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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(短編)国に裏切られ死んだ勇者は回帰しやり直す。どうしてなのか魔王も一緒にいるのだが・・・

作者: やすくん

ドォオオオオオオオオオオオオン!


巨大な扉が吹き飛び、奥から2人の人影が現われる。


ジャキ!


鏡のように磨き抜かれた刀身の剣を掲げ、視線の先にいる人物へと切っ先を向けた。


「古の魔王!これ以上はあなたの好きにはさせないわ!光の勇者であるこの私、ジークリンデ・ハルモニアが貴様を滅ぼし、この世界に平和を取り戻す!」


黄金に輝く甲冑を纏い、鎧の輝きにも負けない煌びやかな金髪をなびかせ立っていた。


「姫様!ちょっと待って下さいよ!護衛の俺よりも先に行かれたら俺の立場が無いッスよ!」


ハーフプレートに大型の盾を持った大柄な男がはぁはぁ言いながら金髪の女性の後ろへと続いた。

少し疲れた表情だったが、真剣な表情に戻りザッと女性の前に立ち大盾を構えた。


「ふふふ・・・、それでもしっかりと自分の役割を努めているし、盾の勇者の名前は伊達じゃないわね。」


「姫様が先走り過ぎなんですよ。皇帝の近衛隊なのにいつの間にか姫様の専属護衛にされてますからね。アクティブな姫様に付き合わされる身になって下さいよ・・・」


しかし、姫と呼ばれた女性がニヤッと笑った。


「盾の勇者の名を持つお前が何の泣き言をいっているの?私の陰に隠れて楽をしようなんて許さないわよ。あなたの実力を知らない訳じゃないんだからね。」


今度は男がニヤリと笑った。


「いやはや・・・、バレていましたか。流石、姫様の目は誤魔化せませんね。」


「だったらちゃんと仕事をしなさい。私達を先に進ませる為にガーディアンと戦っている彼らが来るまでは、私達は倒れる訳にはいかないのよ!彼らが存分に戦えるように、少しでも魔王にダメージを与えるのだから。」



「ゴミどもが・・・」



彼女達の視線の先にはこの大きな部屋の奥にある祭壇の上で、祭壇と同じくらいに豪華な椅子に漆黒のローブを着た男が無表情で座っている。

見た目はかなり高齢の老人に見えるが、全身から放たれる威圧感は周りの者全てがひれ伏すだろうと思える程に圧倒的だった。



「く!これが魔王・・・、何て存在感なのよ・・・」


魔王の威圧感に耐えただけでもやっとの状態だ。

2人がギリギリと魔王を睨む。



玉座に座ったままの魔王がスッと右手を掲げた。


「力無きゴミよ、死ね・・・」


ブワッ!


魔王の頭上には直径5メートルは下らないだろう巨大な炎の玉が出現する。


「う・・・、嘘だろう?あんなファイヤーボールなんてデタラメだぞ・・・」


その炎の玉が勢いよく2人に向かって飛び出した。


「く!くそ!俺の盾でアレが防げるか?」

「マズいわ・・・、魔王がここまで強大だったなんて・・・、せめて、エリザとマッシュを待って突入すれば・・・」


絶望的な表情を浮かべた2人に対し、無慈悲にも炎の玉が迫って来る。



「ホーリー!シールド!」



カッ!



ボシュゥウウウウウウ・・・


2人の前に白い大きな輝く盾が浮かび上がり、炎の鷹を受け止め対消滅したかのように炎の玉も輝く盾も消え去った。


「この盾はぁあああ!」


魔王が叫ぶとギン!と視線が鋭くなる。

その視線は彼女達の後ろ、吹き飛んだ扉の方に向いていた。


「忌々しい聖女めぇぇぇ・・・」


その視線の先には真っ白な法衣を来たジークリンデと同じ様な年齢の若い女性が両手を前に突き出している。


「エリザ!」


ジークリンデが叫ぶとエリザと呼ばれた女性がニコッと微笑んだ。


「どうやら間に合ったようですね。」


「ホント、私達の身体能力はあなた方に比べて高くないのですよ。間に合ったから良かったものの、もう少し私達のペースに合わせてもらいたいですね。」


エリザの後ろに煌びやかな杖を持ち赤いローブを着た若い男が立っている。


「おい!マッシュ!お前がマイペース過ぎなだけだろうが!」


盾を構えた男が叫んだが、マッシュと呼ばれた男は飄々とした表情を崩していない。


「ロイ、酷い事を言わないでよ。僕は肉体労働は苦手なんだし、こうして頭脳労働がメインなんだからね。」



ズズズズズ・・・



一瞬にしてマッシュの頭上に十数本の長さは3メートルはあろう氷の槍が浮かぶ。


「アイスジャベリン!」


手をサッと前に突き出すと、浮いていた氷の槍全てが一斉に魔王へと高速で飛んでいく。



「ふん!」



ガガガガガッ!


