天才魔術師の忠告 ~後悔なんてものは、大抵が遅すぎる~
「後悔しても知らないよ?」
その言葉に首を振り、差し出された物を受け取る。
「そう。じゃぁ、これはおまけだ」
彼の右手が光り、私に仮面の魔術がかけられた。
「オリビア、率直に言う。嫉妬にかられてフローラへ嫌がらせをするのは、即刻止めろ!」
愛しの男爵令嬢が、婚約者から嫌がらせを受けている事を察した私は、天才と名高い魔術師に[魔力を込めると本音が聞こえるイヤーカフ]を作るよう依頼した。
婚約者の本音から、嫌がらせの実態を明らかにする為だ。まぁ、嫉妬する程想われるというのは男冥利に尽きるが、フローラに辛い思いをさせる訳にはいかない。そして今、私は耳にカフを着け、婚約者と対峙していた。
「私、そのような事は一切しておりません」
澄ました顔で答えているが、本音は醜い嫉妬に塗れている筈だ。そう確信して耳元に魔力を込める。すると。
『えっ。嫉妬って私、この馬鹿の事を好きだと思われてる?うわぁ、最悪。勘弁して。王命だから嫌々婚約者になったけど、顔を見るのも嫌なのに。あっ、三秒見たら気持ち悪くて鳥肌立ってきた。それに糞女に嫌がらせ?浮気の証拠を集めて婚約破棄を狙ってる私が?無いわー。頼むから、糞女も蛆男もさっさと死んでー』
(えっ……)
聞こえてきたのは心を抉り、自尊心を打ち砕く言葉の数々だった。
愛を乞い願う言葉を想像して北叟笑んでた昨日の自分を抹消したい。術のおかげで表情に出ないのが、せめてもの救いだと思い、魔力を止める。
「他にお話が無いなら、失礼させて頂きます」
淑女の礼をとり、立ち去る婚約者をぼんやりと眺めながら、ズタボロな自尊心を慰める。動く事さえ億劫だが、そろそろフローラが来る頃だと思い、何とか足を動かす。
(でも、婚約者でなければ、誰がフローラに嫌がらせを?)
考えながらバルコニーに出ると、彼女が歩いて来るのが見えた。その笑顔を間近に感じたくて、目と耳に魔力強化をかける。すると。
『ふふっ、良い感じにドレスも汚したし、今日はなんて言おうかな。まぁ、涙ぐんで俯いてたら、新しいドレスは手に入るだろうけど、宝石も欲しいから、上手くやらないとね』
(えっ)
『あっ、明日はロイルとデートだから、この前もらった帽子が必要ね。脳筋マシューとは明後日、買い物かぁ。何を買わそう』
あまりの衝撃に息が出来ず、手摺に縋り付く。
バキッ
何かが壊れる音と共に、身体が宙に投げ出され……落ちて行く中、声が聞こえた。
「だから言ったのに」