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第2話 筋肉は日々の積み重ね、、、ですわ!

 王立魔法学院についた私は、馬車から降り、ツカツカと学院の門まで向かう。

 

 ――はあ、もう既にパンプアップが収まってきていますわ、、、


 私は先ほどまでパンプアップし肥大化していた胸筋が少しずつ収まっているのを感じ、ため息をついた。

 もちろん、パンプアップ後に待ち受ける超回復を待ち望んでいるのも確かなのだが、一時的に肥大化した筋肉が縮むのを実感すると、少し物悲しい気分になってくる。

 しかし、三か月後の私はきっと今日パンプアップして張っているように見えた筋肉くらい、筋肥大をしているはずだ!きっとそうに違いない、、、!


 そういった実に高尚なことを考えながら本日入学式が行われる講堂まで歩いていると、植えられた木々の下に人だかりができているのを見た。

 その木々を囲うように、ざわざわしている。


 ――何があったのかしら?


 私はそう思いながらその人ごみに近づくと、どうやら一人の女生徒が木に登り降りれなくなった猫を助けるために、木に登っているみたいなのだ。


 「まあ、なんとはしたない」「淑女らしからぬ行動ですわ」


 周りからそういった声が聞こえてくる。


 ――たしかに、木の上を登るというのは筋トレをしている時を除き、はしたない行為ですわね。


 わたしだったら誰にも見つからないように腕力にものを言わせて木を揺らし、落ちてきた猫をキャッチするのに、、、


 そう考えはしたが、その女生徒の危険を顧みずに動物を救っている行動自体は素晴らしく思えた。 


 女生徒があと少しで木の上の猫を助けることができる、、、となった瞬間、猫はその女生徒に飛びつき、足場にしてそのまま木から降りてしまった。

 女生徒は一瞬猫が乗った反動でただでさえ不安定だった体勢を崩し、落ちてしまいそうになる。


 ――まずいですわ!


 そう思った私はすぐさま女生徒が落ちる場所に走り、その女生徒をとっさにキャッチした。

 、、、!キャッチした瞬間、筋肉にいい感じの負荷が掛かっている。私は図らずとも筋トレができているこの状況に少し満足感を覚える。やはり筋トレは、日々の積み重ねが大事だ。これからも日常に筋トレを取り入れていかなければ、、、私はそう考えていた。


 「つっ、、、」女生徒は目を瞑り、私にキャッチされた。私がその女生徒の顔を見ていると、その女生徒も目を開け、パチリと驚いた表情を浮かべている。目が合った瞬間、その女生徒は「す、、、すみません!!」と私に言う。


 「いいえ、私は大丈夫ですわ。それより、あなたは?ケガなどはありませんこと?」


 と聞くと、


 「はい!大丈夫です!それよりも、お姫様抱っこ、、、」


 と答えた。私はお姫様抱っこという言葉を初めて聞いた。


 ――確かに、世の殿方からこの姿勢で運ばれたら、嬉しいでしょうね。まあ、私はお姫様抱っこをされる側ではなく、している側なのですけれど。


 と思った私は、とりあえずその女生徒をおろした。


 「あ、あの、ありがとうございました!」

 「いえ、いいのですよ。でも、あなたの行動は淑女らしくありませんでした。この学院に通うからには、もう少し淑女として振舞ったほうがよろしいですわよ?」


 私がそういうと、シュンッとしてしまったみたいだ。

 

 「まあ、ともあれ猫もあなたも無事でしたし、今日はこのあたりにしておきましょう。ところであなたのお名前は?私はセシリアですわ」


 「セシリア、、、様、ですか」途端に女生徒はびっくりした表情で私の名前を繰り返す。


 「私の名前は、クロエです。セシリア様、よろしくお願いいたします」


 クロエは私にそう挨拶をした。確か、クロエというとこの学院に首席入学することになった平民出身の女生徒だったと記憶している。そうか、この子がそうだったんだ。


 「ええ、よろしくお願いいたしますわ」


 私はそう言いながらクロエの頭についていた木の葉などを払う。


 ――このクロエって子、なんかとても可愛らしいですわ!


 クロエはこの国では珍しい黒髪の少女で、小動物のような見た目であり、とても可愛らしい。そして、びくびくしている仕草がいちいち可愛いのだ。


 可愛いものが大好きな私は、クロエを一目見て気に入ってしまった。

 この子と同じクラスになれたらいいな、、、そう思うほどに。

 それにしても、なぜクロエは私の前でこんなにびくびくしているのだろうか?私はキャッチ以外特に何もしていないのに。


 私がそう思っていると、入学式がそろそろ始まることを示す、鐘の音が聞こえてきた。


 「それでは、私はこれで。じゃあ、またね?クロエさん?」

 「は、はい!助けてくれて本当にありがとうございました!」


 私とクロエはそう言葉を交わし、それぞれ入学会場へ向かった。


 それにしても、先ほどのクロエは少し軽かった。おそらく一般的な同年代の女性に比べても軽い方であろう。


 ――クロエさん、もう少しご飯を食べて筋肉をつけたほうがいいのではないかしら?