魔王の正面に半透明の黒い障壁が現われ、全ての氷の攻撃を防いだ。


「児戯よのぉ・・・」


ニヤリと魔王が笑った。


「しかしだ、このような脆弱な者共が最強のガーディアンであるグラシャラボラスを突破する事はあり得んと思うが?貴様達、どのようなイカサマを使って余の前に来たのだ?」


「そう言われても、来ちゃったものは来ちゃいましたからねぇ~~~」


マッシュが少し戯けた仕草で魔王へと返事をする。



「ゴミがぁぁぁ・・・、ふざけるな・・・」



魔王から尋常でない殺気が放たれる。


流石にマッシュもマズいと思ったのか、戯けた表情を止め真剣な表情で魔王を睨んだ。


「これはヤバいね。ジークリンデ皇女、もう少し思慮深く行動すればここまで危ない状況にならなかったのに・・・」


「そんな事!言わないでよ!まるで私が全部悪いみたいじゃないの!?」


ジークリンデが額からダラダラと汗を流しながら焦っている。


「やっぱり姫が悪い。」

「そうね、皇女とは名ばかりの猪娘よ。生まれる時に母親の中に慎ましさを忘れた噂は本当みたいね。突撃以外の選択肢が無いのも困りものだわ。」


ロイとエリザが腕を組みながらうんうんと頷いている。


「そんな事、言われてもどうしようないの!こうなったら覚悟を決めて特攻よ!」


グッとジークリンデが剣を構え腰を低く構える。


「私が道を切り開くわ!ロイ!盾役は任せたわ。骨は拾ってあげるね。」


ロイに向かって可愛くウインクをする。


「選択肢は特攻一択しかないんですか?戦略的撤退ってのもアリでは?結局俺が一番酷い目に?勘弁して下さいよぉぉぉ・・・」



「余の前でよくもここまでふざけてくれるものよ。」


魔王の目が血走り、全身が震え、その全身から更にどす黒いオーラが吹き上がる。


「楽には殺さん・・・、死を懇願する程の最上の苦痛を与えてやろう!」



「ひぇえええええええ!奴さん、完全にキレているッスよ!誰があんなに怒らせたんです?」


ガタガタとロイが震えている。


「あんたでしょうが!」


ギロッとジークリンデがロイを絶対零度の視線で睨む。


「異議なし。」

「自業自得ね。」


マッシュもエリザも呆れた顔でロイを見ていた。


「とほほ・・・何で全部が俺のせいに・・・」


おいおいと泣き真似をしていたが、突然、真剣な表情に変わった。


「どうやら間に合ったようだ。まさか、あのガーディアンをたった2人でこんなに早く倒すなんてな。」


「そうね、悔しいけど今の私じゃ彼の隣には立てない。同じ勇者なのにこんなに差があるなんて、笑うしかないわ。」


ジークリンデがギュッと歯を喰いしばり、とても高い天井を見上げる。


「だけど、私は諦めないわよ。今まで欲しいものは全て手に入れたんだし、あなたも絶対に私に振り向かせる・・・」



「どうした?あまりの恐怖で気が触れたか?」



血走った目をしていた魔王がニヤリと笑ったが、対してジークリンデ達も魔王と同じようにニヤリとした。


「あら?気付いていないの?あなたに滅びを与える存在がここに来る音が?」



ズズゥゥン・・・



微かに部屋全体が揺れる。


「どういう事だ!このセイグリット城の地下ダンジョンが揺れるなんてあり得ん!」



ズズズゥウウウン!



更に大きく部屋が揺れる。

パラパラと天井から小石が落ちてきた。


「ば、馬鹿な!何が起きている!?」


魔王が立ち上がり頭上の天井を見上げた。



ドガガガガガァアアアアアアアアアアアッン!



「!!!」



派手な爆発音が天井から聞こえ、大量の石や土が落ちてくる。



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!



地震のように床が大きく揺れた。

魔王のいるこの広間全体が土煙に覆われている。



「そ!そんな!」



しばらくすると土煙が晴れ、部屋全体が見渡せるようになる。


魔王とジークリンデ達の間に何か大きな物体が横たわっているのが見え始めた。


その光景は・・・


人間の5倍はあろう巨人が全身を血だらけにして横たわっていた。

ピクリとも動かない。どうやら死んでいるようだ。

その巨人の横に2人の人影が見えた。


1人は巨大な漆黒の大剣を肩に担ぎ立っている金髪の男。

もう1人はこの世の人間かと思えるほどの美貌を湛えた黒髪の女が並んで立っていた。



「随分と派手にやったわねぇ~~~」


ジークリンデが呆れた表情で2人を見つめている。


「まさか、上の層階の床をぶち抜いてここに来るなんて、常識外れにも程があるわよ。あんた、本当に人間?まぁ、もう1人も元魔王だって話も信じられないけどね。」


金髪の男が肩に担いていた大剣を構え、魔王へと対峙する。


「みんな、遅れてスマン。ここからは俺が引き継ぐ。」



「アレン!」



ジークリンデが叫んだ。


「無理をしないで!ここは私達も一緒に戦うわ!」


しかし、アレンと呼ばれた男はゆっくりと首を横に振る。


「皇女様、ここは俺とダリアに任せて欲しい。この魔王には因縁があるからな。」


「そうじゃ、妾もこやつだけは絶対に許さん。妾のアレンに対する仕打ち、貴様を殺すだけでは飽き足らん!2度と復活出来ないよう、権能も全て妾が奪う!」



ビキッ!



「下等生物が何をほざく・・・、余に勝てるなどと思い上がりもいい加減にしろ。」


しかし、魔王が黒髪の女性をジッと見た瞬間、ピクッと眉が動いた。


「人間の若造など見た事もない男だが、その黒髪の女!貴様の魔力には覚えがあるぞ。18年前に忽然と姿を消した『南の魔王』、別の名を『時の魔王ダリア』、その魔力の気配を感じるな。どうして人間の姿をしている?」


「ふふふ・・・、バレてしまったか。」


アレンという男がダリアと呼んだ女性がニヤリと笑うと、床から黒いオーラが立ち上り全身に纏わり付く。


ズズズ・・・


ダリアの風貌が徐々に変化を始めた。

元々人外の美しさを湛えていたが、更に妖艶な表情になり、頭の両側から真っ黒な角が生える。

瞳も黒色からルビーのような鮮やかな赤色に変わった。

そして、背中から3対6枚の漆黒の大きな翼が生えた。


「マジ?本当に魔王だったの?何で魔王が敵であるはずの勇者アレンの恋人なのよ!やっぱり認められないわ!今すぐ私に乗り換えなさい!勇者同士が結ばれるのがセオリーよ!そしてこれは皇族命令なの!」


ジークリンデが信じられない顔でダリアを見つめていたが、急に真っ赤な顔になり叫んでいる。

そんな彼女の行動をダリアが鼻で笑っていた。


「バカめ、妾とアレンは生まれる前から将来を誓い合った仲じゃ。それにだ、今の妾は貴族の娘として生きているから十分にアレンと結ばれる資格がある!貴様のような貧粗な胸の女にとやかく言われる筋合いはないわ。」


ダリアが勝ち誇ったような表情になり、ジークリンデに見せつけるように大きな胸を反らした。


「確かにアレはあそこまでいけば兵器だよな。アレと比較される姫様はとてもとても可哀想で見てられ・・・」



スチャッ!



「何がぁぁぁぁぁ~~~~~、言いたいのかなぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~」


ジークリンデが剣の切っ先をロイの首筋に当て、今にも呪われそうなほどにドスの利いた声を出していた。



「どこまでも巫山戯た連中だ・・・」


魔力の籠もった魔王の声が響き、一帯が重苦しい気配に包まれる。


「やはり魔王ダリアだったか。」


魔王がニヤリと笑う。


「だがのぉ・・・、同じ魔王でも貴様はたかが『管理者』だ。余の『統括者』よりも下位の魔王が余に刃向かう?管理者ごときが統括者に勝てる訳がない。それを分って余を倒そうと妄言を吐くのか?」



ドン!



