16話 クロエとお出かけですわ!
~クロエ視点~
生徒会から寮の自室に戻っている最中に、私は先ほどのことも踏まえて考えを巡らせていた。
――まずいです、、、バラン様に加えて、ハリアー様までセシリア様に興味を持つようになるとは、、、
私は生徒会メンバー(男性陣)と急速に距離を縮めているセシリア様に少し危機感を抱いていた。
それは、ゲームの中なら本来は私の攻略対象である生徒会メンバー(男性陣)をセシリア様に取られているとか、そういった話ではない。むしろ私が考えているのは逆だ。
セシリア様は、恐らく今まで恋愛したことが無く、そういった話題に関して疎い。はっきり言って、5歳児の子ども達の方がそういった事柄に関しておそらくセシリア様よりは上であろう。
私の敬愛するセシリア様を魔の手から守るため、私が何とかしないといけない。
特に最近感じるのは、生徒会メンバー(男性陣)がセシリア様を虎視眈々と狙っている、ということだ。
セシリア様はおそらく気が付いていないが、セシリア様と直接戦ったマルケス様も興味のあるような視線をセシリア様に送っている。
これは、セシリア様の動向を逐一チェックしている私がそう思っているのだから、恐らく間違いないだろう。
また、ハリアー様もセシリア様に興味は持っているようだが、それが恋愛感情による興味であるのか否かはおそらく本人も分かっていない。
――恋愛感情を持つ前に、こちらでなんとかしないと、、、
これ以上変な虫がつかないように、セシリア様に近づく輩はしっかりとブロックをしておかなければいけない。
どうすれば良いか、、、そう考えていた私は、あることを考えついた。
――そうだ、これをすればきっと他の方を牽制できる!
私はそう考え、そのことを行動に移すために、作戦を練り始めた。
◇
~休日 城下街広場にて~
今日、私は庶民風の服装に着替え、城下街の広場に歩いて向かっていた。マリーから馬車を手配するか聞かれたが、庶民の恰好をして馬車に乗るというのもなんともおかしな話なので、今日は邸宅から歩いて広場に向かう。
セバスチャンに「危険なので途中まで馬車を使われたほうが良いのでは?」と聞かれたが、セバスチャンのおかげで危機察知能力を鍛えることができている私に死角はない。セバスチャンにそのことも踏まえて説明したところ、渋々ながら納得してくれた。
まあ、恐らくセバスチャンの事なので、陰に誰かを忍ばせておいてくれているはずだ。
――それにしても、クロエから休日誘われるなんて初めてですわね!
そもそも、休日は鍛錬と筋トレに明け暮れていた私は他の貴族の令嬢とも休日を共に過ごしたという経験はないのであるが、まあそのあたりは良いだろう。
、、、まあ、今日も朝早くに目覚めてちゃっかりと筋トレをしてきているのだが、、、。
――筋トレは1日にして成らず!そして衰えるときは一瞬なので仕方ないですわ!
そうこう考えているうちに、広場に到着した。
「あ、セシル様~!ここです!」
「クロエは朝から元気がいいですわね!」
私は少し微笑みながらクロエに手を振ると、クロエが走って私のところまで近寄ってきた。
今日は私はセシリアではなく、セシルという偽名を使うことになっている。侯爵令嬢である私が城下で本名を呼ばれたら気づく者がいるかもしれない、というクロエの配慮からだ。
「もう、そんなに走ってこなくても私は逃げませんわよ?」
「いえ、休日に会えたのが嬉しくてつい走ってしまいました」
クロエのその発言に、私も嬉しい気持ちになる。
「で、今日はこれからどうするの?」
「はい、少し買い物をしていこうと思っています!」
クロエはそう言うと、「ではセシル様、行きましょう!」と私の腕に腕を絡ませ、行こうとしている方向を指さしながら歩き始めた。
――なんか、いつもに増してクロエが元気ですわね・・・!
おそらく、クロエ自身が城下街というホームグラウンドにいるというのが関係しているのだろう。私はそう考えながら、クロエと共に買い物へ向かった。
「さあ!まずはここです!」
クロエに案内されたお店は、アクセサリーなどの小物をメインで扱っている店舗だった。貴族が身に着けるような派手な装飾が施されたものや宝石類の大きいアクセサリーは無いが、どれも凝った意匠のデザインがされており、ワンポイントで小さめの宝石がデザインされているものが多くある。
「貴族の方が身につけられているようなアクセサリーはありませんが、私はここのデザインが好きなんです」
「ええ、確かにいいデザインですわ、、、!」
「それに、1つ1つがお求めやすい値段なので、平民の私でも手の届くものばかりなんです」
クロエはそう言うと、店頭に並べられた商品からイヤリングを1つ身繕い、私の耳に当てる。
「、、、うん!このイヤリングなら学院の制服にも合いそうですね」
私は鏡で見て、自分の学生服姿を想像する。確かに、過度な装飾の無いこのデザインなら合いそうだ。
「それにしても、このイヤリングの宝石の色、クロエの瞳と同じグリーンな色味ですわね」
「そ、その色がセシル様にお似合いになるかな~と思ったのと、、、」
クロエは少しもじもじしながらこう続ける。
「私、初めて学院で仲良くして下さったのがセシル様ですし、それに、セシル様ともっとお近づきになりたいなと思って、この色を選んじゃいました」
「あ、あの、セシル様にプレゼントしてもよろしいですか?それで、もしよろしければ学院に着けて行ってもらえると嬉しいです、、、」
クロエは少しほほを赤らめながら私に言う。
――クロエはそんなに私と仲良くしたかったのですね!でしたら、、、!
「じゃあ、私もクロエとのお近づきの印に、このイヤリングを差し上げますわ」
私はそう言うと、私の瞳の色と同じ、深いブルーの色味の宝石が入ったイヤリングをクロエに渡す。
クロエは嬉しさと驚きが同時に来た表情を浮かべ、「いいのですか!?」と私に聞く。
「ええ、私もクロエとはあの学院で一番仲良くさせて貰ってますしね」
――きっと、お互いの目の色のイヤリングを送るのが仲が良い友達の行動なのですわ。、、、今までさして仲いい友達が居なかったので分かりませんけれど、、、
結局、私たちはそのイヤリングを購入し、店を出る前にイヤリングを装着して退店した。
その後、クロエと私は他の店を巡って買い物をしたり、城下町で話題になっているスイーツを食べたりしながら1日を過ごした。
◇
~帰宅後 クロエ視点~
――まさか、セシリア様からも頂けるとは思っていませんでした、、、!
私は、今日勝ち得た成果をベットの上でニヤリとしながら眺めている。
ほんとはセシリア様に私の目の色をした宝石が入ったイヤリングを渡し、それを学院内ではめて貰うことが目的だったのだが、まさか私用のイヤリングまで貰えるとは思っていなかった。それも、セシリア様の瞳の色をしたイヤリングを。
おそらく、セシリア様の反応を見るからにこのイヤリングの意味を、仲の良い友達に送りあうものだと考えているだろう。だが、他の男性陣に対しては私が考えている意図が伝わると思う。
私は学院での他の方達の反応を想像して、学院に行くのが楽しみになった。