第8話 筋肉さえあれば炎も扱えるのですわよ?
――朝。
まだ日が昇り切っていない時間。私はいつも通りの時間に目を覚ました。
今日は胸のトレーニングの日だ。胸のトレーニングと言えば、いつもバーベルを使用したベンチプレスがメインになるのだが、今日は少し変化を加えることにした。
まず、ダンベルを使用したベンチプレスを3セット。ダンベルでのベンチプレスはバーベルよりも安定感がなく、それを支えるためにいつも以上に筋肉を使う。
次に、ダンベルフライを行う。ベンチに寝転がった状態で腕を水平方向に伸ばし、その伸ばした腕を肘を曲げないように胸の中心に来るように引き上げる。
――キテますわっっ!
正中線近くにある胸筋の内側が歓喜の声をあげている。さあ、ラスト1回、、、
「フンッ!」と気合を入れてラスト1回を終えた。
――はぁ、はぁ、、、今日もやり遂げましたわ!
私の額からにじみ出る汗をタオルでふき取りながら、私は達成感に満ち溢れていた。
そのタイミングで、メイドであるマリーがやってきて、「はあ、お嬢様、とりあえずお疲れ様です」と少し呆れた表情で私を湯浴みに促してくる。
その後湯浴みをし、学院の制服に着替え、鏡の前に立つ。
――うん!今日もばっちりですわ!
鏡に映る私のプロポーションをニヤリとした表情で眺める。
その後PFCバランスの整った食事を頂き、馬車に乗って学院に向かった。
◇
馬車が学院に到着すると、クロエの後ろ姿が見えた。そのクロエに声を掛けようと近づくも、クロエはマルケス様の隣で談笑している様子が見えた。
お互いが楽しそうに会話をしている。
――む、なかなかいい雰囲気のようですわ。これは話しかけたらダメなタイミングですわね、、、!
私は声を掛けるのをやめ、ひっそりとその様子を伺っていた。
突然、クロエが後ろを振り向き、私の存在に気が付いたようで、「あ、セシリア様~!おはようございます!」
と私に声を掛ける。マルケス様も私に気が付いたのか、右手を上にあげて、「セシリア、おはよう」とニコリとした表情で挨拶をしてくる。
――折角良い雰囲気でしたのに、さっそくバレてしまいましたわ、、、!
「あら、おはようございますですわ!」
流石にもうこっそりと行動する意味もないため、挨拶をしてくれた二人に近寄る。
「では、私は生徒会に用事があるから、、、」
とマルケス様が話したのち、生徒会のある建物へ向かっていった。
「クロエ、マルケス様と良い雰囲気でしたわよ?」
私がクロエの方を向き、ニヤリとした表情でそのように言うと、「いえ、そんなんじゃありませんよ!?」とクロエは少し慌てた表情で答える。
――隠さなくても構いませんのに、、、
私がそう思っていると、クロエは「実は、マルケス様とはセシリア様の話で盛り上がってしまい、、、」と言った。
――ん?なんで私の話が出てくるんですの?