いきなり爆音が響く。

アレンが大剣を床へと叩き付けた。

その衝撃で床が魔王へと一直線にヒビが走る。


「御託はどうでもいい!魔王!お前は俺の事は知らないだろうが、俺はお前の事はよく知っている!あれから18年経った今でもあの時の事は忘れていない!」


アレンが叫ぶとダリアがニヤリと笑う。


「そういう事だ。いくら貴様が統括者だろうが、今のアレンと妾は手強いからな。貴様が神になり替わろうとする計画、今回も妾が邪魔をしてやろう。そして、今度はアレンに貴様は滅ぼされるのだ。」



「ダリア!」



アレンがダリアを見つめると、ダリアもアレンを見つめた。



「アレンよ・・・」


「ダリア、これが終わったら一緒にゆっくりと過ごそうな。もう戦いはウンザリだ・・・」


「そうじゃ、妾は魔王として生まれて5000年、歴代の勇者達と戦い続けてきた。全て皆殺しにしてきたがな。そんな妾の柵を解いてくれたのがアレン・・・、お前だ。魔王としてのダリアはあの時死んだ。今の妾はアレン、お前1人だけを愛する女・・・、その幸せを邪魔する輩は全て排除するのみ。」


2人が魔王へと体を向けた。


「そういう事だ!俺達の未来の為にきれいさっぱり滅んでくれ!」

「分かったか!貴様はただ邪魔な存在なだけ!妾のスローライフの糧になれ!」


一気に2人が弾丸のように飛び出した。



「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「はぁあああああああああああああああああ!」










「俺達は最初にあれだけ派手に登場してたのに、最後になったら空気か?」


ロイの寂しそうな声がボソッと聞こえた。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ダリア・・・」


「ん?アレン、どうした?」


超絶美人のダリアが可愛く首を傾げて俺を見ている。

この世界では珍しい黒髪に黒い瞳の女性だ。


全てはダリアに会ってから俺の人生が変わった。



いや!『やり直し』の機会を貰えたのだ。





「色々とありがとう。ダリアのおかげで俺はこうして戦える。今まで表に出てこなかった『古の魔王セドリック』を引っ張り出せたしな。あの時の俺は何も知らず、単に勇者の名声に浮れていただけだった。」


「それは仕方ないだろうな。『勇者』はどの国も抱えたがっている。特にこのセイグリット王国は勇者を何人も抱えたがっていたし、待遇も世界一だったな。それは単なる罠だったけどな。」


その言葉でアレンの表情が曇った。


「歴史上、魔王に勝てた勇者はいなかった。世界の平和は歴代の勇者が魔王の侵攻をその身を犠牲にして保っていると思っていた。あくまでも勇者は魔王を牽制する為の存在だった。そんな歴史が嫌で俺が死ぬ気で頑張って史上初めて魔王を倒した勇者になりたかった。そして、とうとうダリア、お前を倒してしまったんだよな。だけど、まさか俺のスキルが奴、魔王セドリックの待ち望んでいたスキルだったとは・・・、そんな俺は奴に・・・」


「そう悲観するな」


ダリアが優しくアレンの頬を両手で挟んだ。


「そのおかげで妾はお主と結ばれたのだ。永遠ともいえる魔王としての責務、統括者であるセドリックの手足として、奴の望んだスキルを持つ者を見つけるだけの人形のような生き方を、お主の力が妾の縛られた運命から解き放ってくれたのだ。」


「ダリア、それは俺も同じだよ。ダリアのお陰で俺は『やり直し』が出来た。その代わり、あの時のお前は死んでしまったけどな。」


「それはお互い様だ。」


2人の唇が重なる。

ゆっくりと離れ見つめ合う。


「今ではこうして生身で触れ合えるようになったのだ。もう二度とお主を放さない。妾をこんな気持ちにさせた責任は取ってもらうからな。」


フッとアレンが微笑んだ。


「それは俺も同じだよ。俺のスキル、そしてダリアの権能、俺達が一緒になればどんな敵にも負けない。ダリアを倒したあの時の後悔を俺は忘れない。だからな、ずっと俺と一緒にいてくれ。」


「もちろんだ。妾も今では権能が使えてもベースが人間だからな。お主と寿命はそう変わらん。死す時までずっと添い遂げる事を誓おう。」


2人が微笑み見つめ合っていたが、不意に横を向いた。


「こんな状況で話す内容じゃないな。ムードも何も無いよ。」


アレンが少し苦笑いをしている。


「仕方ないだろう。これからセドリックとの戦いだ。妾よりも遥かに上位の統括者だから絶対に勝てる保証は無い。だから、決戦前にお主の気持ちを聞きたかった。そして妾の決意をもな。」


2人の視線の先には10メートルはあろう浅黒い巨人が立っていた。

しかし、床から大量の漆黒の鎖が巻き付き、ギリギリと微かに動くだけしか出来ていないようだ。




「これがダリアの力か・・・」


本当にすごい魔法だよ。伝説の巨人族でも身動きが出来ない程に拘束する魔法なんてな。


「たかが初級のシャドウ・バインドだぞ。お主なら足止めにもならんわ。」


ニヤニヤしながらダリアが俺を見てくるけど、俺でも抜け出すのは無理なんじゃないか?

さすがは元魔王、強さの次元が違い過ぎる。


「さてと、そろそろアイツらに追い付かないと、いい加減に怒られそうだ。」


「そうだな、いくら勇者達でもたかが人間だ。統括者であるセドリックの前ではゴミ虫と同然だからな。」


おいおい・・・、仮にもパーティーメンバーだぞ。辛辣過ぎるわ。


「だってだぞ、あの帝国のクソ姫はお主を狙っているしな。妾以外の女がお主に近づくのは許せん。」


そんな気持ちをダリアに伝えると、ニチャァ~~~と、とてつもない悪い笑みをダリアが浮かべたよ。魔王モードの笑い方だよ。


「どさくさ紛れにあ奴も殺しておこうか?後腐れも無いよう4人揃ってこのダンジョンで行方不明に・・・」


「ちょい待ち!」


慌ててダリアの口を塞ぐ。


「物騒な事は止めてくれ!俺はお前以外には誰も受け入れる気は無いからな!」


「うふふ・・・」


俺に口を塞がれているダリアだったが蕩けたような顔になって俺に視線を向けた。


もう勘弁してくれ・・・

話が進まん!


ダリアの口から手を放し、目の前の空間に手を伸ばす。


ブン!


いきなり空間が割れ、漆黒のどこまでも暗い空間が現れた。


ズズズ・・・


その空間から、空間と同じくらいに真っ黒な巨大な剣が現れる。

まるで闇を凝縮したような剣だ。

刀身だけで俺の身長近くはあるだろう。


しかし!


