第9話 生徒会で一仕事、ですわ!
魔法の実技が終わった後、私とクロエは生徒会室に向かった。
生徒会には、一旦仮入部という形で入ることに決まったのだ。
既にマリア様が生徒会室のソファーに座り、お茶を飲んでいた。
「あら、セシリア、クロエ。ごきげんよう」
マリア様は私たちに微笑みかける。私たちも、「マリア様、こんにちは(ですわ)」と挨拶を交わす。
「今日はいつもよりお早いのですね」
「ええ、今日の授業は早めに終わりましたから。それよりも、お茶を飲みますか?」
マリア様は私たちにお茶を勧めてくれ、私たちはその勧めを快諾する。
少しすると、マリア様はお茶を淹れ私たちに振舞ってくれた。今はそのお茶を飲みながら談笑中だ。
「もう二人は学院に慣れましたか?まあ、と言っても一週間足らずしか経っていませんが」
「はい、授業には慣れてきましたわ。ただ、今までは家庭教師とのマンツーマンでしたので、クラスで授業を行うというのは新鮮な気持ちですわ」
「私もだいぶ慣れてきました!訓練場があるのがほんとに助かってます。私が以前住んでいたところだと、なかなか魔法の訓練ができる場所が無かったものですから、、、」
私は侯爵令嬢であるため、魔法の訓練場が屋敷の外にあるのは当たり前の環境だったのだが、クロエは平民出であるため、気軽に訓練を行うことができなかったのだろう。けれども、そんな環境でも努力を惜しまなかったクロエは流石と言わざる負えない。
私がそう考えていると、マリア様がこう続ける。
「それにしても、二人の事は良く耳に入ります。特に、魔法の訓練の際に威力が高かったり、無詠唱で魔法を展開したりという噂ですが」
どうやら、私たち二人の事は2年生の耳にも届いているらしい。
「いえ、そんな、、、。ところで、マリア様はどのような魔法がお得意なんですの?」
少し褒められた私だが、あまり無詠唱の事には触れられたくはないので、咄嗟に話題を変える。
「私の得意な魔法ですか、、、」う~ん、、、と少し考えた後に、「主に支援系の魔法が得意ですわね。火などを使った攻撃的な魔法は苦手ですけど、身体能力を上げたり、耐性を底上げする魔法が得意ですわ」
「そうなんですの!?」
私はその答えにびっくりする。支援系の魔法を使用できる者はほとんどいない。支援系の魔法は頭の中でイメージすることが非常に難しく、詠唱を唱えることができても実際に効果が発動しないといった例が多くある、と教科書には書かれていた。
どうやら、クロエも驚いているようだ。
「いつか、私のもその魔法をかけて頂きたいものですわ」
私のつぶやきに、マリア様が「では、この場でかけてあげましょうか?」と私に提案をしてくれた。
「え!?いいのですの??」
「ぜひ、よろしくお願いいたしますわ!」
私は喜びのあまり、少し食い気味にマリア様に近寄ってしまう。
「ちょ、ちょっと落ち着いて、、、。では、身体能力を向上させる魔法を」
マリア様がそういうと、杖を構え、「――――――っ!」と支援系の魔法を私に付与する。
支援系の魔法を掛けられた瞬間、力が漲っているのを確認した。
――ああ、今ならこぶしで岩を粉砕できそうですわ
私はその漲る力に驚く。まるで筋トレに励んだ私の数年後の姿を前借しているかのような筋力の向上を感じた。
無性にその力を試したくなり、何か壊してもいいものが無いか生徒会室を見渡すが、流石にそのようなモノはこの場所にない。諦めた私は大人しく椅子に座る。
お茶を飲もうとカップの取っ手を掴むと、掴んだ瞬間に取っ手が粉々になってしまった。
確かに、普段の私が本気で握ったら容易くカップの取っ手を破壊することができるのだが、先ほどは優しく取っ手を掴んだはずだったのだ。
――あ、これはまずいですわ
私は少し青ざめてしまい、カップの取っ手を壊してしまったことをマリア様に謝る。
