*プロローグ3
とあるダンジョン内でのこと。
とある冒険者パーティー四人は最終階層のボス――つまり、ラスボスを倒す事を目指していた。
だが、ラスボスを倒すのに重荷になる人物が一人いた。
「リック」
「はい、僕に出来る事なら何でもお申し付けください」
「これ持って」
リックと呼ばれる男はパーティー内では執事のような存在であった。みんなの頼み事を聞いて、それに応える。有難い存在だが、戦闘に関してはだいぶ手こずる人だった。――というのも。
「スキル『吸収』!」
すると、パーティーメンバーの一人の、ロンのカバンがリックの手の中に吸い込まれた。これは荷物を持ってくれた、というのかどうかは怪しい。でも、一応身が軽くなっただろう。
「俺も俺も」
「あ、わたしのも持ってくれるかな?」
「いいですよ」
もうリックは完全にパーティーの雑用係だ。
でも、全員分の荷物を持ったとしても、リックが重い、と感じることはない。何故なら、スキル『吸収』を使ってしまえば、吸収した物の重さは0になるから。それが、彼の持つスキルなのだ。
そのスキルは地面とくっついているものと人間には、無効だ。木や家などの建物とか。でも、車や海水、匂いなどは吸い取ってしまうから、注意が必要。
そしてその彼の持つスキル『吸収』には、たった一つ欠点があった。それは――カバン等の家具は放出できるが、敵から受けたダメージや匂い等の実体の無いものは放出できない、という点。それだけが残念であった。
だから、ラスボスを倒すのに重荷になるのだ。
リックは他に攻撃スキルを持ち合わせてない。なので、敵と闘うと受けたダメージを永遠に吸収し続け、攻撃は出来ないので、ドローバトルがずっと続く。
まあマルチだと少しは役に立つのかもしれないが、ソロだと全然ダメダメ。
ソロで戦ってみろ、だなんて言われたら――。
「リック、一人で戦ってみろよ」
「ええ、頑張りますね!」
最終階層一歩手前の魔物、サラマンダー。火属性で結構強い。でも、リックには何属性であろうと、攻撃は出来ない。
「ゴオオオオッ……!」
魔物が咆哮を上げる。
「グオオ、ウォー!」
サラマンダーが近づき、リックの方へと突進してくる。もう物理攻撃はダメ。ほんと、ダメ。
その攻撃を彼は全力で避ける。一応、防御スキルくらいは身につけてある。でも、一切の攻撃が出来ない。
次、攻撃されたら――
と、その時、サラマンダーが火を吹いた。
「グオオオーン、フォーッ!」
「スキル『吸収』!」
一気にサラマンダーが吹いた火をリックの手が吸収した。最強っぽいのに、まだ倒せない。別にノーダメージだからいいんだけど。
「吸収するだけで、全然使えねーな」
ロンが呆れる。
みんなもそれに頷く。
また魔物が火を吹いた。
「スキル『吸収』!」
「その吸収したダメージをサラマンダーに放出して、ダメージ与えろよ……」
「……僕は無敵だからさ」
少しリックはナルシスト的な部分があった。
「どこがだよ」
終わらない戦いが既に始まっていた。結局、リックは敵を倒せなかった。
「しょうがない。スキル『スノードーム・ウォール』!」
「スキル『アクア・フラッシュ』!」
みんなに助けてもらって、何とかサラマンダーを倒せて、ラスボスが待つ部屋へと向かった。
ラスボスもこのメンバーであっさりと倒せた。これでもかなり強いパーティーなのだ。優秀なメンバー揃いだ。
でも……。
リックは1ダメージも与えられなかった。ずっと敵から受けるダメージを吸収してばかりで……。
まあ優秀な盾役? であることは間違いないんだけど……。
そして、リーダーから言われたこの言葉。
「お前にはパーティーを辞めてもらう。あまりにも使えなさ過ぎる」
「分かりました。僕がこのパーティーに貢献出来て、今まで在籍させてもらえたこと、感謝致します」
「分かったなら、いい。じゃ」
手を振りながら、リック以外のパーティーメンバーが立ち去っていく。
(はぁ……)
残されたリックは溜め息を吐き――
「多分、僕がいなくなったら、あのパーティー、大変なことになると思うんだよね」
――そう呟くのだった。