その剣を握り構えるが、重さは全く感じない。


「さすがはアレンだな。我が分身でもある闇の剣『オプシダンソード』をここまで使いこなせるとは・・・、妾の権能を共有しているだけあるな。」


確かにこの剣は元々がダリアの固有能力で生み出された剣だ。

しかし、今の俺はこの剣を召喚し自由に使える。

これもダリアのおかげだけどな。


「さぁあああああああ!アレン!仕上げだ!」


ダリアの声を合図にグッと剣を上段に構え一気に飛び上がる。

10メートルはあろう巨人よりも更に遥か高く飛び上がった。


(こんなバカみたいな身体能力・・・)


スキルのおかげだけど、俺は本当に人間?と思いたくなるよ。

この能力をあの魔王セドリックが狙っていた。


「絶対に奴に渡さん!今度は俺がぁあああああああああ!奴を倒す!」


頭から巨人へと落ちていく。

剣を前に突き出し、闘気を剣に集中させる。



「皇破!降龍斬!」



漆黒の刀身から巨大な黒龍の顔が現れた。巨人よりも遥かに大きな龍の顔だ。

その黒龍は大きな口を開け、巨人を呑み込もうとする。



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!



黒龍は巨人を呑み込み、そのまま床へとぶち当たったが、大きな爆発音が響きそのまま床に大きな穴が開いた。


「アレンよぉおおおおおお!いくらなんでもやり過ぎじゃぁああああああ!ダンジョンの床をぶち抜くバカがどこにいるぅううううううううううううううううううううう!」

「どわぁあああああああああああ!」


俺もダリアも一緒に穴へと落ちてしまった。



そして、魔王セドリックと2度目の邂逅を果たすのだった。



18年経った今でも決して忘れる事のない出来事を思い出す。

1度目の人生でのダリアの出会い、そして最後に裏切られて死んだ俺・・・






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






ズシャッ!


「が!」


「レックスゥウウウウウウウ!」


パーティーメンバーのレックスが死んだ・・・

首を刎ねられ即死だった。

屈強な勇者だろうが首を刎ねられてしまえば、どんな回復魔法もポーションも効果は無い。


俺の隣にいるヒーラーのグロリア王女様が青い顔で俺を見ている。

彼女を含め俺と2人だけしか生き残っていなかった。


「アレン・・・、撤退しましょう。魔王の強さは予想外だったわ。王国最強の勇者パーティーのメンバーがこうも簡単に破れるなんて・・・」


「王女様、撤退は王女様だけで!王女様が持っています転移石があれば王城まで戻れるはずです。転移石の魔法が発動するまでの時間稼ぎは俺がします!」


俺はグッと剣を構えた。


「で!でも!」


王女様が涙を流しながら俺を見つめていた。


「俺は魔王を倒す勇者になる為に死に物狂いで頑張ってきました。平民でも勇者になれば両親に楽をさせられるから、王国から勇者と認められその報奨金で両親の生活も楽になりましたよ。だから・・・、その恩を返すまでは絶対に帰れません!」



剣の切っ先を魔王へと向ける。


だが!その魔王は・・・


全身が漆黒の鎧で覆われ身長は2メートルは下らないだろう。

しかも!

自分の身長程もある漆黒の刀身の大剣を肩に担ぎ立っている。

無防備に立ってるように見えるが、全く隙は無く、近づいただけで一瞬の剣捌きで首を刈られてしまう。

今、殺されてしまったレックスもあっという間に殺された。

そして、あまりにも動作が素早く動きが全く見えない。

まるで瞬間移動するかのように俺達の前に現れ、魔法で焼かれるか惨殺されるかのどちらかだった。

レックスを含めた戦士が2人、斥候が1人、魔法使いが1人と次々と魔王に殺された。

6人のパーティーだったが、今では俺と王女様の2人しかいない。


(ここまで差があるなんて・・・)


ギリギリと奥歯を噛みしめてしまうが、何も手立てが無い。


(これで俺も終わりか?)


絶望がひしひしと俺の心を塗り潰していた。



「いや!」



こんなところで死にたくない!


だけど・・・


どうせ死ぬなら!



「思いっきり足掻いてやる!」



『フフフ・・・、良イ面構エダナ。貴様ハ他ノゴミトハ違ウヨウダ。』


今まで構えもしていなかった魔王がグッと大剣を構えた。



不思議だ・・・


覚悟を決めた瞬間、俺の体の中から力が沸き上がってくる。

死ぬ程に鍛錬しこれ以上強くなれないと思っていたけど、そんな俺の強さが更に上書きされたみたいだ。



「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ガキィイイイイイイイイイ!


『クッ!』


信じられないくらいに鋭くなった俺の剣閃が魔王へと迫り、その俺の剣を魔王が受け止める。


『ヤルナ!』


ブン!


(見える!)


あれだけ目にも見えなかった魔王の剣筋が俺の目に映った!


スッ!


目の前に迫り俺の首を薙ごうとする剣を紙一重で躱した。


ザッ!


俺と魔王がお互いに後ろへと飛び距離を取る。


『フフフ・・・、アクセラレータガ通用シナイトハ、貴様、ソノ目ハドウナッテイル?』


魔王に質問されてしまったが、俺もどうなっているのか分からないのが本音だ。


「さぁ、それは俺もよく分からないんだよ。まるで、自分の限界を超えたような感じだ。」



「「!!!」」



(どうした?)


魔王は鎧姿だし中の人がどんなのか分からないが、俺の言葉でピクっと小刻みに震え、ジリっと少し後ずさりしているし、かなり動揺してるのが俺でも分かった。

それにしても、魔王の声はなんだろう?何か細工でもしているような低い違和感のあるだみ声だ。

本当の声は何だろうと思ってしまった。

それと、俺の後ろにいるグロリア王女様も俺の言葉でワナワナと震えているみたいだ。


(魔王が動揺するのは分かるけど、王女様もなぜ動揺している?)


まぁ、その答えは後々に分かったけどな・・・

その時は既に手遅れだったよ。


『貴様ノソノ力、本物カ試シテヤロウ。』


再び魔王が剣を構えた。


「俺は死ぬ訳にはいかない!死ぬのは魔王!貴様だぁあああああああああ!」


俺が飛び出した瞬間、魔王も俺に合わせて飛び出してくる。



「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』








「はぁ、はぁ・・・」


(何とか生きているな・・・)


体中が傷だらけになっているが、致命傷に至るような傷は負っていない。


それにしても、魔王は強過ぎだ・・・

奴の攻撃を躱したり受け止めるだけでやっとの状態だ。


しかし・・・


あの無敵のような魔王にも少し疲れが見えている。

だが!そんな状態の魔王だけど、まだまだ俺の剣が届かない。


途中で王女様が俺の援護をしてくれたが、魔王の剣圧で吹き飛ばされ気を失っていた。

王女様の場所からはかなり離れてしまったので、今の俺は王女様を気にせず攻撃に専念出来る。


「魔王!」


グッと剣を上段に構え叫んだ。


『ドウシタ?』


魔王も大剣を俺と同じ上段に構えている。

このまま俺が魔王へと切りかかってもリーチが違い過ぎるし、俺の方が先に真っ二つにされるだろう。


(しかし!)


