで辺境伯領へ行くか考えよう。


 ---そうね。


 ---あと手紙のお返事は誰に頼むの?


 言われて顔を上げる。


 小箪笥の引きだしに入れた手紙を取り出す。


 ---執事長かな。下手に別ルートを使うより、連絡を取り合ってるって認識させておいた方が後々いいかも。


 辺境伯の思惑も本当のところは判らないし。


 麦わら帽子を被って、自分の足で家を出た。




 「こんにちはー」


 厨房の裏口から声をかけると、初めて見る下働きの少女が出てきた。


 「ごめんなさいね、料理長はいらっしゃる?」


 「え、はい」


 調薬ローブを着て麦わら帽子を被った女が立っていて、相当驚いたらしい、ぎょっとして立ち尽くす少女に気が付いて、奥から料理人が出てきた。


 「ああ、この方は大丈夫だ。奥様、食材ですか」


 「ええ。でもその前に執事長に用があるの。そっちから入っていいかしら」


 使用人用の出入口を指さす。


 「ええ、奥様、表から入らないんですか」


 「わざわざ表に回るの面倒じゃない」


 「奥様ですから、出入りされる分には大丈夫ですけど」


 まだぽかんとしている少女を見やって、「執事長呼んできて」と料理人は促した。


 少女はぴょんと跳ねて厨房を出て行った。


 「新しく入った子なの?」


 「ええ。よく働く子ですよ」


 「ふうん。後でまた寄るわね」


 手を振って、使用人用の出入口を開いて中に入った。


 使用人の休憩室は扉が開きっぱなしで、廊下を歩く人間が見えるようになっている。そこをやはり「こんにちは」と言いながらアズュリアは通り抜け、たまたま休んでいた使用人たちが、やはり先ほどの少女と同じようにぎょっとして見送った。


 「奥様……!」


 奥から慌てて執事長がやってくるのが見えた。


 「ああ、わざわざごめんなさいね。手紙を頼みたくて来たのよ」


 薄紫の封蝋で封をした手紙を持った手をひらひら振った。


 「表からいらして下さい。何故裏口から入ったりなさるんです」


 「表に回ると遠いのよ。別にいいじゃない。こんな恰好した人間が表から出入りするのも外聞が悪いでしょ」


 調薬ローブの下は今日も庭師モードである。


 「こちらへおいでください」


 執事長は先導するようにアズュリアを使用人エリアから連れ出した。


 アズュリアは執事長の後ろにいた厨房下働きの少女に向かって呼んできてくれてありがとうと手を振った。

暑気あたりの話を書いたら、自分が暑気あたりを起こしたようです。昨日は本当に具合が悪かった……

最終的に直接塩をなめて漸く怠さが抜けました。


沢山見に来てくださってありがとうございます。

いいね、評価、ブックマークありがとうございます。

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