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第2層:獣、漬け物、うつけもの。

 三発の銃声が鳴り響く。


「もー。時間かければ綺麗に開けられたのに~」

「これがメキシカン・スタイール。……いいよ、珠美たまみ


 フードを目深に被った少女在束珠美あるそくたまみが、マイナスドライバーを持った手を下ろし文句を言う。もう一人の少女千夜歌ちやか・ニアンソ・弾軌はじきがそれに軽く返すと、黒光りする拳銃で扉をコンコンと叩いて指示する。それを受け、在束珠美あるそくたまみは一歩引き……その身を目の前の鉄扉に叩きつけた。タックルの瞬間に大きく盛り上がった肩まわりの筋肉を華奢なはずの肢体の全体重ごと受けた鉄扉はガゴンという断末魔を上げて歪められ、瓦解した。二人の少女の背後からは、数人の男女の「おおぉぉっ……」という驚きの声が上がる。


 この数人の男女。彼らは皆、親しい者を探していた。家族、友人、恋人……行方不明となってしまった者達を見つけてもらうため、少女らに依頼したのだ。


 扉の先……壁のスイッチで照明を灯した部屋の中の光景に、二人は目を見開いた。

 ブラインドで閉ざされた空間に並べられた、無数の黄色いバケツ。


「これ……もしかして……」


 在束あるそくが言い終わる前に、千夜歌ちやかは手近なバケツへと歩み寄った。


「んんっ……!」


 バケツの蓋に載せられた、ラグビーボールほどの大きさの石をどけて蓋を開けると、中身はバケツいっぱいの糠床だった。ゴム手袋をはめて糠床をまさぐると、何かの感触。


珠美たまみ!」


 千夜歌ちやかの声にはっとした在束あるそく千夜歌ちやかが糠床から引き揚げたのは、人間の左腕だった。力仕事に定評のある在束あるそくが手を貸し、二人がかりで引っ張ると、ついに左腕の主たる男性の裸体がその姿を現した。


「いやああぁぁぁっ! 正志ただし-っ!」


 依頼者グループの一人が悲鳴を上げた。その男性こそ、探し求めていた人物だったようだ。


真美まみっ!」

「お……俺は信じないぞぉっ!」


 次々と部屋になだれ込む依頼者達。こんなところにいるはずがない、またあの人と会いたい……そんな思いを胸に、ここにいないことを信じてそれぞれがバケツを開放していく。

 次々に響く、悲しみの声。

 それが、"彼ら"を呼び寄せてしまった。


「ちょっと、ここで何やってるのよ!」

「ここはボクらの部室っスよ。勝手に押し入られちゃ困るっス」


 この異様な空間を「部室」と呼称する二人。それに続くように、何人もの学生がゾロゾロとやってくる。


「……あんたらか、こんなふざけたことしてたのは」


 千夜歌ちやかが鋭く睨みつける。彼女に銃口を向けられてもなお、全くたじろぐ様子はない。


月足つけだる高校漬物部部長、芝味美しばあじみよ!」

「同じく副部長、木鞭宇真伊きむちうまいっス」

「素敵でしょ? この漬物達。芳醇な香りだわ」

「ここにはボクら部員の魂がこもってるっス。神聖な部室を荒らす奴らは許さないっス」


 芝味美しばあじみが指パッチンをした直後、漬物石で武装した漬物部員達が一斉に襲い掛かってきた。


珠美たまみ! 依頼人の人達には指一本触らせんなよ!」

「うん!」


 在束あるそくは持参した手持ち鞄を開いて盾に変形させ、臨戦態勢をとる。

 在束珠美あるそくたまみの実家は中部地方全域にシェアを誇る警備会社「在束警備あるそくけいび」。この盾鞄たてかばんは、在束警備が発売した商品だ。重すぎて残念ながら売れることはなかったが、彼女は今も愛用している。

 在束珠美あるそくたまみに続き、千夜歌ちやかは部員……もとい暴漢共に銃口を向ける。

 千夜歌ちやか・ニアンソ・弾軌はじきはモデルガンの改造が趣味であり、この拳銃も自身の工作でこしらえたものだ。素人工作のため実弾の発射に耐えうる強度ではないが、BB弾により相手をひるませることができる。


 二人の少女は襲い来る暴漢を盾でいなし、拳銃で応戦していく。


 しかし二人に対して相手は複数。優に十人を超える戦力差である。戦況は徐々に押されていく。


「流石に一丁じゃキツいか……」


『今行くよー』


 右耳に仕込んである通話用ワイヤレスイヤホンから、なんとも気の抜けた女性の声が聞こえてきた。


「ナイスタイミングだぜ梨苺桃りいも!」


 梨苺桃りいもなる女性の通信を聞くやいなや、千夜歌ちやかはブラインドがかかったままの窓へ一直線に駆けた。そして、それを追う数人の暴漢。

 窓にぶつかる直前、千夜歌ちやかはブラインドを引き破り、身体を翻してその場に屈んだ。それになんの疑問も持たず拳を振り上げる暴漢らの視界に飛び込んできたのは、黒い飛行物体。同時に聞こえた、ガラスの割れる音。そして額への衝撃。これらの感覚情報によりようやく、自分達は窓を破ってきたドローンに激突されたのだと暴漢らは認識した。

 間髪入れず、目潰しとばかりにドローンは射撃を開始する。射出されているのはスロット用の銀玉でありまさに豆鉄砲であるが、牽制にはちょうどいい。このドローンも、千夜歌ちやか自らが改造を施したものである。

 ドローンは射撃を続けつつも、底面のアームで掴んでいたアルミケースを床に落とす。


「これこれ。これを待ってたんだ」


 意気揚々とアルミケースのダイヤル錠を解除する千夜歌ちやか。その中身は、最近完成したばかりの最新自衛兵器だ。携帯性を高めるためにバラバラにされていたパーツを組み上げ……本来の姿、グレネードランチャー型の銃器が姿を現す。

 砲身は前半分が白い鉄道車両、後ろ半分が赤い鉄道車両を象っており、両側面にはレールのようなモールドが彫られた半円状のパーツが畳まれている。


「行くぜ、名付けて『ブーストマグナム009ゼロゼロナイン』! ……あっ」


 組み立てに夢中になっていた千夜歌ちやかが、ドローンによる不意打ちから難を逃れた暴漢に気づいたのは、彼女の至近距離まで近づかれてからだった。


 本体は組み上がった。だがまだ弾を装填していない。今、彼女が持っているのはただの金属の筒も同然である。

 こんな状況に陥るのは今に始まったことではない。これまでにも、彼女は「武器の準備中に襲われる」というシチュエーションを何度も経験している。対策も考案中だ。それはそれとして、やはりビックリはするものである。


 暴漢の手が眼前に迫った、そのとき。

 突然、暴漢は白目をむいた。暴漢……正確には、ある女子部員。そんな彼女を失神するに至らせたのは、背後から頭頂部に振り下ろされた金色こんじきのシャベルであった。


「だ……大丈夫でしたか!?」

「ああ。ありがとな……美弥玖みやく



 千夜歌ちやか・ニアンソ・弾軌はじき

 彼女はそういったシチュエーションの際、仲間に助けてもらうことが多い。

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