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 促されるまま、商店街通りの婦人服工房や紳士服工房が集まっている場所まで歩き、その前を通り過ぎた。


 ---え、アズュリア。


 慌てて声をかけるアルテラ。


 革製品専門店まで歩く。衣服と関係があるので場所は近い。


 ---婦人服店で見たって、靴は革製品の工房で作った物が置いてあるんだもの。どうせ定番の形を買うんだし、だったら専門店がいいわ。


 ---ああ、そう。


 専門店の中は更に靴とバッグ類コーナーに別れていた。


 今履いている靴と似た形のものを探し、サイズを確認してもらうために店員を呼んで足を測ってもらった。


 きちんと靴下を履いているアズュリアは試し履きを許可されたので、該当サイズの靴を履いてみた。


 確かに、今まで履いていた靴は窮屈だったのだなと実感した。

 

 ---この分だと背も伸びてるかなあ。面倒、でもないか。どうせドレスなんか着ないし。


 二着あるドレスの事を思い出して溜息をつきかけたが、社交しなくていいと言われているのだ。別に気にすることは無い。


 それ以外の服は全部ゆったりめか自作だ。問題は無い。


 オーダーメイドも受け付けていると言われたが、一年程度でまた履きつぶす事になるのならこれで問題ないと購入する事にした。


 店頭にあるのはサンプルなので、裏で部品にしてある物を組み立てる時間が欲しいと言われ、一時間程待つことになった。


 組み立てる時、先ほど測ったサイズに従ってある程度は調整もしてくれるそうだ。


 ---一時間あるなら、この先のアクセサリー工房行かない?


 アルテラは色々気になる店を探っていたようだ。


 一時間後に受け取りに来ると言って店を出るとアルテラの希望の店へ向かった。


 高級な宝飾品店はまた別のエリアにあるようだったが、そこもそれなりの物が揃えられていた。ただ、店頭近くは若い娘でもがんばれば手が届くような価格帯の、しかも若い娘向けのデザインの商品が取り揃えられていて、裕福な家のお嬢さんといった感じの客が数人熱心にショーケースを覗き込んでいた。


 アズュリアは店頭のショーケースをざっと見た。


 ---ここじゃないのよね?


 ---うん。もっと奥。


 奥へ進むと、えらく奥行きのある店だという事に気が付いた。


 銀製品のアクセサリーのエリアがあり、そこを超えると、小さな宝石をあしらった貴金属、更に奥へ行くと、徐々にグレードが上がっていく。


 ---もしかしてこの店、向こうの通りまで続いてるの?


 ---うん。あっちは富裕層相手の店舗みたいだから、通り抜けは出来ないけど。


 中央にあたる場所が工房になっているようだった。


 工房手前の棚は今までと違い、雑多に商品が置かれていた。ショーケースもない。


 もしかしたら、並べる前の一時保管場所なのかもしれないが、警戒心のかけらもないのか、見張っている人間もいない。


 ---あ、それそれ、その、花のブローチ。


 アルテラが銀製品の中に埋まるように置かれている薔薇水晶の花弁のブローチに反応を示した。


 そっと折り重なるように置いてある銀製品をよけてそれを取り上げる。


 大振りの花で、花弁は八重咲き。一枚一枚が薄く細かく丁寧に作りこまれている。中央に金でおしべめしべをあしらい、花の中央から金の茎となってゆるりとカーブを描いている。


 裏を返すと花の後ろから茎に向かって留め金がついている。その上には鎖を通す輪が作ってあるのでペンダントトップとしても使えるようになっているようだ。


 薔薇水晶の花は、思ったほどの重みは無いが、神力で見るとほのかに力を帯びていて、恐らく重さ軽減が付与されている。


 「あのう……」


 後ろから声をかけられ振り返る。


 中で作業中だったらしき女性が躊躇いがちに立っていた。


 「こちらは準備室というか、その、商品として表に出す前の物を置いてあるので……」


 「ああ、ごめんなさい」


 職人なのだろう。作業着を羽織っていて、髪はひっつめられ、指先は汚れていた。


 眼鏡をかけていて、その奥の瞳はこの地方の人間にはよくあるブルーグレーをしていて、こちらを探るような視線を向けてくる。


 「これを頂きたいの。おいくらかしら」


 手に持ったブローチを見せると、職人ははっとしたような顔をした。


 「えと、まだ値段をつけてないので……ちょっとお待ちください」


 工房へ戻り、奥の方へ行くのを何気なく見ていると、暫くして店主らしき人物と出てきた。


 「お待たせしました」


 店主は眼鏡を光らせてこちらを見る。


 何かの力を感じたので、鑑定でもかけられたのだろうか。


 ぱちぱちと二、三度瞬きして、男はアズュリアの手に持った花のブローチに目を移した。


 「そちらの商品でございますが、弟子の作品でございまして。店の印を入れるのは師匠の作品だけとなっておりますが」


 今度はアズュリアが瞬きした。


 こちらの通り側の商品がややお手頃価格なのはそういう事情もあるのか。


 「気に入ったから是非これが欲しいの。作者で選ぶわけではないもの」


 にっこり笑って、最初に出てきた女性を見る。


 「あなたの作品ね?」


 女性は目を見開いた。


 「素敵な花だわ。あなたの名前を教えて」


 「エイリン・アイムスと申します」


 女性は胸に手を当てて膝を軽く折った。高貴な女性に対して行う礼ではあるが、今はそういう意味ではないだろう。


 「私は薬師のセルキス」


 顔を見合わせて微笑んだ。


 服飾関係以外では女性の職人は少ない。お互い砂漠でオアシスに出会ったような気分であった。


 「おいくらかしら?」


 もう一度店主に尋ねた。


 店主は何故か気後れしたような顔で値段を告げてきた。


 妥当な値段と思ったのでその場で支払いをし、エイリンが丁寧に包装してくれている間に領収書を切ってもらって店名を確認した。


 宝飾店「石の息吹」。


 エイリンは石の研磨と彫金、両方するらしい。店先まで見送りに出てくれた。


 「またお寄りください」


 別れ際に挨拶され、アズュリアは頷いた。


 「また来るわ」


 そう言って手を振った。


 ---あの子も異能持ち?


 靴を引き取りに戻りながらアルテラに尋ねる。


 ---そうみたい。


 ---多すぎない?


 ---本人が意識しないレベルの異能者がちらほらいるわねえ。


 ---それって神殿でも判断できないって事?つまり本来そのレベルの人は沢山いるの?


 ---うーん。


 アルテラは唸って考え込んでしまった。


 ---あの店主も何か異能持ってる気がするし。


 ---あー、そうね。


 やはりなにがしかの異能はあったらしい。


 ---鑑定系だと私の隠形ばれたかしら。


 ---アケヒの方が力が強いからそれはないわ。


 即座に否定されてほっとする。アケヒ作の法具はそれだけ強力という事らしい。


 ---あの店主はせいぜい「勘がいい」程度だと思うわ。あなたを見て、何かを感じたかもしれないけど。それだけ。


 本来ならそれだけでも避けたい所だったが贅沢は言えない。


 程よい時間だったので靴を引き取りに行って、履いて少し調整してもらって代金を支払い、途中の菓子屋で焼き菓子を買い、庭師と荷馬車の位置をアルテラに確認させながら北の街門から外に出た。


 一番近い木立ちまで歩き、そこから一気に寝室へ戻った。

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