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 所で、罪人が確定となった人物である。


 今までのように何人もの侍女が常に傍近くに控える事はなくなった。


 依然として病は癒えておらず、看護人が交代で世話をする為出入りしているが、そうでなければメイドすらも手配はされない。


 一気に周囲が手薄になった。


 夜も数時間毎に看護人が様子を見に来るが、殆ど人気が無い。


 部屋の鍵は厳重で、その上魔法道具による錠が上掛けされている。


 そこをアズュリアは通り抜けた。


 王妃は寝台の上で青白い顔をして眠っている。


 熱は下がったようだった。


 呼吸も落ち着いている。


 が、不意に王妃が喘ぎだした。


 同時に寝台の下からにょろにょろと黒い触手のような物が這い上がってくる。


 先日王妃宮の私室で見た物と同じだ。


 何かの呪いか。


 黒い蔓のようにも見えた。


 それが相変わらず王妃を包み込もうとして何かに弾かれている。


 アズュリアはじっと王妃の身体を見つめ、ややあって寝台傍へ歩み寄った。


 触手はアズュリの身体はない物のように通り抜ける。


 そろりと手を伸ばして王妃の胸元から小さな石のついたネックレスをつまみ上げた。


 ---あ、護符か。なるほど。


 アルテラが言った。


 王族であれば、呪いの危険は常にある。護符の一つや二つ身に着けているのは当たり前だ。


 石は元は透明な紅だったのだろうが、半分程が曇り、変色している。


 ---小振りだけど、いい魔結晶だったみたいね。


 ---王族はこの種の物を常に複数身に着けているから、母や妹のような呪いのかけられ方はあり得ないのよね。


 アズュリアがそっと変色した部分を撫でると、指の下からは綺麗な紅の石が現れた。


 ---親切ね。


 ---そうかしら……


 ネックレスから手を放し、王妃のやせた左手の袖をまくりあげると、そこにも魔結晶をあしらったブレスレットがあった。


 こちらも紅い石でネックレスよりも更に小振りな物が三つほどついているが、三つのうち二つは変色していた。


 その二つも神力を込めなおしてやった。


 変色しきっていた石は紫色になった。


 ---あ、()()()のね。


 ---まあね。


 袖をおろしてやると、王妃がうなってうっすらと目を開けた。


 茫洋とした眼差しが闇の中に影のように佇むアズュリアを見る。


 アズュリアは微笑んだ。


 王妃は喉の奥から掠れた息を押し出した。


 「そなた……何故、そこにいる……」


 アズュリアは小首を傾げて答えない。


 「あれが、餌を欲しいと言うから、嬲って、あれに与えようと……」


 ぶつぶつと呟くようではあった。


 そしてはっと顔を上げた。


 「そなたが!黙って食われなかったからか!王子が!息子が!」


 突然騒ぎ始めた王妃に気が付いて、看護人が飛び込んできた。


 「落ち着いてくださいませ」


 看護人はアズュリアの身体を()()()()、半身を起して半狂乱になって騒ぎ立てる王妃をなんとかなだめようと肩を押さえた。


 声を聞きつけて、別の看護人も慌てて入ってくる。


 「お静かに願います!」


 二人がかりで寝台へ押さえつけられ、急遽呼び出された医師に鎮静剤を投与され、すぐに視線をとろんとさせながら、譫言のように「あれが、アズュリアが、息子が」と意味もなく呟き続けた。ちなみにその鎮静剤はエスタリア製の最上級品だ。劇的に効いて副作用が殆どない。


 蔭に潜んでそれを見つめ続けたアズュリアは、漸く王妃が眠りについて看護人たちが立ち去った部屋で、変わらず王妃へ忍び寄っては弾かれる触手に近づいた。


 アズュリアが軽くしゃがんで手を伸ばし、指先でちょんと触れると、それはびくりと硬直して次の瞬間には萎れて崩れ落ちた。


 王妃が心なしかほっと息を吐いたように見えた。


 ---夢魔……?


 アルテラの問いに首をかしげる。


 ---精神に干渉していたようではあるけれど、それが主目的ではないでしょうからね。


 人差し指の先には仄青い光が灯っている。


 それでちょんちょんと触手に触れていく。


 次々と触手は崩れて行ったが、消しても消しても新たに生えてくる。


 ---切りがないじゃない。


 アルテラが焦れたように言う。


 ---もうちょっと。


 アズュリアが返事をした時だった。


 全ての触手が一斉に崩れて消え、代わりに「何か」が床から湧きだすように現れた。


 触手と似たものではあったが、巨大で一塊。やや上に二つの光る金色。



 蛇の頭部と見えた。



 ---ああ、やっと出た。


 アズュリアはかがめた身体を起き上がらせてそれと対峙した。


 ()()は金にぎらぎらと光る二つの眼差しでアズュリアを見る。


 寝台の王妃がまたうなされだしたが、その前にアズュリアは室内を結界で覆っていて、外へ物音が漏れ出すことは無い。


 ---何故、邪魔をする。


 ()()は苛立ちを混ぜてアズュリアへ問う。


 ---誤解よ。王妃の強力な護符のせいよ。


 にこにこしながらアズュリアは言う。


 ---人間の護符など、もう暫く呪で侵し続ければ、いずれ砕けて消える。それをそなたが邪魔をした。


 ---気が長いわね……


 ---時間はいくらでもある。


 短命な人間とは違うのだ、とそれは言う。


 ---聞きたいことがあって。


 ---何だ。


 ---第二王子を連れて行って何がしたいの?

本日も短くて済みません。

ストックが尽きました。

また数日お休みします。


見に来てくださってありがとうございます。

いいね、お星さま、ブックマークありがとうございます。

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