不思議な感覚が俺の全身を巡っている。


魔王と剣を切り結ぶ度に俺の動きが早く、そして力強くなっている気がする。

戦えば戦う程に俺は成長しているのでは?と思う程にだ。

あれだけ死に物狂いで鍛えて、これ以上の成長は無いと思っていたが、まだ俺に成長の余地があったとは驚きだ。


「これが俺の最後の攻撃だ!これが決まれば俺の勝ち!外せば負けだ。」


『良カロウ。コノ一撃、妾モ全テヲ懸ケヨウ!』



ドン!



「う!」


魔王から今まで以上に激しい闘気を感じる。

今までは本気ではなかったのか?それくらいにプレッシャーで押しつぶされそうだ。


(ん?そういえば・・・)


確か、今、魔王は『妾』って言っていたような気が・・・


(いかん!)


今は戦いに集中だ!

俺も全身の力を剣へと集中させる。


ドクン!


(これは?)


今までの俺とは違う力が体の中から溢れてきた。

今までは限界の中の限界で力を出し切った筈なのに、まだ限界を超えるのか?


「この力なら!魔王!貴様を超える!」


ダン!


今までで一番早く踏み込めたかもしれない。

まるで光の矢のように魔王へと迫った。

慌てて魔王が剣を振り下ろす姿が目に入ってきたが、俺の方が紙一重で魔王の懐へと入り込んだ。


ズバァアアアアアアアアア!


剣を上段から切り下ろす。


しかし!



キィイイイイイイイイッン!



魔王の肩口に喰い込んだ俺の剣が漆黒の鎧の途中まで切り裂いた。しかし、いきなり剣が折れてしまった。


(くそ!ここまできて剣が限界を迎えたなんて!)


だけど、今の俺は諦める事をしない!

そのまま魔王をすり抜け、背後に回る。


「まだだぁあああああああああ!」


振り向いた魔王の胸に右手の掌を添えた。


どうしてか分からなかったが、なぜか体が自然に動いた。

俺の掌から真っ赤な炎の玉が飛び出す。

魔法なんて今まで使えた事が無かったのに、どうして急に使えるように?


ドォオオオオオオオオオオオオン!


激しい爆発音が響き、魔王が吹き飛んだ。


しかし、魔王は俺の魔法に耐えた。

吹き飛んではいたが、転がるようにではなく、魔法を受け止めた体勢のまま後ろに下がった。


「これでも届かないのか・・・」


もう全て出し切った。

これ以上は戦えない。

全身の力が抜けていくのが感じられた。



だが!


勝利の女神は俺に微笑んでくれたようだ。



魔王がガクっと片膝を床に付ける。


『妾ノ負ケダ・・・』



バカッ!



魔王の漆黒の全身鎧が粉々に砕けた。


その鎧の中にいた人物は・・・



「女?」



見た目は間違いなく女性だ。

真っ黒な髪に赤いルビーのように輝く瞳。


そして・・・


まるで美の結晶のようにも思える程に美しい女性だった。


あまりの美しさに一瞬だけど目を奪われてしまった。


「ふふふ・・・、妾が人間に負けるとはな・・・、がふっ!」


口からは大量に血を吐いたが、それでも美しさは損なわれていない。

俺の折れてしまった剣の刀身が彼女の左肩口から胸の半ばまで食い込んでいる。

魔王であろうが体の構造はそう変わらないだろう。

その折れた刀身は心臓の位置で止っていた。

その傷口からも大量の血が流れている。


魔王がグラッとよろけ、前のめりに倒れそうになった。


(マズい!)


一気に魔王へと飛び出した。


(???)


まただ!

さっきよりも体が軽く感じる。身体能力が更に向上していると実感している。


(俺の体はどうなっているのだ?)


身体能力もそうだが、なぜか知らないが魔法も使えるようになっていた。


「おっと!」


そんな事を考えているうちに魔王の前まで一気に移動し抱きとめる。


魔王は敵だ!

俺達人間は生れた時からそう教えられてきた。


しかし・・・


今、俺の腕の中にいる彼女はとても華奢な女性にしか見えない。

あれだけの戦いをしたはずなのに、どうしても同じ人物には見えなかった。


胸に食い込んでいる剣を抜こうとしたが、剣を抜けば一気に大出血を起こし、いくら魔王でも即死は免れないだろう。

そう考えている内に、目を閉じていた彼女が薄らと目を開ける。

そして俺に微笑んだ。


(どうして?)


「人間よ見事だ。妾を倒す者が現われるとはな・・・」


「何で笑うんだ?俺はお前を殺そうとして・・・」


「気にするな。お互いにさっきまで殺し合いをしていたのだ。それこそお互い様だろうが。」


「し!しかし!」


「妾はなぁ・・・、もう疲れたのだ。魔王として生れ5000年以上、このダンジョンで君臨してきた。数百年ごとに勇者達が妾達魔王を倒そうと各々のダンジョンへと攻めてくるのだ。妾はその勇者達を全て返り討ちにしてきた。ある目的の為にな・・・」


(目的?一体何が?)


「ふふふ・・・、不思議そうな顔だな。妾達魔王と、貴様達勇者はある目的の為に数千年も戦っていたのだよ。」


「どういう事だ!俺達勇者と魔王!何の関係があるのだ!?」


「そう慌てるな。せっかちな男はモテんぞ。少し貴様を覗かせてくれ。」


そう言った瞬間、魔王の瞳が赤色から金色へと変わった。


(何が?)


「貴様は本当に人間か?貴様の成長限界は人間を越えているぞ。妾をも陵駕するほどにな。」


そしてすぐに黙ってしまい、ジッと俺を見つめていた。


「そういう事か・・・」


魔王が納得したような表情になり、再び俺に微笑んだ。


「まさか、貴様がアイツの追い求めていたスキルの持ち主だったとは・・・、妾が負けたのも納得だ。」


「1人で納得するな!俺にも分るように説明してくれ!」


「良かろう。妾に勝った褒美だ。」


魔王がジッと俺を見つめる。


「世界の各地のダンジョンにいる妾を含めて4人の魔王は、ある目的の為に生み出された。」


(目的?)