私は頭に?マークが浮かぶ。
どうやら、クロエとマルケス様は先日の戦いで私が凛とした姿で戦っていた際の凛々しさや美しさについて話していたようだ。
しかし、どうやら中々に美化されているらしい。まるでなにかの物語の主人公のように語られていた私の姿を想像し、私は赤面する。
「やめてくださいまし、、、」
「でもまあ、事実ですから・・・!」
ニコッとした表情で言うクロエ。
――むぅ、、、参ってしまいましたわ、、、まさか私の話をしているなんて、想像もつきませんでしたわ
そういった話をしていると、教室に入ったので、クロエと別れ自分の席に座り、午前中の授業の準備をする。
◇
「では、今日の座学はここまで。後は本日習った魔法を実践で使えるように訓練しましょう」
教師が私たちにそのように言い、訓練所に集合して魔法の訓練を行うことになった。
今日習ったのは、火の魔法についてだ。クロエのように既に火の魔法を自在に操れるなら別だが、クロエは特別であり、大半の者は火の魔法を上手く操ることができていない。
――火の魔法ですか、、、やりようによっては私も似たことをできるので問題ないでしょう。
正直、火の魔法の実践であることに私は安心する。水の魔法のように、無から水を生み出すことなど到底できないが、火を起こすのは多少のコツが必要だが、不可能ではない。
「では、クロエさん、お手本をお願いします」
訓練場に着いた私たちは、まずはクロエの魔法をお手本にしてそこから自身の鍛錬に取り組むことになった。
クロエは杖を構え、「―――――っ!」と魔法の詠唱を行い、こぶし大ほどの火の魔法を杖の先端から生じさせ、杖を振るとともにその魔法が的に向かって一直線に飛んでいく。以前魔法力の測定を行った際と同程度の威力を持っているようで、的に当たった瞬間、的の一部が溶けて消失してしまった。
「皆さん、クロエさんのようにとは中々いかないと思いますが、このイメージで魔法を放つのですよ?」
と教師が私たちに向かって話す。
さあ、次は私たちの番だ。一列に並べられた的に向け、各々が訓練を始めた。
私は火を扱う際に使用する特別なグローブを両手にはめ、手に魔力を込める。
筋肉にモノをいわせ、両手を思いっきり何度かこすり合わせるとその摩擦から右手に炎が生じる。その炎を魔力に纏わせ、鎮火しないうちにボールを投げる要領で魔力を的に向かって思いっきり投げつける。
すると、ぱっと見は火の魔法、のような何かが的に向かって一直線に飛んでいき、的に当たった瞬間少しの爆発とともに、的が壊れてしまった。
「セシリアさん、、、あなた、また無詠唱で、、、」
と教師は驚いた表情を浮かべている。
周囲も、「おお~っ!」と感心した様子で私の事を見ている。
無詠唱もなにも、結局魔力をぶん投げているだけなので、そもそもこれは魔法ではない。
そもそも杖や詠唱など、私には扱えない代物だ。魔法を使用することができないなら、せめて魔法を使ったかのように見せる技術を、私は入学前にセバスチャンと訓練をし、磨いていた。
その訓練が役立ってよかった。
「セシリア様!一体どうやって火の魔法を使ったのですか!?」
クロエは私に近づいてきて、そのように問いかける。
「ええ、と、それはですわね、、、」私は手を擦り合わせて行う方法をクロエに教える。
「え?本当に魔法ではないのですね、、、」
クロエは驚いた表情を浮かべていたので、「では試しにこのグローブを使ってみますか?」という私の提案に首を縦にブンブンと動かしていた。
クロエは早速両手にグローブをはめ、私が説明したように何度も両手を擦り合わせているが、火は生じなかった。
「フフッ、クロエは筋肉が足りませんわね」
「そ、そういう問題なのですか!?何度やってもうまく火が付きません、、、。そもそも、魔力を両手に纏わすのが上手くいかないんです」
魔力は基本的には杖に込めるものであり、私の家庭教師曰く魔力を身体に纏わすには絶え間ない訓練とセンスが無ければ無理なのだそうだ。流石のクロエにも一朝一夕では難しかったみたいだ。
「やっぱり、セシリア様は凄いですね、、、!」
「い、いえ、それほどでもありませんわ、、、!魔法を自分の力としてしっかり使いこなしているクロエの方が何倍も凄いですわ!」
私はクロエから褒められ、少し嬉しい気分になる。
クロエの方も、私からそのような事を言われ、少し照れているようだ。
それからクロエにグローブを返してもらった後、何度か練習を行う。次は的を壊さないように、緩めに投げてみたりしながら練習をしていると、午後の授業を終えるチャイムが流れてきた。
「はい、皆さん!ここまでで結構です」
「魔法を上手く使えなかった方は訓練場を納得できるまで使ってもらっても構いませんよ?」
と教師は言う。クロエは勿論のこと、私も魔法もどきが問題なく使えたため、「では、生徒会に参りましょうか」とクロエを誘い訓練場を後にした。