第15話 あれ、、、?筋トレ以外でドキドキしてますわ?
~ハリアー視点~
今日の授業が終わり、私は図書館へ向かう。普段ならそのまま生徒会室に直行するのであるが、今日は習った呪文の構成について気になることがあったため、図書館で調べ物をすることにした。
、、、一つ言っておくと、うちの学生に勉強熱心なものはほとんどいない。クロエのような平民から学院に入学した者や卒業後に魔法省に良い成績で入省しようと考えている者達に関しては別であるが、貴族の子弟である他の学生は基本的に最低限のことができたら卒業することができるため、テストの直前を除き、図書館が利用されていることはほとんどない。
今日もほとんど図書館に訪れている者はいない。
――たしか、私が求めていた本はあのあたりにあったはず、、、
私は目当ての本が眠っている本棚に向かう。すると、その目当ての本棚でセシリアが本を探しているのを発見した。
「珍しいな、こんなところで」
私の掛け声に、セシリアは少し驚いた表情を浮かべるも、すぐにいつもの表情に戻って、「あら、ハリアー様。ごきげんようですわ」とニコッと答えた。
「何か本を探しているのか?」
「ええ、少し詠唱に関する本を読みたくて、、、」
以前セシリアが戦っているのを見て、そして今までのセシリアの言動を考えると、セシリアは魔法を発動することができない。ではなぜそのような本を探しているのか疑問に思った私は、セシリアにこんな質問をする。
「しかし、セシリア。そなたは魔法を使えないのだろう?」
「ええ、たしかに私は魔法を使えませんわ。ただ、だからと言って使えないままでいいと諦めてしまって良いものでもありませんわ」
「なんてたって、私は魔法学院の生徒なのですから」
セシリアは少し困ったように答える。たしかに、私の質問はそんなことをしても意味がない、と言ってしまっているような質問をしてしまったのかもしれない。
「ああ、そうだな。しかし、勉強熱心だな」
セシリアは既に2冊の本を持ち、更に本を探している状況だった。
「ええ、試せることは片っ端から試していっているのですわ」
「でも、効果のあるものは見つけられていないですけれども、、、」
セシリアは少し落ち込んだ表情をしている。
その表情に私は少し驚きを覚える。セシリアは魔法で戦えなくとも、鍛え上げた独自の戦い方でマルケスを圧倒したばかりか、華麗に盗賊団と戦い、基本どのような者にも興味を持たないバランが興味を示している人物だ。
まさか、魔法が使えないということがコンプレックスになっているとは知らなかった。
「少し答えづらいことを聞いてしまったようだな。すまない」
「い、いえ、いいんですの。ただ、やっぱり他の方と同じように魔法を使えないのは少し嫌ですわ、、、」
「そうか、、、」
私は考える。そもそもなぜセシリアは魔法を使えないのだろうか。魔力自体は通常の者よりもはるかに高いモノを持っているという報告は上がっている。
「セシリア。もしよかったからこれから訓練場に行かないか?」
「えっと、それは生徒会長自身が訓練をしてくれるということですの?」
「確かに嬉しいのですが、よろしいのですか?」
「ああ、私は構わない。生徒会で私がやるべきことは昨日のうちに終わらせておいたから、今日生徒会に顔を出すのは遅くなっても構わない」
「それはぜひよろしくお願いいたしますわ!」
セシリアは笑顔で私にそう答える。
私はここまで勉強熱心で、膨大な魔力を持つセシリアが魔法を使えない理由が突如として気になってきたため、セシリアに訓練を誘ってみたところ、快い返答が帰ってきた。
私の興味の関心は、本日疑問に思ったことを図書館で調べることよりも、セシリアの方に向いていた。
「では、訓練場に向かうとしよう」
私はセシリアと一緒に図書館を出て、訓練場へと向かう。
◇
~訓練場 セシリア視点~
まさか図書館で調べ物をしようとしていた時に、ハリアー様から訓練の誘いを受けることになるとは思わなかった。
私は正直驚きを隠せなかったが、私が魔法を使えない理由を他の方にも見て貰って、意見を聞きたい、そういう気持ちが強かったため、訓練の誘いを快諾した。
――あ、そういえば杖がありませんわ
今日は訓練をする予定でなかったため、杖を持ってくるのを忘れてしまった。もしかしたらハリアー様に呆れられるかもしれないと思いつつ、「ハリアー様、申し訳ありませんが杖を忘れてしまいました、、、」と正直に伝えるも、ハリアー様は特に気にした様子はない。
「ああ、突然訓練をすることになったからな。私の杖で良ければ使ってくれ」
「ありがとうございますわ!、、、っと、申し訳ありませんわ」
「いや、こちらこそすまない」
ハリアー様から杖を受け取るときに杖を持っていたハリアー様に手が当たってしまい、私は咄嗟に謝罪をする。
ドキドキッ、、、
鼓動が少し早くなっているのを感じる。おそらく、ハリアー様にこれから私が魔法を使用するのを見てもらうために、緊張しているのだろう。きっとそうに違いない。
それにしても、流石は王家が使用している杖である。重厚感のある見た目ながらも、実際に持ってみると思いのほか軽く、少し振ってみると明らかに私の杖よりも振りやすい印象を受けた。
「では、実際に使ってみてくれないか?」
「は、はい!分かりましたわ!」
私は杖を構え、火の魔法を頭の中にイメージし、「――――――っ!!」と呪文を唱える。
しかしながら、いつも通り杖の先端からは何も生じない。
「、、、やっぱり、ダメですわ」
「う~む、、、やり方は間違っていない。というよりも、他の者よりも所作や詠唱の発音が綺麗なほどだ」
「家庭教師にもそう言われてはいるのですが、なぜか発動しないのですの、、、」
「、、、試してみたいことはある。いつも通り構えてくれないか」
ハリアー様にそう言われ、私は同じように杖を構える。「準備できまし、、、」と言いかけたタイミングで、ハリアー様は私の横で杖を構えている私の右手に手を添え、「詠唱を始めてくれ」と言った。
――ちょっと、、、これは一体どういう状況ですの!?こんな姿をハリアー様の親衛隊に見られたら私、処されることが確定しますの、、、
私はドキドキしながら少し混乱した状況になったが、気持ちを持ち直し、水の魔法を詠唱し始める。
すると、私の魔力が杖の先端に集まるのを感じ、水の球体が私の目の前に現れる。
――あれ!?なんか魔法が発動してますわ!?