 私はそう思いながら、講堂の扉をくぐり、用意された椅子に座った。



 椅子に座ってしばらくすると、入学式が始まる鐘が鳴り響く。


 入学式は滞りなく始まり、学園長をはじめとした様々な方が私たちに入学の祝いの言葉を述べた後、メスティン王国の第二王子であり、生徒会長であるハリアー・ガーランド様が挨拶をする。

 私の周りにいる女生徒たちは、みなうっとりとした目でハリアー様の述べる言葉を聞いている。

 一方私は今日家に帰って行う筋トレのメニューを考えながら話を聞いていたので、おかげ様で非常に有益な時間を過ごすことができた。ありがとう、ハリアー様。


 さあ、次は首席であるクロエの演説である。

 私が先ほど助けたクロエは緊張をしているようで、先ほど私を見ていた時みたいにびくびくしながら入学に当たっての決意を述べている。


 ――クロエさん、頑張れ!

 

 私は心の中でそう呟きながら、クロエの挨拶を見つめる。、、、どうやら、クロエの挨拶は終わったようだ。クロエは少しほっとした表情を浮かべ、壇上から降りてくる。


 少し緊張しながらも、クロエは無事挨拶を述べていた。


 ――ほんと、クロエさんって小動物みたいで可愛いですわね


 私はそう思いながら、壇上から降りるクロエを眺めていた。



 ◇


 ――ふう、やっと終わりましたわ。


 私は午前中に行われた入学式を思い出し、そう考える。


 今日はたしか午後からクラスでオリエンテーションがあり、それが終わったら帰れるらしい。早く筋トレがしたい、、、そう思って歩きながら食堂に向かった私は、クロエが女生徒3人に囲まれて何かを言われているのを見た。クロエが怯えている様子を見るからに、あまり良くない事態のようだ。


 「ちょっと、何してるんですの?」


 私はそう声を掛けながらクロエたちに近づく。おそらく平民であるのにも関わらず、首席の挨拶をしたことを理由にとやかく言っているのだろう。


 「あ、セシリア様、、、」


 クロエは今にも泣きそうな顔をしている。

 私はクロエと女生徒の間に腕を組み立ちはだかり、女生徒達に詰め寄る。


 「皆様はクロエさんに何か用事があるんですの?あまり良くない用事に見えますが、、、」


 私はギロッとその女子生徒たちの目を見る。

 女生徒たちは、侯爵家である私の顔を見てなのか、私の鬼気迫る表情を見てなのか、それとも私の筋肉を直感的に感じているのか、「い、いえ、なんでもございません」と足早に立ち去る。


 「クロエさん、大丈夫ですか?」


 女生徒たちが立ち去った後、私はクロエに尋ねる。


 「は、はい、、、セシリア様、ありがとうございます」


 「いいのよ。それよりも!人前で泣いたら駄目よ?もちろん淑女として、ね?」


 私はクロエの目から流れる涙をハンカチで吹いてあげながらそう答える。


 「ありがとうございます、、、っ」


 「もう、だから泣いたら駄目だと、、、」と言いながら、私は涙を拭いてあげていたら、「そこのお前、何をしている!?」と先ほど聞いたことのあるような声を聴いた。


 振り返ってみると、先ほど生徒会長として挨拶をしていた、ハリアー様が近づいてきている。

 私に近づくと、ハリアー様はハンカチで涙をぬぐっている私の腕をつかみ、引き剥がそうとする、、、が、普段から筋トレを嗜んでいる私の腕はびくともしない。


 しばらくその状態が続いた後、ハリアー様は手を放し、一度呼吸を整えた後に、「お前が泣かせたのか?大方首席である彼女をやっかんだんだろう?」と何事もなかったかのように言った。


 「いいえ、違います!セシリア様は私を助けてくれたんです!3人に囲まれて、泣きそうだった私を、、、」


 「む、、、そうなのか、、、。それはすまない、私の早とちりであったか」


 そう言いながら第二王子であるハリアー様は頭を下げた。王子のまさかの行動に、「おやめください!王族が我々に頭を下げるなど、、、!」と私が言うと、ハリアー様は少し考えたあと、「、、、確かにそうだな。先ほどの行動は忘れてくれ」と私たちに言った。


 「それにしてもセシリア、、、そなた、なかなかに力が強いな」

 

 「ええ、筋トレしているので、普通の殿方よりも力がありますわ」


 「き、筋トレをしているのか、、、そうか、、、」


 ――何か珍妙な生物を見る目で見られていますが、このあたりでお暇しましょう。


 そう考えた私は、「では、殿下。ごきげんよう」とスカートの端を持って挨拶をし、続けて同じような挨拶をしたクロエとともに食堂に向かった。





 

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