マリア様は笑いながら「いえ、いいのですよ。それよりもお怪我はありませんこと?」と寛大な心で私を赦してくれた。
ほどなくして、効力が切れたのか、先ほどまで漲っていた力が無くなっていくのを感じた。
「それにしても、セシリアはだいぶ力持ちなようですね。少しだけ身体能力を向上させる効果しかないはずなのに、まさかカップの取っ手を壊すとは思いませんでした」
「はい、実は私は筋トレを嗜んでおりまして、、、」
「以前マルケスと戦った後にマルケスが言っていた言葉通りなのですね。魔力を放出することができるほどの筋力がある、というお話はほんとだったのですね」
クスクスッと笑いながらマリア様が私に言う。
――うぅ~、筋肉の事を褒められるのは嬉しいのですけど、ちょっと恥ずかしいですわ
私が俯いて赤面していると、他の生徒会メンバーがぞろぞろと生徒会室に入ってくる。
「うん?どうした、セシリア?顔が赤くなっているようだが、、、」
ハリアー様は赤面している私に対してそのように言う。
「い、いえ、なんでもございませんわ」
私は少し焦ったように返す。
「む、そうか」
「そういえば、今日は新たに生徒会にスカウトした新入生2名を紹介したい」
ハリアー様がそういうと、男女2人がこちらに向け挨拶をする。
「ナッシュ・ストライトです。よろしくお願いします」
ナッシュと自己紹介した男性は、身長が180cmほどで、端正な顔立ちの人物だったが、眼鏡をかけているため、少しキリっとした印象を受ける男性だった。
「フラメア・ガナッシュです。よろしくお願いいたしますわ」
フラメアと言う女性は私と同じくらいの身長、、、つまりおおよそ165cmほどの身長を持ち、ブロンドの髪を丁寧に巻いており、ロール状の髪型をしている。いかにもな上流貴族のお嬢様。そういう印象を受けた。
これで生徒会には総勢10名のメンバーが揃ったことになる(ほんとは後1名いるのだが、私はまだ会ったことがない)。
生徒会メンバーと私、クロエがそれぞれ自己紹介をする。
「分かっていると思うが、クロエとセシリアは君たちと同じ1年生だからな?まあ、仲良くやってくれ」
「「はい、わかりました(わ)」」
新しく加入した二人がハリアー様の問いかけに対し、答える。
――私としても、同じ1年生が入ってくれて少しほっとしてますわ
私たちは自己紹介をした後、懇親会ということでマリア様、私とクロエが淹れたお茶を飲みながら談笑した。
「君たちがクロエさんとセシリアさん、か」
「噂は聞いておりますよ?」
ナッシュとフラメアが私たちに話しかける。
「え、、、と、それはどんな噂ですの?」
「首席と次席であることとか、とんでもない魔法の使い手であるとか、そういった噂です」
「それと、お二人の仲が良いということも聞き及んでおりますよ?」
、、、フラメアの返答を聞いて、少し恥ずかしくなる。まだ入学して幾日も経っていないのに、そのような噂が流れているという事実に、少し驚きも感じている。
「それに、セシリアさんがマルケス様を倒したという話も聞いておりますわ」
ニコっとした表情でフラメアが続ける。
マルケス様の方を見ると、少しばかりバツの悪そうな顔をしている。
「た、たまたまですわ!」
「それよりも、そろそろ生徒会の業務をしないとですわね!」
とその場の空気を変えるように提案する。
「では、ナッシュとフラメアはマリアから、あとセシリアとクロエはフィオナから業務を教わってくれ。やることはそんなに難しくないだろうが、なにより量が多いからな、、、」
「「「「はい!わかりました(わ)!」」」」
ハリアー様から受けた指示通り、お二方に業務を教わりながら取り組んでいった。
確かにそんなに難しい内容ではなかったが、こなす量が多く、いくつかの書類を捌いていると気が付けば帰宅する時間となっていた。