第5話 生徒会室に筋トレルームを増設することを要求したいですわ!
生徒会室に入ると、他の生徒会役員の方が何人かすでに書類仕事をしていた。
男女構成比としては、ハリアー様、ヴァンフレッド様を含めた男性は4人。一方の女生徒は私とクロエを入れて4人であった。
これから私たちが入ることになると、8名程度の規模となる。ただ、恐らくまだ新入生のスカウトをしているだろうから、これから生徒会に入る生徒の数も増えるのだろう。
「みんな、聞いてくれ」ハリアー様がそういうと、作業を止め、こちらに視線が集まってきている。
「紹介しよう。生徒会にスカウトしている有望な生徒2名だ」
「セシリアですわ。よろしくお願いいたしますわ」
「えっと、クロエです!よろしくお願いいたします」
私がスカートの端を掴み丁寧に挨拶をすると、クロエも私に倣い、挨拶をする。
「もう知っているだろうが、私の名前はハリアー・ガーランド。生徒会長を務めている。そして副会長はヴァンフレッド・オルガナス。みんな、後は各々自己紹介をしてくれ」
そこから他の方々が私たちに次々と挨拶をしてくれた。
まず、男性陣。
身長が180cmほどあり、切れ長の目を持ち、いかにも騎士風の見た目をしている「マルケス・ルクセンブルク」様。
そして、身長160cmほどの小動物のような可愛らしい見た目をした「ユーリ・オクセンフルト」様。
次に女性陣だ。
女性にしては短めの、青味がかった髪を持つ、クールな印象の「フィオナ・オースレイ」様
最後に、肩甲骨あたりまで伸ばした栗色の髪を持ち、おっとりした印象を受ける「マリア・テレソワーズ」様。
あと一人男性陣にいるらしいのだが、「奴はすぐにさぼるからな」とハリアー様は少し困った顔をしている。
「もう一人の説明は奴が生徒会に顔を出した時に紹介するとしよう」
――もう一名、、、ハリアー様が生徒会長を務めている状況でさぼるとは、なかなか図太い神経をお持ちのようですわね
私がそう考えていると、マリア様が私たちに対し、「そうだ!折角来られたのですから、お茶でもいかがですか?」と笑顔で皆さんに提案した。
ハリアー様が、「ああ、そうしよう。時には休息も必要だ」と言って、それを聞いたフィオナ様とマリア様はお茶の準備を始める。
私とクロエが手伝おうとすると、「今回はあなたたちが主役ですから、、、」と座ってお茶を待っておくように言われてしまった。
お言葉に甘えて、私たちは大人しくソファーに座り、生徒会の皆様と談笑することにした。
「そういえば」とマルケス様が口を開く。
「君たちは、頭がいいだけでなく、魔法も中々の腕を持っていると聞いているのだが、本当か?」
私はあまり目立つのも嫌だったので、「ええ、特にクロエの魔法は強力且つ美しい魔法でしたわ」
とクロエをひっそりと持ち上げる。
「いえいえ、私よりもセシリア様の魔法の方がすごかったです!威力が高いのは勿論ですが、無詠唱で魔法を使っていましたから、、、」
「何!?無詠唱だと??」
マルケス様を含め、その場にいた全員が驚いた表情を浮かべている。
「いえ、、、私のは正確には魔法ではなく、魔力を飛ばしているだけですので、、、」
「魔力をとばすだと?そんなことはできやしないだろう!?」
、、、実際に私はできているのだが、、、。「ぜひ見せてくれないか?いや、俺と模擬戦をして欲しい!」マルケス様は私にそう尋ねる。
そのタイミングで「皆様、お茶を入れましたわよ?」とフィオナ様とマリア様がお茶と洋菓子を持ってきてくれた。
助かった。正直模擬戦はあまりしたくなかった。手加減が必要になるためだ。
そこから私たちはお茶を飲みながら、普段生徒会の面々が行っている業務の内容を聞いた。
「なに、そんな難しい業務ではない。きっちりと仕事をこなしていくスキルが重要なのだ」
「それに、教師たちからの覚えも良くなるしな」
「まあ、正直僕もそこが魅力で生徒会に入ったんだよね~」
ハリアー様とヴァンフレッド様がそういわれた後、にへら、と笑みを浮かびながらユーリ様が私たちに言う。
良かった。このまま模擬戦の話はうやむやになりそうだ。私がそう安堵していると、
フィオナ様が「そういえば、二人は魔法を扱うのが得意だと聞いたのだが、本当か?」
と先ほどの会話をぶり返すような事を発言した。先ほどフィオナ様はマリア様とお茶の準備をしていたから、先ほどの会話を聞いていなかったにしても、あ、これはまずい流れになると私は直感した。
「そうだ!そういえば先ほど話した模擬戦の件、どうだ??」
とマルケス様は私に対し、思い出したように言う。
