第13話 魔法実習、始まりますわ!~After~
「、、、フンっ!」
ガシャッという器具が立てる音が室内に響き渡る。私は今日はレッグプレスを中心に足のメニューをしている最中だ。
昨夜盗賊から攫われて1日が経った。本来なら今日も校外学習の予定だったが、昨夜のこともあり、今日は大事をみて自宅療養を取ることになった。
――おかげで、今まで筋トレできなかった分を取り戻せますわ、、、!
私は今朝も元気にいつも通り筋トレをしていた。
――それにしても、昨夜は怒涛の展開でしたわね
まさかこの私が攫われることになるとは思わなかった。意識を取り戻せばこちらのものだったが、意識を失っている最中に何かされてしまった場合には、さすがの私も対処できない。
――これは、少し別のアプローチで鍛錬をしなければならないかもしれません
私はそう考えながら、レッグプレスに取り組んでいった。
◇
~その日の午後~
「――ということですの」
私はセバスチャンに昨夜起こったことと私の課題点を話す。
「なるほど。たしかに、お嬢様は危険を察知する能力が足らないのかもしれません」
「まあ、正直ご令嬢には全く必要のない能力ではあるのですが、、、」
「でも、またこういったことがあっては困るでしょう?セバスチャン、なにか良い手立てはないのかしら?」
「では、今日は組手ではなく危険を察知する能力を磨く訓練をしましょうか」
セバスチャンはそういうと、私に黒い布を渡し、目隠しをするように言う。私は目隠しを着け、準備ができたことをセバスチャンに伝える。
「お嬢様、視覚に頼ってはいけません。私がこれから訓練用の弓矢を放ちますので、それを察知して避けてください」
「あ、念のため全身に魔力を纏わしてください。万が一お怪我をされたら困りますので、、、」
「分かりましたわ、、、!」
私は全身に均一に魔力を纏わす。魔力を纏わせたため、全身に力が漲っているのを感じる。
「では、いきます」
セバスチャンがそう言った瞬間、私の太ももに衝撃を感じた。訓練用の弓矢を使用していることに加え、魔力を纏っていることから全く痛くはないが、いきなり受けた衝撃に驚く。
「さあ、どんどん行きますよ!」
セバスチャンがそういうと、私に向けどんどん矢を放っていく。
――全く分かりませんわ、、、
私がそう思いながらほぼ棒立ちの様子でいたが、急に後ろから気配を感じ、咄嗟に避ける動作をする。私の肩に矢が掠ったような感じがする。
「お嬢様!一瞬掴みましたね!では、これから少し本気でいきます」
セバスチャンがそういうと、いろんな角度から続けざまに矢が飛んでくるようになった。
私はほとんどその矢の餌食になってしまったが、時折感じる視線を察知し、躱すことのできたタイミングも次第に増えてくる。
――なんか掴みそうですわ、、、!
まだ完全には避け切れてはいないが、なんとなく掴みつつあるのを感じた。矢が放たれる瞬間、少し気配がするのだ。その気配を感じた場所から放たれるので、そこを避けることができれば矢を避けることができる。
それからしばらくして、セバスチャンが「今日はここまでにしましょう」と私に伝えた。
目隠しを取ると、一瞬そのまぶしさに目を瞑ってしまうが、次第に目が慣れてきたため、セバスチャンの方を見る。
「セシリア様、最後の方になにか掴みかけていましたね?」
「ええ、なんか気配を感じるようになったのですわ」
「それが所謂殺気と呼ばれるものです。昨夜のように、周囲が確認しづらかったり、そもそも見えないといったことがございます。目に頼るのではなく、そういった気配を察知する力こそが必要になってくる能力なのですよ」
セバスチャンはニコリと笑いながら私にそう告げる。
「なんとなく分かりましたわ!セバスチャン、ありがとうですわ。またよろしくお願いしますわね?」
「ええ。一朝一夕ではなかなか身に付きませんので、これからしばらくはこういった訓練も入れていくことにしましょう」
これからしばらくは組手に加えてこういった訓練も追加されることになる。
――まあ、これは令嬢として必要な能力ですわ!、、、きっと
端から見るとおそらく一般的な令嬢の姿ではないだろうと薄々感じているが、私は自分にそう言い聞かせることにした。
◇
~クロエ視点~
――昨夜は大変でした、、、
今思い返すとそういえばそういったイベントもあったな、と言う気持ちだったが、昨日森に居た時点ではすっかりそのことも忘れており、昨夜攫われた時は本当に驚いた。
――今日は休みになったけど、結局やることはないのよね、、、
特にやることのなかった私は、いつもの習性で訓練場に足が運んでいた。
他の学院の生徒たちは実習に出かけているため、今日は私が訓練場を独占している。
それにしても、、、と私は自主的に魔法の訓練をしながら思い出す。
昨日のセシリアは誰の目で見ても美しく、かっこよかった。まさかロープを引きちぎるだけの力があるとは思っていなかったが、そこから盗賊退治している姿は、自身も捕まって怖い思いをしていたのにも関わらず、凛としていた。
そう、まるで物語の主人公のように、、、。
一方、バラン様はというと、確かにまじめな時とふざけている時のギャップがある人物で、セシリア様ほどではないが少しかっこよく見えた場面があったのも事実である。
、、、が、私とセシリア様は盗賊をおびき出すためのいわば餌として使われてしまったので、そこは釈然としないが、、、。
――うん、やっぱりセシリア様がNo.1かな、、、!
攻略対象だとか、そうじゃないとか関係なく、私のセシリア様に対する想いは日に日に強くなっていく一方なのであった。
◇
~実習終了後、生徒会室にて~
「おお、バラン。今回はご苦労だったな」
「いやいや、なかなか大変だったんだぜ?俺としたことが、盗賊に先制を許しちまった、、、」
生徒会室にはハリアーとバランの二人が話をしている。それ以外の者は特にいないようだ。
「なあ殿下、今回の事は貸し一つ、だからな」
「何を言っている?元々貴様が生徒会に顔を出さなかったから、そのペナルティであっただろう?」
「、、、へいへい、分かっていますよ、殿下」
仕方がない、そう言った表情でバランはハリアーに話す。
「それにしても、クロエちゃんも中々優秀な学生だったが、セシリアちゃん、、、あれはバケモンだな」
「ああ、貴様から話を聞いたときは俄かには信じられなかったが、貴様がする報告に間違いはない。それが事実なのだろうな」
「、、、ておい、新しいおもちゃを見つけたような顔をするな。お前の悪い癖だぞ?」
「わりいわりい、セシリア嬢ちゃんに興味が沸いちまった。生徒会に来るのも悪くないかもな」
バランは何かを含んだ笑い顔をしながら、ハリアーにそう話す。
「ああ、是非そうしてくれ。なにより、他の生徒に示しがつかない」
「へいへい、そうさせて貰いますよっと」
バランは扉の方へ歩きながら、ハリアーに右手を上げ、このまま帰宅するという意志表示をしている。
――クロエ、、、それにセシリア、か、、、
ハリアー以外誰も居なくなった机の上で組んだ手を額に当て、物思いに更けていた。