*プロローグ2
冒険者ギルドのテーブル席で、読書が大好きな少年――ヒイロはいつものように本を読んでいた。しかも、読んでる本の数は一度に10冊以上。ほんの30分で10冊全て読みきれるらしい。
何故、そんなに読むのが早いのか――。それには彼の持つスキルに秘密が隠されていた。
スキル『速読術』。
読んで字の如く、本やマンガ、薬草図鑑、魔導書などを猛スピードで読めるスキルだ。
だが、ヒイロは元は読むのが遅い為、スキルを発動させないと、早く読み物が読めない。だから、スキルを発動させる為の体力の消耗が半端無かった。
ヒイロが読書しながら珈琲を飲んでいると……。
パーティーのリーダーが目の前に現れた。
ヒイロは『赤眼の星』というパーティーに所属していた。別に読書に特化したパーティーでも何でも無い。単なる普通のパーティーだ。弱くもなく、強くもない。アンナのパーティーは強かったけど。
「おう、ヒイロ」
「あ、おはようございます」
礼儀正しく、挨拶するヒイロ。
「大事なお知らせだ。今日限りで、お前にパーティーを辞めてもらう」
「えっ! どうしてですか? 僕、何かしましたか?」
「あー何かしたってわけじゃ、ないんだがな。ちょっとお前は強すぎるんだ。うちのパーティーに合わないというか」
「それに魔導書を早く読んで呪文を唱える、だけじゃないスキルも身につけて欲しかったんだ。それに俺らがクエスト受注書を書いてる時も、受注書を眺めてるだけだったし」
(それは意味もなく眺めてたんじゃなくて、クエストの魔物をどう倒すか考えて、戦略立ててたのに……)
「あと、人件費が足りない。毎年一人はパーティー脱退させてただろ?」
(理不尽!!)
そんな理不尽パーティーに所属してたんだ、と改めて思い知らされる。
ヒイロが呆れて諦観の眼差しをリーダーに送っていると。
「なんか納得してない顔だな」
「当たり前ですよ!」
「でも、もう決まった事だから。な、みんな!」
「「「うん!」」」
(メンバーもおかしい……)
「ちなみに脱退メンバーは厳正にくじ引きで決めたから」
(理不尽!!)
さっきの言い訳のような、強制脱退理由は意味を持たない、付け足しの理由で、本当は単純な人件費不足でしかもくじ引きで決まった、という事が分かると、もうこのパーティーに悔いは残らなくなってしまった。
「じゃ、もういいです」
「へ?」
ヒイロは再度、本を読み始めた。
彼はメンバーと目を合わせずに、
「さようなら」
と言った。
「じゃあな」
去っていくパーティーメンバーの足音が消えた。
足音が消えた後、ヒイロはグラスに入っていたメロンソーダを一気に飲み干し――本を閉じた。
そして、近くにいたギルドマスターに告げる。
「僕、冒険者辞めます」
「へっ? 何だってぇー!」
特異スキルを持った最強冒険者、ヒイロが冒険者を辞めた後、ギルドに激震が走っていた。