私はそのまま、杖を振ると的に向かって一直線に水の魔法が飛んでいった。
「ハリアー様!私魔法が使えましたわ!!」
「ああ、そうみたいだな」
「一体何をされたんですの?」
「少し私の魔力をセシリアの手に流してみた。以前読んだ文献に、セシリアと同じ症状の人物について書かれていてな。その者が唯一魔法を使用することができた例を今回試したのだ」
「そ、そんな本があったのですね。それにしても、ハリアー様、ありがとうございますですわ!」
私は初めて自分の詠唱で魔法を使用することができたことに関して、驚きと同時に喜びを感じる。
そこから私自身の力のみで魔法を使用することができるのか、試してみたが、やはり一人では魔法は発動しないようだ。
試しにハリアー様にもう一度同じように私の右手に手を添えて貰って試してみる。
やはり、この状況は少しドキドキする気持ちと、よく分からない感情が生まれるが、私は詠唱することに意識を向け、「――――――っ!」と詠唱をする。
そうすると、同じように魔法を使用することができた。
ハリアー様曰く、その原理は分かっていないらしいが、私は条件付きで魔法を使用することが可能なのだということが分かった。
「ハリアー様、ありがとうございますわ!」
「私、初めて魔法が使えました、、、!」
私は初めて魔法が使えたことに感動を覚えている。
「いや、私もあの本の内容が試せたので問題ない。それよりも、セシリアが魔法を使えてよかったよ」
いつもはあまり笑顔を見せないハリアー様が微笑んでいる。
――、、、む、なんですの?この気持ちの高ぶりは・・・?
私は少し気持ちが高ぶっているのを感じたが、恐らくまだ始めて魔法を使えたことに対する高ぶりが残っているのだろうと納得した。
「では、今日はこのあたりにして、生徒会室に向かうか」
「はい!そうですわね」
私とハリアー様は訓練場から出て、生徒会室に向かった。
◇
~生徒会室にて~
「あれ、珍しいですね。殿下とセシリアが一緒に生徒会室に来るなんて」
「ああ、ちょっと訓練場でセシリアの魔法を見ていたんだ」
ヴァンフレッド様の問いかけに、ハリアー様はそのように答える。
「皆様、私初めて魔法が使えたのですわよ!」
少し誇らしい気持ちで生徒会室にいる全員にそのように話す。
「おお、どうやって魔法を使えるようになったのだ?」
「ええ~と、それは、、、」
「ああ、私が杖を構えていたセシリアの手に触れて魔力を流したら使えたのだ」
マルケス様の問いかけに説明しようとしていた私の代わりにハリアー様がそう答えると、生徒会のメンバーが一斉にバッとこちらに視線を向けた。
特にクロエに関しては、恨めしそうな表情でハリアー様を見つめている。
「ぬ、何か問題があったか?」
「い、いえ、特に何もない気がしますわ、、、」
ハリアー様と私は目を配せ、互いに確認を取る。
その空気を変えるように、「さあ、お二人ともお疲れでしょうから。これからお茶を淹れますわ」とマリア様が私たちの分のお茶を淹れてくれることになった。
ハリアー様は自席に座り、私はソファーに座ってそのお茶を大人しく待つことにした。
◇
~帰宅後~
ガチャッ!ガチャッ!
今日の夕方は、全身の筋肉を満遍なく鍛えるのを目的に、バーベルを持ってスナッチを行った。腰を壊してしまわないように、念のためサポーターを巻いて行う。勢いよくバーベルを頭上高く振り上げ、それを下す、という動作を繰り返している。
今日はハリアー様と関わって妙な気持ちを抱き、少しもやもやしていたが、こうやって筋トレをしていると晴れやかな気持ちになり、もう筋肉のこと以外考えられなくなっていった。
――やっぱり!筋トレは偉大ですわ、、、!
多少の悩みやもやもやがあった時は筋トレをするに限る。
思えば、魔法に使えないでくよくよ悩んでいた時も、筋トレをしたら大抵そういった悩みはどうでも良くなったものだ。
――さあ、ラスト1回ですわ!
私は渾身の力を振り絞り、全身の力を上手く使って頭上高くバーベルを持ち上げることに成功した。
やりきった、、、!私は全身に溢れる満足感に浸っていると、今日ハリアー様に抱いたよく分からない気持ちについてのもやもや感も思い出すことなく、完全に忘れていた。