「そう、真の魔王・・・、遥か昔に神々との戦いでこの地に落ちて魔王になった神だ。」


「か!神だと!」


「そう・・・、神が堕天し魔王となった。だがな、その魔王は神々の復讐を忘れていなかったのだ。いくら元神とはいえ、再び戦っても負ける事は明白だ。だから、その魔王は考えたのだよ。この世界の人間からスキルを奪うとな・・・」


(スキルを奪う?)


「今の世界は女神が人間にスキルを与えているのは知っているな。全ての人間が与えられるものではないが、一部の英雄や勇者と呼ばれる者が生まれた時に授けられるモノだ。そのスキルは人間だけでなく神にも適用するのだ。もちろん、妾達魔王もだがな。魔王とはいえ、さすがは元神だけあって、人々にスキルを与える事は出来ないが奪う事は出来る。そうやって、真の魔王は力を付け神々の世界へと戦いを挑もうとしているのだよ。妾達魔王もその真の魔王の先兵としてな。」


「そ、そんな・・・」


「ふふふ・・・、驚いただろう?しかし愉快よの。妾を倒した男がこうも驚く顔をしているのが・・・、魔王に敗れた勇者達は死ぬ時にスキルを奪われていたのだよ。数千年もの間ずっと・・・」


(ずっと・・・)


「そんな・・・、俺達勇者はその真の魔王とかいう奴の為に、わざわざ殺され続けていたのか?俺達は一体、何の為に・・・、そんなの・・・」


フッと魔王が自嘲気味に笑った。


「これが世界の真実だよ。残酷な真実だったがな・・・」


しかし、ギュッと口を引き締め真剣な表情で俺を見つめた。


「だが、どれだけスキルを集めようが限界があった。今までに集めたスキルでの強さではまだ神との戦いでは勝つ事が出来ない。それ以上に強くなるにはどうすれば?限界を超える事が可能なスキルがあるとしたらどうだ?そしてだ、とうとう妾は見つけた。貴様の中にあるそのスキルが奴の最も欲しがっていたスキルだとな。」


「お、俺のスキルが?そんなスキルは神殿での鑑定にも無かったぞ。俺のスキルは単に『上級剣士』だけのはずで、勇者としても最低ランクからのスタートだった。」


信じられない話だ。

俺にそんなスキルがあったとは信じられない。


(だが・・・)


魔王と戦った時、俺の体に異変が起きた事は分かっている。

今までの体の限界を超え、新しい力に目覚めた。そんな感じだ。


「心当たりがあったようだな。」


魔王がニヤッと笑った。


「妾の魔眼は神官のチンケな鑑定とは次元が違う。全ての事象を見抜く眼だ。妾の魔眼には貴様のスキルがハッキリと見えたのだよ。女神の意図なのか知らないが、巧妙に隠されていた。多分だが、真の魔王でも見抜く事は出来なかっただろうな。妾だけしか鑑定は出来ないだろう。」


(どんなスキルなのだ?)


「くくく・・・、教えて欲しそうな顔だな。良かろう、サービスに教えてやる。貴様のスキルは『リミット・ブレイク』いわゆる『限界突破』だ。貴様は人間の枠を超え、どこまでも強くなる可能性があるのだよ。まぁ、実際に人間の成長限界を超え、妾以上の存在になってしまったからな。」


「お、俺が魔王よりも上だと?」


今までも信じられない話だったが、このスキルの話が一番信じられない。

俺が人間の枠を超えた?

魔王以上の存在だと?


「そうだ、そうでもないと妾を倒した理由にならん。これでも妾は4人の魔王の中でも最強と言われているのだぞ。そんな妾を倒したのだ。このスキルは天井知らずに強くなれる。時間の制限さえなければ、いつかは神すらも追い越すかもしれん。真の魔王はこのスキルを待ち望んでいたのだよ。」



「うっ!」



魔王が咳き込み、またもや大量の血を吐いた。


「どうやら妾も終わりのようだ。まさか男の腕の中で妾の最後を看取られるとはな・・・、しかも、妾を倒した男に・・・、これで終わりなき戦いからやっと解放されるのだ。感謝する。」


どうしてだ?今の魔王を見ていると涙が止らない。


「どうした?なぜ貴様が泣いている。妾を倒したのだぞ。喜ぶ事はあっても泣く事はないだろうが。人間とはつくづく不思議な生き物だよ。」


「お前はこれで本当に良かったと思っているのか?」


何で俺はこう言ったのだ?

俺の腕の中にいる魔王は人間の敵だ!そう教えられてきた。

そして今にもその命の炎が消えそうな状態になっている。

胸に刺さっている剣を抜けば、今すぐにこの戦いに終止符を打つ事が出来る!


(だけど・・・)


俺はトドメを刺す事が出来ない!

真の魔王の命令だけを聞いて、こうして数千年に及ぶ戦いを続けてきたのだ。

それ以外の事を知らないまま・・・


「妾はこの生き方しか出来なかった。それだけだ・・・」


魔王がブルブルと震えながら両手を俺の頬へ伸ばした。


「もし、もう一度やり直せるなら・・・」


俺の頬に両手を添えられた。


「妾も普通の人間の女のように生きてみたい。妾も女だぞ、この数千年生きている間、人間の営みを見る機会もあった。どれだけ人間らしい生き方に憧れたか・・・、だが、妾は魔王、人間に恐怖を与えその憎悪を受け君臨する存在。そして、人間のスキルを吸収し真の魔王に受け渡すだけの存在・・・」


俺も泣いていたが、魔王も涙を流していた。


「だが、そんな生き方もやっと終わる。」


魔王の顔がグングンと近づいてくるが、俺は黙って魔王の行動を受け入れた。


俺の唇にとても和らかいものが当たった。

その感触は魔王の唇だと・・・


しばらくすると、ゆっくりと唇が離れた。


「これが人間でいうキスなるものか・・・、何と甘美な気持ちにさせられる。出来ればずっと一緒に・・・」


とても蠱惑的な視線で俺を見つめている。


「貴様、いやお主だからこんな気持ちになったのだろうな。お主は妾の為に泣いてくれた。お主の涙で妾はこの数千年の孤独から救われた。我が名は『ダリア』、覚えておくが良い。今のお主はもう手遅れだろうが、最後に妾が手助けをしてやろう。あんな男にお主を渡さん。」


(!!!)


どうした?

魔王の体が少しずつ消えていく!


