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第1層:獅子の子落とし
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男が、レコードに針を落とした。針が触れる「トッ」と軽い音の直後、男声を伴う音楽が部屋中に響き始めた。オペラだ。
パパ、悪魔が近づいてくるよ。
少年が父親に助けを求める旨の、ソロで繰り広げられる歌劇。針を落とした男は、自身の妻である女の手を取り、右へ、左へ、ステップを刻む。女は愛おしそうに男を見つめ、男のステップに合わせて深紅のドレスを揺らす。音楽に合わせ、二人の踊りは次第に盛り上がっていく。
「ねえ、あなた。次の石ころはどんな人なの?」
女が問うた。
「人を漬物にする集団のリーダーさ」
「漬物に? やあだぁ怖い」
「怖くなければ意味がないよ。大丈夫。しっかり立場をわきまえさせたから、僕らに牙をむくことはないさ」
「次も、美弥玖は乗り越えられるかしら?」
「もちろんさ。なんてったって、僕らの娘なのだから」
「そうよね、ふふふ」
「あの子にもっと試練を」
「あの子にもっと困難を」
「あの子は無敵」
「あの子は最強」
二人のダンスは、今夜も続く。