――はあ、やっぱりこの展開になるのですわね、、、
――私、まだ筋肉痛が残っているのですけれども、、、まあ、筋肉痛の時も多少は筋肉を動かした方がいいと聞きますわね
諦めた私はマルケス様の模擬戦のお願いに了承することにした。
◇
~模擬戦会場~
私とマルケス様は模擬戦会場に移動し、今は向かい合っている。模擬戦会場は半径30mほどある円形の形状で、観客席も設けられている立派な会場だった。
私とマルケス様以外の生徒会メンバー、それとクロエは観客席側に座ってこちらの様子を眺めている。
「さあ、セシリア。準備は良いか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
マルケス様がそういうと、10mほど離れた場所から詠唱を唱え出した。正直、10mほどの位置であるならば詠唱を唱え終わる前に肉弾戦に持ち込むことが可能なのだが、流石に魔法学院でそれはないだろうと自重した。
詠唱が終わった後、こちらにこぶしほどの大きさの火の玉が飛んでくる。魔力を手に込めていた私は、少し薙ぎ払う動作をしただけでその火の玉は私の斜め後ろに飛んでいった。
「なるほど、無詠唱と言うのは本当らしいな」
マルケス様はニヤリと笑う。私としては、ただ右手に魔力を込めてブンッと振っただけなのだが、そのように捉えられたらしい。
「まだまだ行くぞ!」マルケス様はその火の玉を複数個とばしてくる。
私は右手に魔力を込め、地面にこぶしを思いっきり叩きつけると、地面が隆起し、私の前方に地面の壁を作りすべての魔法を防ぐ。
マルケス様はとても満足そうな顔を浮かべている。
「そろそろ、そちら側から来てみたらどうだ?」
マルケス様がそういうので、私は一気に距離を詰め、2mほど離れた場所から廻し蹴りの動作を行う。いきなり距離を詰めた私にマルケス様は驚いていたが、至近距離からとばされた私の魔力を辛うじて避ける。
その際に生じた隙を私が見逃すわけがない。体勢を崩したマルケス様に横蹴りをお見舞いする。
魔力を纏ったその蹴りは、直接マルケス様に当たらないようにしたが、魔力の衝撃波がマルケス様に直撃し、マルケス様は勢いよく壁に激突した。
――もしかして、またやりすぎてしまったかしら?
辛うじて意識があるようだ、「ぐ、、ぐぅ、、、っ」とマルケス様は声を漏らしながら、苦悶の表情を浮かべている。
「そこまで!!」
観客席に居たハリアー様が模擬戦終了の合図を出す。
観客席を見てみると、私が2年生のマルケス様を倒した事実に驚きを隠せない様子であった。
私はマルケス様に近づき、「よい戦いでした」と手を差し伸べる。
「この私がここまでコテンパンにされるとは、思わなかったよ」
苦笑気味のマルケス様は私の手を取り、立ち上がりながらそう言う。
「ええ、これも筋肉のおかげです」
「え、、、?筋肉、、、??」
一瞬マルケス様は困惑した表情を浮かべたので、私は魔法ではなく、魔力を筋肉でとばしていただけだと説明をする。
「そうか、、、私は筋肉に負けたのか、、、」
とマルケス様は呟いた後、あははっとお腹を抱えて笑い出した。
まさかの私の返答に、驚いたようだ。
そういった話をしていると、生徒会の面々とクロエが闘技場に降りてくる。
「セシリア、、、まさかこんなに強いとは思っていなかったぞ」
ハリアー様が私に驚いた表情でそのように言われていたので、私は「たまたまですわ」と当たり障りのない返事をすると、皆さんが口々に、「すごい戦いでした」と称賛を受けてしまった。
私は少し気恥ずかしい気分になったが、それと同時に私の筋肉を褒めてくれているように聞こえ、内心ほくそ笑んだ。
――やっぱり、筋肉は正義!ですわ!!
私は筋肉の可能性を再確認し、今日はもう遅いですから、、、と、その場で帰る流れになった。
◇
私は帰りの馬車の中で、生徒会について考えていた。
――先生方からの覚えも良くなりますし、なにより皆さん私たちに良くして下さいましたし、、、入るのもありかもしれませんわ。というか、そもそも拒否権などあるのでしょうか?
私は生徒会に入ることを帰ってくる時点でほぼ決めていた。
筋トレの時間が削られる分は朝にトレーニングする比重を増やせばなんとかなるだろう。
それに、生徒会室かその周辺の部屋にこっそりと筋トレルームを作るのも良いかもしれない。
――今日の模擬戦で生徒会の方々、、、いや、少なくともマルケス様には、魔法を鍛えるよりも筋肉を鍛える方が結果強くなれるということを学んでいただきましたし、、、
私はそんな野望を抱きながら、馬車に揺られていた。