「どうやら、妾も終わりのようだ。最後まで妾に付き合ってくれるか?お主の腕の中で最後を迎えたい。お主の名前は?妾もお主の名前を心に刻み込みたい。」


「あぁ、分かった。俺はアレン、うだつの上がらない平凡な勇者だよ。そんな俺が魔王を倒してしまうし、それにまさか、魔王がこんなにもいい女だったとは思わなかったよ。」


「妾がいい女だと?」


「そうだ、俺はお前を見た瞬間、あまりの美しさに声も出なかった。まるで女神じゃないか?ってな。」


「くくく・・・、嬉しい事を言ってくれる。尚更、アイツには絶対に渡せない。必ず妾が独占してやろう。アレンよ、お主の存在は妾の心に刻み込んだ故、絶対に妾から逃げられない、その事をよく覚えておくのだな。」


そんな事を言うなんて、魔王、いや、ダリアはどういう意味で言っているのだ?

まさか、亡霊となって俺に付き纏う気なのか?


(魔王なら何でもありかも?)


「最後にもう一度・・・」


ダリアが目を閉じ唇を突き出してくる。

これって、やっぱり?


もう一度ダリアにキスをする。

最初のキスはダリアからだったが、今度は俺からのキスだ。


お互いの顔が離れると、ダリアの顔がとても幸せそうな感じだった。

あの漆黒の鎧を纏っていた無慈悲な殺戮者の姿の魔王とは対照的だし、とても可愛いと思った。


「今はこれで許してやろう。だがな、妾はずっとお主を想い続ける。永遠にな・・・」


「あぁ、俺もお前に惚れた。お前以上の女はいないと思う。俺が生き続ける限りお前だけを愛し続ける事を誓う。」



スゥゥゥ・・・



俺の腕の中でダリアが消えた。

とても嬉しそうな顔で・・・

夢では?と思うほどに幻想的な姿の女性だった。


しかし・・・


ここにダリアがいた証が俺の手に残っていた。


「漆黒のダイヤモンド、これが魔王ダリアの魔石・・・」


とても大きなブラックダイヤモンドの宝石が俺の掌に握られていた。



「ダリア・・・、俺は忘れない・・・、君という悲しい宿命を背負った魔王がいた事を・・・」




しかし、その感傷の時間はすぐに破られてしまった。



ドン!



「ぐあっ!」


俺の胸に激しい痛みと衝撃が走った。

ゆっくり視線を下げると、胸から大きな氷の槍が突き出している。

背中からアイスジャベリンの魔法を受けた?


薄れゆく意識を何とか覚醒させ振り返ると・・・


「グロリア王女様・・・」


掌を俺に向けたグロリア王女様がニタリと笑っていた。


(何で?)


今のグロリア王女様の雰囲気は聖女と言われている厳かな雰囲気は全く無い!

妖艶な悪女の見本ような醜悪な笑みを湛えていた。


「まさか、魔王ダリアを倒してしまう存在だとは。これで父様の悲願が叶うわね。」


「グロリア王女様・・・」


ブワッ!


「がっ!」


今後は風の刃が俺を襲い、全身のあちこちが切り裂かれてしまった。


グロリア王女様は聖女で、回復中心の神聖魔法しか使いないはずでは?

何で普通に属性魔法が使えるのだ?


王女様の真っ白な法衣がみるみると黒く変化している。


「本当こいつは人間なの?これだけやっても死なないなんて、しぶといにも程があるわ。」


とても冷たい視線で吐き捨てるように俺を見つめる。

まるで俺の事をゴミでも見るような目付きだ。

セイグリット王国の王女でもあり、あの聖女の姿は演技だったのか?



ブン!



彼女の隣の空間が歪んだ。


「そ、そんな・・・」


それこそ信じられない光景だった。


(国王様がどうしてここに?)


この国の国王がいきなり現れる。

しかもだ!いきなり転移でもしたかのようにだ!



(まさか?)



俺の頭の中に先程のダリアの言葉が蘇る。


『覚えておくが良い。今のお主はもう手遅れだろうが』


まさか・・・


真の魔王とは?



ドン!



「ぐふ!」


今度は腹にとんでもない衝撃を感じた。

あまりの痛さに意識が途切れそうになってしまう。

さすがにこれは分かる。

俺の腹に大きな穴が開いて大量に血が流れているのが・・・



「間違い無いな・・・」



国王の感情の無い声が俺の耳に入った。


(やはり・・・)


「ふふふ・・・、まさか、最後の欠片がすぐそばにあるとは思わなかったぞ。」


グッと首に圧迫感を感じる。

国王が俺の首を掴み、片手で持ち上げている。

ギリギリと締め上げられているが、瀕死の俺ではどうにもならない。


「ふはははぁあああああああああああ!これで余は完成するのだ!神を凌駕し、再び余が神の世界で覇権を握るのだぁああああああああああああああ!」



ゴキン!



(あ”・・・)


首の骨が折られてしまった。


意識が・・・



もう一度やり直せるなら・・・




今度は・・・






『心配するな。妾が・・・』





薄れゆく意識の中でダリアの声が響き、俺は死んだ・・・









「やっとくたばったか・・・」


国王セドリックがアレンの動かなくなった体をジッと見ていた。


「これでこいつからのスキルを奪えば余が全能の神となる事が出来る。忌々しい魔王の体を脱ぎ捨て、かつての神の体を取り戻せるのだ。しかもだ!今度は誰にも太刀打ち出来ない、完璧な強さを身に付けてな!」


ニチャァ~と不敵な笑いを浮かべていた。


「さぁああああああ!余の権能にこのスキルを!」



バチッ!



「ぐっ!」


アレンの全身から放電が走り、セドリックが思わず手を離してしまう。

ドサリとアレンの骸が地面へと転がった。

その胸には掌に握られていたはずのブラックダイヤモンドの宝石が乗せられている。


「何が起きた?」


パキ!


そのブラックダイヤモンドが縦に2つに割れた。


「ダリア・・・、貴様の仕業か?死しして尚、余に歯向かうというのか?」


憤怒の表情でセドリックが2つに割れた宝石を見ている。


『くくく・・・、アレンは妾のものよ。誰にも渡さん・・・』


どこからかダリアの声が聞こえる。


「たかが下位の管理者ごときが余に歯向かうのか!身の程しらずがぁあああああああああ!」


その声でセドリックが激高する。


『妾は死んだ事により貴様の管理から解き放たれたのだ。いくら統括者であろうが、今の妾を縛る事は出来ん。今まで散々と妾をこき使ってくれたお礼だ。』


アレンの胸にある2つに割れた宝石一つが輝き、光の粒子となってアレンの体へと吸い込まれていく。

そして、その輝きは全身を包み込んだ。


「何が起きている?」


輝きが収まり、そこには既にアレンの肉体は無かった。

もう1つの残りの欠片が宙に浮いているだけだった。


「貴様ぁああああああああああああああ!何をしたぁああああああああああああああ!」


「別に大した事はしてないぞ。数千年、妾を散々とこき使ってくれたからな、退職金代わりにアレンの存在をいただいただけだ。妾が有効活用してやろう。」


「ふ!ふざけるな!」

「そうよ!たかが父様の下僕の魔王ごときが逆らうつもりなの!」


ゼドリックもグロリアも激高し叫んでいる。


『セドリックよ、貴様は最大のミスを犯した。それは、妾にアレンを会わせた事だ。その選択が貴様の命取りだったと後悔させてやろう。あはははぁああああああああああああああああああああああああああ!』


高らかに笑うダリアの声が響き、残った片割れの宝石も光を放ちこの場から消え去った。



「くそ!」


セドリックが忌々しそうに呟き姿が消えた。

その後を追ってグロリアも姿が消える。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






(ここはどこだ?)


真っ暗な世界に取り残されてしまったのか?


いや・・・


俺は確か死んだはずだ。


もしかして?ここは死の世界なのか?


(いや、違う・・・)


真っ暗な世界ではない。単純に俺が目を開けられないだけだ。


目を開けると・・・


(なんて眩しい!)


光の奔流が俺の目に焼き付くようになだれ込んで来る。


体も自由に動かせない!

致命傷を受けた後遺症なのか?

それで体が動かせないような状態になってしまったのか?


声を出そうとしたが・・・



「おぎゃぁあああ!おぎゃぁあああ!」



(はい?)



何で俺が赤ん坊のように泣き声を出すのだ?


再び声を出そうとしたが、またもや赤ん坊のように泣いてしまった。


いきなり誰かに抱かれ持ち上げられた感覚を感じた。


(俺を軽々と持ち上げる?)


ぼんやりとしか見えていなかった風景がハッキリと見えるようになってくる。


(う!嘘だ!)


2人の男女が俺の顔を覗き込んでいる。

その人物が信じられない人物だった!


(父さんに母さん!)


しかもだ!とても若い!

俺の小さい時の記憶にある父さんと母さんの顔だった。


それに!俺よりもはるかに大きい!まるで巨人族みたいだ!


(訳が分らない・・・)


若い母さんが俺の顔を見てニコッと微笑んだ。


「あなた、アレンはどうやらお腹が空いたようね。だから、ちょっと別の部屋に行ってくれない。」


(はぁあああ?)


やっぱり、目の前にいる巨人族は俺の父さんと母さんに間違いない!

若い父さんは部屋を出て行った。

更に訳が分らなくなっている中、若い姿の母さんが徐ろに服を上げ、胸を出してくる。


(ちょっ!ちょっ!母さん!)


いくら何でも母さんが胸を丸出しにし、俺の顔に当てようとしてくる。

そのまま俺の口に当てられた。


体が自然に反応しゴクゴクと・・・


(俺って・・・、まさか?)


今の俺は母さんの胸に吸い付いてお乳を飲んでいると理解出来た。


そして、これは夢ではない!

現実に起きている事だ!



俺は赤ん坊の頃に戻ったのか?

記憶だけは当時のままに・・・

時間だけが巻き戻して・・・



(たしか?)


死ぬ寸前に俺が願ったのは・・・




もう一度やり直せるなら・・・




そう願った。



その願いが叶ったのか?

そして聞こえた声は、確かダリアの声が・・・


もしかして、ダリアが俺に何かしたのか?

時を巻き戻して、もう一度やり直せるように・・・




(しかしだ!)


今の俺は赤ん坊の姿だろうが、中身は18歳の大人の男だ!

そんな俺が若い母さんの胸に吸い付いてお乳を飲んでいるなんて・・・


頭では恥ずかしくて死にそうなのに、体は別の意志を持っているのか胸に吸い付いてずっとお乳を飲んでいる。


こんなの拷問だよ・・・


大きくなったらどんな顔で母さんを見るんだよ。


(いっそ殺してくれ・・・)



そして半年ほど経った。

正確には分らないが、窓から見える景色で大体の季節が分るしな。


やはり俺は赤ん坊の頃に時間が戻ったのは間違いない。

この事は現実として受け止めている。


これからは同じ事をして生きていけば、また勇者となって魔王と戦う日々に戻る・・・


(魔王?)


そういえば、今の頃の魔王であるダリアはどうなっているのか?

まぁ、俺の事は知らないだろうし、ダンジョンで勇者を待ち構えているのかもな。

ダリアの事を知ってしまった俺はもうダリアとは戦えないだろう。


(そして・・・)


ダリアから教えてもらった真の魔王の事もあるし、俺だけが世界の真実を知っているのだろうな。


もうこの国、セイグリット王国には仕える事が出来ない。

俺の隠されたスキルがあの国王や王女にバレてしまえば、また殺されてしまうだろう。

勇者になる切っかけとなった学院の入学も諦めて、ひっそりと過ごした方がいいかもしれない。


(だけど・・・)


せめてダリアだけでも魔王の宿命から解き放ちたい。

あまりにも可哀想だよ。


戦いを放棄した俺だとあのダンジョンの最奥にいるダリルに会う事も無理だろうな。

そして、話をしようにも絶対に信じてくれないだろうし、それ以前に瞬殺だろうな。



(ダリア・・・)



俺はお前を救いたい。




『アレンよ、妾は既にお主に救われた。』



空耳が聞こえるな。ダリアの声が聞こえるなんて、俺も焼きが回ったか?



『おい!妾を無視するな!』



(はっ!)


これは空耳じゃない!

本当にダリアの声が聞こえる!


(どこにいる?)


ベビーベッドに寝ている俺の隣から声が聞こえた気がする。

まだ首がうまく座っていないので、ぎこちなく首を横に向けると・・・



(はぁあああああああああああああああああ!)



心の中で素っ頓狂な声を出してしまった!


確かにダリアはそこにいた!

女神と言っても差し支えがない程の美貌を湛えた笑顔のダリアが!


しかしだ!


今のダリアは!


身長が30cm程の小人サイズで、背中に黒い6枚の翼を生やした、まさに妖精のような姿のダリアが浮かんでいた!


『アレンよ、会いに来たぞ。そしてこれからはな、妾はお主とずっと一緒だ。』


とびきりの笑顔でダリアが俺へと抱き着いてきた。


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